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2012/05/01

【レビュー】孤島の王

気鋭の映画作家を多数生み出す北欧の大地からまたもやガツンとくる作品が届いた。と書くと、今度はどれくらい過激で尖った北欧映画なんだと問われるかもしれない。逆だ。これまでの概念を覆すほど静寂に包まれた自然環境の中で、魂を震わすドラマが徐々に醸成されていく。

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舞台となるのはノルウェーの洋上にクジラのように浮かぶ孤島バストイ。獰猛に打ち寄せる波。すべてを白く塗りつぶし、氷の下に閉じ込めていく雪。広がる風景はまさに“世界の果て”だ。ここには1900年から70年ごろまで少年更生施設が存在したという。そしていま、ひとりの問題児がこの地に足を踏み入れたことから、我々はその視点を借り、バストイに生きる少年たちの日々に深く切り込んでいくことになる。

そこでは院長による厳しい統制が敷かれる一方、寮長は寮長で子供たちを意のままに動かし自らにとっての王国を形成する。その渦中へ放り込まれた問題児。その行動には常に厳しい懲罰が加えられるも、彼の恐れを知らぬ大胆な行動の数々は次第に子供たちの間に“内なる自由”への渇望を芽生えさせていく。しかしそんな矢先、ひとつの悲しい事件が巻き起こる。子供たちの大人への信頼は地に堕ちた。今こそ立ち上がる時。それは彼らひとりひとりの中で溜まっていたものがついに噴き出した瞬間だった―。

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物語は1915年に起きた実際の事件をベースにしている。なるほど、ノルウェーの国民さえも知らなかったこの反旗のエピソードを現代に蘇らせることは確かに意義深いことだ。

本作を目の当たりにすると、ロビン・ウィリアムズ主演の『いまを生きる』で“死せる詩人の会”が見せた友情とプライドや、『カッコーの巣の中で』が提示した管理社会における心の自由というテーマとも相通じるものを感じる。また、この事件が1905年に起こった戦艦ポチョムキンの蜂起と時期を同じくしていたり、あるいはこの映画が製作された2010年はちょうどチュニジアを起点に中東世界に革命の嵐が押し寄せたターニングポイントであることも不思議な共通項として頭をよぎる。

しかしながら、僕の身体の中で芽生えた関心はこれとはちょっと角度を異にするもので、それは“孤島”というシチュエーションに関することだった。かねてより孤島の登場する映画は、それがそのまま主人公の深層心理の象徴としても受け取れることが多い。映画の表層=物語のレベルを縦に掘り起こすと、そこには極めて記号的な血流が見え隠れするのである。

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こと本作で言うと、少年たちが大人たちに最後通牒を突きつけ、この島からの脱出を図ろうとする行為は、まるで少年から大人への階段を駆け上がろうとする主人公らの通過儀礼としても受け取れる。このバストイの孤島はもう二度と戻ることのない少年時代の記憶の聖域であるかのようだ。

加えて本作では、劇中で“クジラ”というモチーフを用いて、島のこと、更生院のこと、社会の成り立ちのことを比喩的、象徴的に表現しようとする。このような間接的モチーフを用いることで、彼らの物語はやがて我々の物語にもなる。遠い昔の出来事は形を変え、我々の魂に直接的に語りかけてくるようになる。

またそのとき、あまりサウンドトラックを纏うことのなかったこの映画が、俄かにあのシガーロスの楽曲を響かせる。

そのあまりに荘厳で震えるような余韻が印象的だった。世界の果てで大人になる少年たちを祝福するにあたり、シガーロスほどそこに鳴り響いていてほしい音楽は他に存在しない。

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『孤島の王』に使用されているシガーロスの楽曲は"untitled #1"というタイトルです。アルバム「( )」に収録されています。

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