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2012/09/22

【レビュー】これは映画ではない

この夏、「日本人よ、これが映画だ」というキャッチで大作ヒーロー映画が封切られたかと思えば、一方ではイランから「これは映画ではない」という控えめなタイトルの作品が届く。どちらが良いというわけではなく、かつて「東京は世界でいちばん多種多様な映画が上映される場所」と言われた時期に学生時代を送った身としては、この「映画か、否か」の多様性には久々に胸沸き立つものを感じずにいられない。

とはいえ、ここで述べるのはイランのジャファール・パナヒ監督による『これは映画ではない』についてだ。

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まず我々が知らねばならないのは次のことだ。パナヒは世界的に名の知られた名匠でありながら、数年前の大統領選の混乱のあと、当局によって「反体制的な映画を作ろうとした罪」により捕らえられ、収監及び20年間に渡る映画製作禁止が言い渡されている。これは表現の自由を求める世界の映画人にとって著しい権利の侵害である。各国の映画人や映画祭ネットワークからはすぐさま解放を求める声明が発表され、支援運動が展開された。

そんな状況に呼応するかのように、カンヌ映画祭にサプライズな贈り物が届いた。それはお菓子の箱に隠されたUSBデータ。そこには一本の映像作品が収められていた。映し出されたのは自宅軟禁状態にあるジャファール・パナヒ本人の姿だ。タイトルには次のようにあった―これは映画ではない。

はっきり言って、これは何も事情を知らない人がいきなり飛び込みで鑑賞して感銘を受ける類の映画ではない。事前に仕入れておくべき前提知識は多ければ多いほど良い。さらにパナヒの映画を一本でも観ていれば彼がどんなにイマジネーション豊かで、なおかつ持ち前のユーモア、人間に対して慈愛に満ちた眼差しを放つ人かうかがい知れるだろう。

そして映画製作禁止を受けて「これは映画ではない」と題された映像作品をこしらえてしまうという、まるで一休さんをも思わせる大胆な企てにも「なんてパナヒらしいんだ・・・」と溜息がこぼれる。

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人間は逆境であればあるほど最も高いハードルを飛び越え、その真価を発揮する。映画監督にとって「20年間の制作禁止」は死刑宣告に近い意味合いだったことだろう。けれどパナヒは飛んで見せた。彼がこのような手法で映像作品を発表したことが知れればイラン当局の怒りもさらに強まることが予想される。それでもパナヒは打って出た。これほどファンダメンタルな環境、素材、コミュニケーションを駆使して、驚くべきドキュメンタリーを作り上げた。

彼の書斎は恐竜にも似たイグアナがノソノソと跋扈し、外ではイランのお祭りで爆撃のごとき花火が打ち上げられ、マンション内では愛犬を誰かに預けて外出したい女性がにわかに執念を見せる。また管理人とともにエレベーター移動とともに紡いでいくダイアローグは、これが偶発的ではなく入念に準備された目を見張るシークエンスのようにも感じられる。狭い室内空間で、パナヒが脚本を朗読しはじめたり、突如、映画教室がはじまるくだりにも

この時代、世界的なフィルムメーカーたちの共通定義としてはどんなフォーマットであれジャンルであれ、そこに時と場所と時間が刻まれていさえすればそれは立派な映画であるし、パナヒほどの人物が本気で「映画ではない」と感じていたとは到底思えない。映画はいつ、どこにでも巻き起こるもの。禁止されても次々と沸き起こってくるし、考え方によっては映像に至らなくとも胸の中の想像力のスクリーンに映し出されたイマジネーションもそれに含まれるのかもしれない。映画製作を禁止することはイマジネーションの働きを禁止するということだ。とすると、当局にこれらを根本的に取り締まることなど不可能なのである。

本作は、むしろパナヒが愛してやまない“映画”の存在強度を確かめた作品と言えるだろう。この映画を見終わって次のような言葉がどうしようもなく胸にこみ上げてきた。

「だから私たちは、あなたのことが大好きなのだ」と。

そして日常の暮らしの中でどんなに逆境の淵に立たされたとしても、我々は常に自分自身に問いかけるべきなのだろう。「こんなとき、パナヒならどうする!?」と。きっとどんな高い壁であっても強靭なイマジネーションを駆使して乗り越えて見せるはずだ。忘れてはならない。この映像作品に触れた瞬間から、我々もパナヒの弟子なのだ。きっとこれまで以上の、イマジネーションの使い手なのだ。

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