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2012/02/18

【レビュー】ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

『リトルダンサー』のスティーヴン・ダルドリー監督が、新たな最強の子役と共に奇想天外なヒューマンドラマを放つ。それはジョナサン・サフラン・フォア原作からして小説の枠を飛び越えて受け手に多種多様な想いを喚起させる作品だった。

舞台となるのは9・11から1年後のニューヨーク。父を失った少年があの日の無慈悲な記憶と、創造性の飛翔との狭間に身をさらし、父の遺品から見つかった「鍵」をめぐって多くの人たちと出逢い、そして対話を重ね、父のメッセージに耳を澄まそうとする物語だ。このプロットから「まるでポール・オースターの小説のような」との想いを抱く人も多いだろう。

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本作に関しては複層的な次元の読み解き方があると思う。ひとつはサフラン・フォアの過去作「エブリシング・イズ・イルミネイテッド」(本作は『僕の大事なコレクション』という邦題で映画化されている)と同じく、作者のユダヤ人としてのルーツを探訪するという見方。つまりは人生において唐突に巻き起こる“受難”についての物語として、9.11を捉える見方である。

もちろんここではユダヤ人としてのスタンスはそれほど前面には押し出されず、むしろ多種多様な民族が同居するこの街でそれぞれの“痛み”を共有しあうことによってユダヤ性は中和されていく。それがサフラン・フォアの目論見のように思える。前作ではウクライナで見つかった答えが、今回はまさに“ありえないほど近い”ニューヨークに埋まっているというわけだ。

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もうひとつは、9.11により父を失った、もっと言えば、遺体も見つからず空の棺桶を埋葬するという儀式性のうちに父の消失を受け入れねばならなかった少年が、宙ぶらりんの虚無感を抱えつつ、どこかにあるはずと信じる“意味”を求めて手探りの冒険を繰り広げるという物語的次元だ。

彼は自身のどうしようもない想いをこう口にする。

「太陽が爆発しても僕らは数分間気づかない。まるでそのタイムリミットが過ぎ去るかのように、僕はもうじき、パパの不在を受けいれ、その思い出や温もりを忘れてしまいそうだ」

ある者はこの少年についてPTSDのようなものだと指摘するかもしれない。初年は「アスペルガーのテストを受けたこともある」と打ち明ける。「結果は否だった」とも。

このような症状に対処する心理学的アプローチとして、「あらかじめ予定されたストーリーに主人公として参加させる」というセラピーがある。付与されたストーリー(ミッション)に対処しそれを全うすることによって何かを発見し、何かを受け入れる道が開かれていく。これはM・ナイト・シャマラン監督作『レディ・イン・ザ・ウォーター』にも用いられていた手法だ。少年がニューヨーク中の無数の“ブラックさん”と身を寄せ合い、痛みを語りあう様は、ある種のセラピーのようでもある。トム・ハンクス演じる父親がかつて少年に課していた数々の冒険も、これに似たものと言える。

しかしながら少年は時にパニック障害のように感情を爆発させ、手がつけられなくなる。冒頭に「最強の子役」と述べた理由はここにある。彼は映画の主人公だからといって他人に媚びることをしない。生来溜めこんできた子どもとしての怪物性を存分にまき散らしながら突き進んでいく。ときに観客は彼のことを嫌いになるかもしれない。また嫌いになった自身に対してもひどく嫌悪感をいだくかもしれない。少なくとも僕自身がそうだった。

しかしその嫌悪感が絶頂に達しようというとき、この映画にはまるで観客と少年を救済する天使のごとく、ひとりの老人が顔をのぞかせる。セリフは一言もない。文字通り、恐る恐ると顔をのぞかせるのだ。

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その尊い存在こそマックス・フォン・シドーである。『エクソシスト』の最強の悪魔払いであり、『ハイジ』では世界名作劇場アニメで育った人にとってもイメージぴったりのおじいさん役を演じたその人。今年のアカデミー賞では助演男優賞にノミネートを果たしている。

彼の演じる人物はかつて経験した恐ろしい出来事により声を失ったと語る。伝えたいことはメモ帳に走り書きし、その両手には人間が成しうる最も容易なコミュニケーションの答え"YES"と"NO"が刻まれている。

これまで少年のモノローグによって言葉の飽和状態に達し傾き始めていた映画の軸が、微妙に修正される。この瞬間から本作は、言葉を超えた精神性の物語へと移行し始める。少年は旅の仲間を得た。不協和音はコードを見出した。それはすべてのあるべきパズルが見事にハマったかのような本当に心地の良い時間だった。

ひとつの経験は波及していく。「鍵」がどこへ行きあたるのかは秘密にするとして、少年にとってのセラピーとも思えるこの冒険譚は、やがて、彼にとっていちばん身近な存在との距離を縮めていく道を切り開く。

本当に大切なことは目には見えないし、いちいち言葉では表現されない。または簡単に手に入る答えなど存在しない。重要なのは答えではなく、その過程。そこで出会った人々と互いに何を感じ、何を共有できたか―

そんなメッセージを受け取れたような気がした。

って、こんな想いを文字に託している時点で’(私が)ダメなんですけれどね。

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