« GW中の更新履歴 | トップページ | 昨晩の月 »

2012/05/07

【レビュー】London River

2005年7月7日といえば英国市民にとって忘れられない傷跡だ。この映画はそれに連なる慟哭と混乱の日々と、俄かに静けさを取り戻していく過程を描いた2009年製作のヒューマン・ドラマである。Londonriver

物語はテレビ画面が騒然とロンドン同時多発テロの模様を伝えるところから始まる。

一人娘がロンドンで暮らしている中年女性は、彼女のことが気になってすぐさま電話をかける。つながったのは留守番電話。「テレビ観てる?大変なことになったわね。。。あなたは大丈夫だと思うけれど、この留守電に気づいたら一度折り返して」 しかしいつまで待っても電話はかかってこない。胸騒ぎが止まらなかった。数日後、母親は自らロンドンに乗り込んでいくことを決める。

時を同じくして、フランスに住むムスリムの男は、長らく疎遠の息子がロンドンで行方不明になっていることを聞かされる。息子の顔も知らない。写真も無い。頼れるのはロンドンのムスリム社会のみ。英語もほとんど解さない彼は単身この都市で息子の消息をたどり始めるのだが・・・。

Londonriver_2
多くの映画がそうであるように、この"London River"も人と人との間を流れる大きな川の流れ(それは悲劇的な言い方をすれば“断絶”とも言えるのかもしれない)を浮き彫りにし、しかしそこには努力次第で橋が架かるのだという可能性を提示する。

中年の女性と、彼女とは肌の色も宗教も全く違うムスリムの男。やがて彼らはふとした偶然から出会い、警戒しながらも、互いに言葉を交わすだろう。はじめは恐怖と敵意に満ちながら。そしてロンドンを覆う靄がゆっくりと晴れるように、恐れは少しずつ取り払われていき、心の底に抱えていた想いを相手と共有するようになる。

River02
マイク・リー作品でもおなじみ、英国を代表する女優ブレンダ・ブレシンと、マリ共和国出身の俳優ソティギ・クヤテの織りなす距離感の醸成が人間の冷酷さと、絶望の淵から滲みだす他者への許容心を緩やかに描き出す。二者はそれぞれ別の対岸に立つ者でもあるが、同時に二人して大河の流れを共にする者でもある。タイトルの"London River"とは、もしかすると彼らの心の遍歴そのものを言うのかもしれない。

ちなみにクヤテは本作でベルリン映画祭の男優賞を受賞。その後、2010年にパリにて息を引き取っている。74歳だった。

監督を務めるのは、第2次大戦中にアルジェリアから徴兵された黒人部隊の物語『デイズ・オブ・グローリー』で高い評価を受けたラシッド・ブシャール。本作は舞台をイギリスとなしながらも、フランス系の出資で製作されている。『扉をたたく人』や『君を想って海をゆく』や『ぼくたちのムッシュ・ラザール』といった狭い日常から世界の果てを望むかのようなクオリティ・ムービーを愛する人ならば、きっと胸に響くものがあるはずだ。

この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

|

« GW中の更新履歴 | トップページ | 昨晩の月 »

【地域:英国発】」カテゴリの記事