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2012/04/21

【レビュー】捜査官X

1900年代の初頭、中国の片田舎でとある事件が発生する。二人組の強盗が老夫婦を襲い、そこに居合わせた寡黙な製紙職人ががむしゃらに割って入った結果、どうやら強盗ふたりとも絶命してしまったようなのだ。従業員は「もう何が何だか、とにかく必死で」と弁明するが、一方で警察の調査によるとその強盗はともに指名手配中の極悪犯だったことが判明。彼は一躍、この村の英雄となる。だが、ひとりだけ捜査官のシュウ(Xu)だけは、この事件に何か隠された真実があると確信していた。偶然にも強盗を殺めてしまったこの男は、そう見せかけているだけで、実は凄腕の武術の使い手ではないのか―。正義は絶対だ。真実のみをとことん突き詰める。そう心に誓ったシュウの執拗な捜査は、徐々にこの善良なる男にまつわるとんでもない経歴を日の目にさらすことにつながっていく・・・。

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香港時代に『君さえいれば/金枝玉葉』や『ラヴソング』といった名作を生みだし、最近では『ウォーロード』で時代劇アクション、また大ヒット映画『孫文の義士団』のプロデュースも手掛けた大物映画人ピーター・チャン。ハリウッド進出も経験している彼が監督を務めるだけに、本作は中国を舞台にしながらも実にヨーロッパ的な洗練された所作を兼ね備えたスタイル、ドラマツルギーで観客をひきつける。物語のつくりが中国内でなく海外に向いているというべきだろうか。現に本作は昨年のカンヌ国際映画祭でお披露目され、大きな賞賛を博してもいる。

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そのひとつとして挙げられるのが、この映画の主人公たる寡黙な男(ドニー・イェン)と捜査官(金城武)とがヴィクトル・ユゴー作「レ・ミゼラブル」で言うところのジャン・バルジャンとジャヴェール警視の関係性に踏襲している点だ。謎を抱えたドニー・イェンの役どころが実は武術の達人であろうことは、捜査官演じる金城武にも増してわれわれ観客のほうがよく知っている。そんな強靭かつしなやかな身体能力を備えた彼に、金城武がシャーロック・ホームズ(もちろんロバート・ダウニーJR.版)並みの推理ビジョンを駆使した飄々たる存在感で立ち向かおうというのである。そこに軽妙な化学変化が生じないわけがない。

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加えて、本作は観客に決してその尾をつかませない。このシンプルなふたりの対立軸が完成したかと思えば、映画はすぐさま表情を激変させるのだ。あらかじめページのあちこちに仕掛けられた”袋とじ的”なエピソードが順を追って開封され、それらが映画の本流とダイナミックな合流を果たしていく。いつしか観客は個と個の物語が思わぬスペクタクルに転じていく様にあっけにとられてしまうだろう。そこに伴う映像の雄大さ。大自然の中での緑と青と褐色の美しいコントラストにも息をのむ。

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また、数少ないメインキャストにアン・リー監督作『ラスト、コーション』のタン・ウェイが含まれているのも嬉しい。本作でドニー・イェンの慈愛に満ちた妻役を演じる彼女は、『ラスト、コーション』で見せたセンセーショナルな演技、その波紋を呼ぶ役柄などから、中国国内ではその女優生命がほぼ絶たれた状態が続いていた。しかし政府のおかんむりに反比例して、映画人の中には彼女の才能を買う声も多く、ほとぼりが冷めつつある今になってまずは香港での女優活動が再開されている。

その上、『片腕ドラゴン』のジミー・ウォングが13年ぶりに俳優復帰を果たしているのも見逃せない。往年の武侠アクション映画ファンにアイコン的存在として知られる彼もやはり、中国国内に比べ海外での訴求力のほうが高いのかもしれない。中盤に金城の妻役で登場するリー・シャオランも中国国内では上映される余地のないタブーを扱ったダイ・シージエ監督のフランス資本映画『中国の植物学者の娘たち』で知られる女優だ。

『捜査官X』はかくも中国内でXとされる未知なる要素を多分に抱えた映画といえるのかもしれない。それらのブラックボックスを最小限のプロットにかけ合わせることで、アジアから世界へ、統制と暴走の織りなす極上のマジックを見事なまでに照射しているわけである。

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