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2012/07/20

【レビュー】Electrick Children

さすがイギリスのミニシアター系チェーンがイチオシしているだけあって「ガス・ヴァン・サントとキャメロン・クロウは混ぜたような」と表現するにふさわしい独創的な良作だった。そのタイトル通り、オープニングに映し出されたクレジットからしてビリビリと電流のごとく小刻みに揺れている。かと思えば耳に響く波の寄せる音。やがて暗闇の中に髪を編んだ少女の後ろ姿がほのかに浮かび上がってくる。そこでガチャリ。テープレコーダーのボタンを押す音。と同時に画面には「ELECTRICK CHILDREN」の文字。この絶妙なるタイミングのセンスに心掴まれない人はいないだろう。

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ここはモルモン教徒の共同生活所。まるでアーミッシュのように祈りに満ち、昔ながらの穏やかな生活を送っている。そんな中で主人公の15歳の少女レイチェルはつい先ほど初めて目にした記録用カセットレコーダーのことが忘れられないでいる。あれは一体どんな仕組みなんだろう。そしてどんな音が閉じ込められているんだろう。それを管理する従兄弟の目を盗んで地下の保管庫に隠されたレコーダーをそっと再生してみる。大音響が起こった。これまでに体験したこともないような音楽の洪水が身体を貫いた。そしてレイチェルは処女懐妊した。彼女は自分の身に聖母マリアのごとく奇跡が起こったのだと幸福の極みの表情を浮かべる。しかし周囲の大人たちはとんだことになってしまったと困惑顔。いつしかレイチェルはコミュニティを逃げるように飛び出し、村にたった一台の車を暴走させて一路ラスベガスへ足を踏み入れる。生まれて初めて接する文明の街。文化の街。そこで出会ったスケーターの若者たちや、ひょんなことから逃避行に巻き込んでしまった従兄弟のミスター・ウィルを引き連れながら、レイチェルは自分の身体を貫いたカセットテープの歌声の主を探して彷徨うことになるのだが―。

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レベッカ・トーマス監督による瑞々しい映像感覚が全編を支配する。その鮮烈な感覚はこの映画の原動力たる少女の真っ直ぐな視線と意志の力と相まって、なお一層の瑞々しさと神秘性を加速させる。これまで一度も都会を体験したことのない少女の文化的な「ロスト・イン・トラスレーション」がここにはじまる。ライブハウスにこだまするパンキッシュな音楽、夜な夜なスケーターたちの滑走する音の調べ。どこからともなく聞こえる波の音。そう、この映画には音の恵が満ちている。これは誰もが人生で一度は経験する音楽の力によるロスト・ヴァージニティをファンタジックな次元にまで引き上げて綴った物語であり、なおかつ少年と少女たちの未来に向けて疾走するカミング・エイジ・ドラマでもある。

主演のジュリア・ガーナー、リアム・アイケンの浮世離れした存在感は格別だが、一方の自堕落なスケーター軍団の一員として何かとレイチェルの面倒を見続ける青年役ローリー・カルキンが実にいい。彼の目を見れば一瞬でわかるが、彼はマコーレー・カルキンを輩出したカルキン家の末弟だ。感情的に爆発しやすいが、いつしか胸にひめた想いを確信に変えて道路を疾走しはじめる彼。その表情には彼もまたひとりの少女に恋することで人生の未知なる領域に足を踏み入れていった冒険者である証がありありと見て取れる。

なお、本作でレイチェルに運命的瞬間をもたらすのはThe Nerveの懐かしき楽曲"Hanging on the Telephone"。レイチェルのみならず僕らも、このギター音と歌声が耳に届くだけで反射的に運命の胎動を感じずにいられない。久々に音楽の力を再確認させられる一本だった。

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