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2012/01/13

【レビュー】SHAME -シェイム-

かねてより「全編セックスだらけ!」と謳われている本作。通常ならば映画製作者たちは自作が厳しいレイティングを付与されることを嫌うのだが、本作はアメリカ公開の際にも問答無用で「NC-17(17歳以下は観賞不可)」を食らい、それに異議申し立てを行う者はいなかった。

その理由は本編開始直後に判明する。セックス描写どころか、主演のマイケル・ファスベンダーは隠すべき物も隠さず、なんのためらいもなく生まれ持ったものをブラブラさせながらカメラの前を横切っていく(日本公開版ではモザイクあり)。観客としては「あっぱれ!」と声かけたくなるほどの挑発的な場面だが、これはそのままスティーヴ・マクイーン監督(かの伝説的俳優とは全くの別人。彼はターナー賞受賞のアーティストでもある)の決意表明のようにも受け取れる。なるほど、我々はこの主人公ブランドンの生態を、人と人との限界境界線を越えてじかに垣間見ているのだ。そこでは「あえて隠す」ことのほうが作為的で不自然な行為なのかもしれない。

Shame
ブランドンはセックス依存症だという。バーで声をかけた行きずりの女性を抱いたり、コールガールを呼んだり、そして会社で我慢できなくなればトイレに駆け込んで自慰を決め込む。依存しているからには何か原因がありそうだが、この映画ではその核心部分が何一つ明かされない。いや、当の本人にとっても原因が欠落し行為だけが惰性的に繰り返されるからこその“依存症”なのだろう。

我々に与えられる手掛かりは原因や結果ではなく、そこに横たわる過程だ。

ナレーションだとか、狂言回しだとか、言葉としての説明もほとんど存在しない。我々はただ彼の生活を見つめることによって、そこにおぼろげながら追い詰められた精神的状況を浮き彫りにしていく。それは神秘的な輝きを放つニューヨークで、彼の心の奥底の恥部がゆっくりと観客だけにさらけ出されていく、そんな幻想的なフライトのようでさえある。

Shamemovie
と、そこに突如、キャリー・マリガン演じる妹が登場。その瞬間から本作は微かに不調和性が加味される。彼らは兄妹ゆえにお互いの過去を知っている。ふたりの間にはどうやら共通の記憶があるようなのだが、それについても具体的に詳述されることはない。ただ、彼女の投入によって観客は、永遠に続くかに思われていたブランドンの快楽性に一気にタイムリミットが内包されたのを察知する。限界がくると何かが弾け飛びそうな予感。なおも具体的なことはなにも語られないが、あらかじめ信管が抜き取られた爆発物とでも呼びたくなる作品の身体性が、観客の心理ををその内部に没入させてやまない。

我々はどこを走行中なのか、どこへ向こうのか。すべてはブランドンが通勤に使う地下鉄のように、ずっと進行形の状態なのだ。男と女が視線を絡ませ、薬指のリングを示しながらも構わず、手を触れずして危なげな駆け引きを続ける。そんなつかの間のアバンチュール。この街の闇はどんな汚物も隠してしまうほど深い。光は全てをさらけ出すほど眩い。人々はその境界線に佇むことで、生きながら死に、死にながら生きる。その繰り返し。

英国出身のスティーヴ・マクイーン監督がなぜニューヨークを舞台に選んだのか、その理由も気になるところだ。世界の金融不安の中枢ともなったこの地。今なお格差感是正を求めて多くが野宿し占拠するこの街。ブランドンの中毒に意識をそらされた我々は、そこに他にも数多くの"SHAME"が集約・象徴されていることを薄々と感じとるかもしれない。

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