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2012/03/10

【レビュー】シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム

どの業界でも同じことだ。“新しさ”が底をつくと、人々は「古典のリミックス」で一点突破を図ろうとする。コナン・ドイル原作の「シャーロック・ホームズ」が映画、英国ドラマ、米国ドラマと立て続けに変移を遂げているのも、そういう流れが多分にあるのだろう。企画にあたり「何を語るのか?」に力が注がれて時代は過ぎ去り、いつしか「どう見せるか?」が中核を成している。

つまりはワーナー・ブラザーズ版『シャーロック・ホームズ』シリーズの見せ方は、ロバート・ダウニー・Jr.という予測不能なヒーロー性をもってして、ガイ・リッチーのストップモーションを駆使した映像演出でミステリーとサスペンスとアクションを融合させていくというもの―

だなんて、小難しいこと考えてたら、「映画を楽しむ」というごく基本的な視点を忘れていた。ひとつ告白しておくと、筆者は2年前、このシリーズ前作に意表を突かれるあまり全くノレずに試写場を後にしたのだった。今回の続編もどうせ自分は発車バスに置いてけぼりを食らうのだろうと覚悟していた。ところがこの諦念が功を奏したのか、いざ蓋を開けてみると、これが非常に痛快に思え、ホームズとワトソンが対等に展開する丁々発止のやり取りに笑い、そして友情を超えた愛(?)に胸が締め付けられたりもした(『ハングオーバー』しかり、ワーナー作品はどうしてこんなにブロマンス系が多いのだろう)。

Sherlock
いや、それはさておくとして、今回は冒頭から緊張感に満ちた仕上がりとなっている。その導火線となるのはやはりこの男、ホームズ最大の敵モリアーティ教授だ。この重要な役を演じるのが我々映画ファンにはあまり馴染みのない英国俳優、ジャレッド・ハリス。彼はかの『ハリー・ポッター』シリーズの初代ダンブルドア校長役リチャード・ハリスの息子にして、シェイクスピア・カンパニーなどでかなり鍛え上げられた、映画界にとってみれば20年物の蔵出しモルト・ウィスキーのごとき怪しき芳香を放つ人物である。

そもそもこのモリアーティとは、何でも名解決に導くホームズにとっての正反対の電極、あるいは互いにその存在意義を打ち消すために生を受けた合せ鏡のような存在である。そしてホームズの得意技がガイ・リッチー版におけるひとつの伝家の宝刀ともなった“瞬間思考シミュレーション”であるとするなら、モリアーティも思考回路のどこかで同じシミュレーション回路を働かせている節がある。それらの先読み合戦がいつしか思考上のチェス盤での真剣勝負にまで昇り詰めるとき、我々は運命のクライマックス“ライヘンバッハ滝”に至るまでの道のりを“シャドウゲーム”と名付けることになるのだろう。

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ちなみに、すっかりおなじみとなったこのホームズの脳内シミュレーション映像だが、ガイ・リッチーによると「ファントムカメラ」というロケットの着火状況の確認などのために用いられる高速度カメラを駆使して撮られているのだとか。通常のカメラが1秒間に24コマ、25コマの静止画(その静止画の連続が動画を成す。それが映画の仕組みである)を捉えるところが、このファントムでは1秒間に最大700コマを捉えることが可能となる。それゆえあれほどのスローモーションであっても緻密で、飛び散る汗や筋肉のゆがみさえも逃さない細部の際立った映像表現が可能となるわけである。

本作のもう一人の登場人物としてホームズ好きにとって待望のマイクロフト・ホームズが顔を出す。名探偵の良き(?)兄にして、政府の重要任務を担った人物として歴史の背後で飄々と暗躍する彼。今回もホームズを助けているのか、余計に混乱させているのか、よく分からない風体で存在感を残す。英国では俳優、コメディアン、番組司会者としても知られるスティーヴン・フライがこの役を絶妙に演じている。

また、もうひとりの重要人物としてスウェーデン版『ドラゴン・タトゥーの女』のタイトルロールで全世界を驚嘆させたノオミ・ラパスが登場。初のハリウッド映画進出とのことだが、本作に対する評価の声はあまり聴こえてはこないものの、少なくとも記念すべき一歩を踏み出した姿を拝むことができる。

で、この多彩な人々が顔を合わせる『シャドウゲーム』に意外なほど魅了された筆者は、その後、あらためて前作を見直してみることにした。

まったく…面白いじゃないか!私は映画の見方が分からぬ馬鹿者である。ただ単に、新感覚のホームズとやらに慣れるまでに丸々2年間もの時間を要し、ようやく皆に追いつくことができた。もしかすると私がそうやって今頃「面白い」と口にしている瞬間、皆はもっと遠い地点にまで辿りつき、『シャドウゲーム』に関しては全く別の感想をいだくこともあるのかもしれない。それはそれ。これはこれ。

とにもかくにも、ワーナーはすでにシリーズ第3弾の製作を見越して脚本家を雇い済みという。果たして次回作ではどのようなキャラクターが行き交い、いかなる名推理が炸裂するのか。はたまたガイ・リッチーの映像趣向はどのように発展を遂げるのか。いまごろ『ホームズ』の楽しみ方を覚えた私は楽しみでならない。

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