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2012/05/03

【レビュー】宇宙兄弟

根拠のない自信。この映画を観ながらそんな言葉が確かな体温を伴って浮かんできた。

いまや世界中の人々が元気を失い、空を見上げていた目線は徐々に高度を下げ、ふと気がつくと地を見つめていたりする。次から次に背中へ覆いかぶさる現実問題。夢は見るなと言われる。根拠はあるのかと問われる。データで示せと言われる。そのすべてをうおりゃーと一本背負いし、今なら何でも出来そうな気がすると、観る者を不可思議な高揚と自信とで包み込んでくれるのがこの『宇宙兄弟』だ。

兄弟は幼いころ、近所の自然を探検するうちに光る物体が宙を舞い月に向かって消え去るのを目撃する。その瞬間から彼らは宇宙の虜となった。将来の夢は宇宙へ飛び出すこと。それも二人一緒に。ふたりは週末ごとに宇宙事業施設を見学し、その説明の一字一句を覚え、来るべきときに向けて夢を追いかけ続けた―。

それからだいぶ月日が流れ、いま、弟は日本人初の月面探査クルーとして宇宙へ旅立とうとしている。対する兄は自動車業界で今日も車体の開発に勤しみ・・・これはこれで立派な人生だった。が、ささいなことがきっかけで兄は職を辞することに。頭にふと言葉が浮かぶ。「兄は弟よりも一歩先をゆかなければならない」。そうだ、彼はかつて、宇宙飛行士になりたかったのだ。彼は弟の説得もあって、次なる日本人宇宙飛行士を選抜するための一般試験に応募することとなる。そこで出会うライバルたち。過酷な試験。競争、そして友情。弟は月へと旅立った。兄は地上で再びその夢を掴もうと必死に前を見つめ続ける。果たして兄弟は、ふたり一緒に宇宙を目指すという夢を叶えられるのか―。

いまもまだ連載中のこの物語が映画化されると聞いて、期待とともに「どうまとめるんだ?」と不安を募らせている人もいるだろう。ただし心配は無用だ。漫画からアニメ、または映画へと形を変えたところで、この物語のベクトル、そして宇宙への熱いまなざしだけは露ほども変わらない。何よりも、真っ直ぐなこの映画を手掛けるのが、これまた真っ直ぐな高校野球映画『ひゃくはち』の森義隆監督というのも安心要因のひとつだ。

彼の采配の下、物語は弟の司る宇宙ミッションと、また一方、兄の司る地上での宇宙飛行士適正試験とが交互に展開。片やVFXを駆使して描かれる月面空間が壮大かつ神秘的に広がり、片や地上の室内で太陽の光さえ見ることなく候補者たちが凌ぎを削る“密室劇”が繰り広げられる。その強烈なギャップが両者の置かれた環境を輝かせる。いや、正直に言うならば、筆者は後者の“密室劇”にとても惹かれた。ここには何も特殊効果など存在しないが、6人にまで絞り込まれた候補者たちの誰もが秀でた存在感を放ち、その環境があまりにシンプルゆえに、小栗、麻生、濱田、新井、井上、塩見の人間性はまるで重厚な室内楽のような見事なハーモニーを響かせる。

また観客の多くは、すでに夢の淵まで辿り着いた弟に比べて、そこにしがみ付く資格を得ようと懸命にもがく兄の姿のほうに、より強い共感を抱くことになるだろう。そもそも夢を本当に実現できたと言いきれる人なんて人類の中でほとんど存在しない。多くはそれを諦めたか、いまだに追いかけている人ばかりだ。つまりは誰もが小栗旬とおなじ“ムッタ”として日々を生き抜こうとしているわけだ。共感が深くて当然だ。

そんな彼が面接で口にする言葉の数々が胸にしみる。彼は決して喋りの巧い方ではないが、耳を傾ける者を少しずつ巻き込んでいく意志力がみなぎっている。彼の口をついて語られる言葉のひとつひとつが実体のある確実な重力を持ち、この選抜試験を通じて彼は、冒頭のムッタとは比較にならないくらいの、いわばスーパー・ムッタへと変貌していく。その地に足ついた輝き方こそがスペクタクル。まさに小栗旬の懐の知れない演技力のたまものだろう。観客として「次はどんな言葉が放たれるのか」と楽しみでならなくなるし、その想いは、監視カメラの向こう側で試験官らが彼に魅了されひそかな期待を募らせる様と近似している。

そして思った。ここには「根拠のない自信」を成立させる条件が揃っている、と。データでもなく、論拠でもなく、それは人間の可能性というか、一瞬にして感じられる器の大きさとしても置き換えられるかと思う。あるいは人がこいつに託してみようと、無条件に感じられる尊さとも言えるのかもしれない。

逆に今の世の中の弱点とは、このムッタの「根拠のない自信」を振りかざせない空気が固まりつつある、ということなのかもしれない。我々はどうやって心の内側のシャトルを打ち上げ、空へ、宙へと、更なる高みを目指すことができるのだろうか。

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