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2012/03/24

【レビュー】テイク・シェルター

あくまで映画だ。フィクションだ。しかしながら、この映画を観終わったあと、これまでに感じたことのないリアルな感触に身が引き裂かれそうになっている自分に気づいた。僕らはこの主人公の男を知っている。いつ災害がやってくるのか怖くてたまらないという彼。いざというとき家族を守れるよう自宅に頑丈なシェルターをこしらえようとする彼。まるで現代の「ノアの箱舟」だ。その不安がパラノイアかもしれないことも自覚している。それでも彼は突き進み、シェルターのために仕事を失い、家族さえも失いかける。それでは元も子もないと人は笑うかもしれない。

しかし震災後に生きる我々にとっては彼の心理が痛いほど理解できる部分もある。言うまでもなく映画製作とは企画から完成までに相当な時間を擁するもの。ようやく暗いトンネルを抜けた時には全く違う世界が広がっていることもある。どうやら僕らは、この映画の作り手が提示しようとした風景の、さらなる向こう側に暮らす住人となってしまったようだ。まずこの部分にこそ、我々日本人にしか視覚化しえない特殊な観点が浮き彫りになってくる。

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本作はアカデミー賞にもノミネートされるのではと噂された作品だ。アメリカやヨーロッパをはじめ世界の多くで絶賛と共に迎え入れられた。仮にそれらの国々における批評の型にあてはめて理解するならば、この映画はまず、現実かどうかも分からないハリケーンの悪夢、次から次に起こる異常現象(降りしきる黄色い雨、飛び交う鳥の大群、凶暴化する住民、浮かび上がる家中の家具など)の幻想に怯え逃げまどう主人公の心象に、世界的不況にあえぐ現代人の言い様のない不安を重ね合わせて提示したサイコロジカル・スリラーということができるだろう。海の向こうから聴こえてくるニュースではそうした不況の様子やサブプライム・ローンで自宅を失う人々の姿は映し出しても、彼らの心に渦巻くランドスケープにまで肉薄したことはなかった。

そして尚も高まる俳優陣への賞賛。これら日常の渦に飲み込まれていく主人公の男性カーティスを、ハリウッド大注目の俳優マイケル・シャノンが大迫力で演じている。スクリーンに映し出される彼の顔面演技ときたら、様々な特殊効果を駆使して描かれる異常現象にも増して超常的で、この演技に触れているとシャノンが現在製作中の新「スーパーマン」の悪役ゾッド将軍役に大抜擢されたのも大きく納得できるというものだ。このシャノンの勢いをもってすれば、鋼鉄の男をいとも簡単に向かい撃つことも可能だろう。

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また彼を支える妻サマンサを2011年は『ツリー・オブ・ライフ』や『ヘルプ』で大躍進を遂げたジェシカ・チャステインが清廉な魅力で演じきっている。夫の身に起こった変異に毅然と立ち向かい、言葉を無くした娘を抱きしめ、二人の尊い存在を決して手離さない。見方によっては彼女のほうが観客の共感を勝ち取った主人公とも言えるのかもしれない。

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果たしてカーティスの不安は的中するのか。それとも彼は世間の笑い者となるのか。彼が自宅の庭にこしらえたシェルターとは、具現化された彼の精神状況の象徴であり、崩壊寸前の心を補強する最後の砦なのか。そしてラストシーンの意味とは―。

震災後の日本ではえてして黙示録的な暗示として受け取られるかもしれないこのラストだが、その後のエンド・クレジットで流れる楽曲の歌詞を聞いていると、どうやらそれとは真逆の力強いメッセージが含まれていたことに気づかされる。

かつて『わたしを離さないで』の原作者カズオ・イシグロは自作について「人生は短い。しかし大切なのは、この短い人生をどれだけ意義あるものにするかということ」と語っていた。所与された条件は違えども、この映画『テイク・シェルター』も最終的には同じ結論に辿りついている気がする。我々は常に何か巨大な運命の嵐に怯えている。しかしながらその所与された条件下で愛する者たちの手を握りしめ、必死に走り続けなければならない。ある意味、それが人生そのもの、あるいは“懸命に生きる”ということの本意なのだ。

確かに日本人にとってはこの“所与”ゆえ、デリケートな映画となりうるだろう。けれど『テイク・シェルター』の作り手たちの目論見はそこではない。これは災害に怯える映画でもなければ、精神的に衰弱していく映画でもない。生きるための映画だ。逆説的に“生きる意味”を見つけて走り出していく映画だ。

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