« 【NEWS】『最強のふたり』が記録更新 | トップページ | 【動画】スピルバーグ&ゴードン=レヴィット生出演中 »

2012/09/12

【レビュー】ウェイバック-脱出6500km-

ロードムービーと呼ばれるものがその移動距離に登場人物たちの心の移動をオーバーラップさせるのに対して、収容所や刑務所を舞台にしたいわゆる密室モノはその閉鎖空間に堆積していく感情の残骸にこそ心の変移が見て取れる。とするとシベリア収容所からの逃避行が壮大な旅路へと発展していく『ウェイバック』はその“閉所”と“旅程”の両ベクトルを併せ持つ、縦にも横にも壮大な深さを伴った映画と言えるだろう。

『刑事ジョン・ブック 目撃者』や『いまを生きる』、『トゥルーマン・ショー』などで知られるピーター・ウィアー監督が大手のスタジオの力を借りずに製作したこのヒューマン・スペクタクル。登場人物たちはシベリアからバイカル湖沿いにモンゴルへて這い出て、やがてチベットを越え、果てにはインドへ向けた旅路を展開。雪に閉ざされた森林地帯から身を遮るものが何もない砂漠地帯に至るまで極寒から灼熱を横断する全長6500キロの過酷な行軍は続いていく。

Thewaybackposter
この壮絶なランドスケープに敢然と立ち向かっていくのは実力派キャストたちだ。ジム・スタージェスが若きポーランド兵士を演じれば、コリン・ファレルはストリート育ちの小悪党、『トゥルーマン・ショー』で神のごとき役柄を演じたエド・ハリスはひとり度胸と知恵を兼ね備えたアメリカ人役、そして紅一点、『つぐない』や『ハンナ』でお馴染みのシアーシャ・ローナンはバラバラだった旅の仲間たちを俄かに結びつける少女役として力強くも神秘的な存在感を放つ。

彼らを迎え入れる大自然の脅威は計り知れない。こともなげに仲間の生命を奪い去っていく場面もある。しかしながらこの旅路には無益な殺生などひとかけらも存在しない。あらゆる場面に並々ならぬ生への渇望が満ちていて、観ているだけでとてつもない勇気が沁み入ってくる。それは彼らが生き地獄ともいえる収容所から一歩逃れたその瞬間から、全ての過程はただ“生きること”をひたすら目指した崇高なる挑戦に他ならないからだ。

それはこの苦しい現代を生き抜く世界中のあらゆる人々が辿る果てしない道程の象徴のようでもある。タイトルの"The Way Back"とはシベリアから大きく大陸を迂回しながら祖国ポーランドを目指した主人公をはじめとする、旅の仲間たちにとっての“帰路”を指すのだろう。しかし彼らにとっての真の意味での帰るべき場所とは一体どこなのか。

ラストで印象深く描かれるエピローグは、この6500キロの旅路の向こう側にも距離という物差しだけでは計りようもない時間の流れがあったことを伺わせる。ゴールは我々の想像以上に、果てしなく、果てしなく遠い。しかしこの映画の素晴らしいのは彼らが歩んだ一歩一歩の力強さにこそ「いまを生きる」ことを身体で表現したかのような魂の躍動が宿っている点だ。湖まで辿りつくこと、次の丘を越えること、次の一歩を踏みしめること。その一瞬一瞬の更新にこそ光をあて、観客の精神を旅路へいざなおうとする。

吹雪で身も心も温もりを奪われ、砂漠で体内の水分が干上がっていくのを感じ、空腹のあまりお腹だって度々鳴るかもしれない。『トゥルーマン・ショー』のように空の窓が開いて「カット!」と掛け声をかけたりなどはしない。でもそんな風景だからこそ見えてくるもの、逆説的に導き出される生への希求が確実に存在する。

あなたはこの旅の過程にどんな人生のヒントを見つけるだろうか。

この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

|

« 【NEWS】『最強のふたり』が記録更新 | トップページ | 【動画】スピルバーグ&ゴードン=レヴィット生出演中 »