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2012/10/09

【レビュー】アルゴ

アルゴ。その言葉が何であるのか、具体的に何を指すのか誰にも分からない。詳細を聞かれると誰もがニヤッとイタズラ坊主っぽい表情を浮かべてこう言うのだろう。「アルゴはアルゴさ!」。

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事の始まりは1979年にイランで巻き起こった革命のあらし、そしてアメリカ大使館人質事件だ。親米派で贅の限りを尽くしたといわれるパーレヴィ国王は国民の反発を受けてアメリカへ亡命。それを受けてテヘラン市民はアメリカ大使館を取り巻き、一斉に怒りの声を上げた。「逃げた国王を引き渡せ」と。門を乗り越えて雪崩れ込んだデモ隊によって館内は占拠され、大勢の職員らが人質となった。しかしこのとき、秘密の脱出口から外へと飛び出した職員らがいた。治外法権外に踏み出した彼らはカナダ大使公邸に助けを求め、潜伏生活をはじめる。が、そこは世界が注目するアメリカ大使館とは違い、人質交渉ルートからは全く外れたポケットのような場所。仮に潜伏場所が明らかになれば、市民の暴力はすぐさま彼らへと向かうだろう。CIAは彼らの生命を救うため脱出支援を専門とするひとりの男に白羽の矢を立てるのだが―。

そもそもベン・アフレック監督作の持ち味といえばドキュメンタリーにも似たリアルな触感を基盤としてストイックなドラマを綿密に構築していくところにある。本作でもそれは変わらない。特に冒頭のテヘラン市民が見せる怒りの表情。膨張して溢れだす感情の渦。運命に追われるように資料を焼却する職員の姿など、実際の現場にカメラが居合わせたかのようなボルテージで綴られる。

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かと思えば、これまでのアフレック監督作には見られなかった緩急の緩の部分が気持ちよく突き刺さる。事実は小説よりも奇なりと言われるが、この映画はその好例だ。主人公のCIA職員(ベン・アフレック自身が演じる)に託された使命は現地に乗り込み、カナダ大使公邸に匿われた職員らを連れて国外へ脱出すること。そのためにはまず職員の肩書を偽装しなければならない。英語教師は現実的ではない。赤十字もだめ。そこで全ての運命を決定づけたのは息子との電話での会話中にテレビに映し出されていたSF映画だった。「そうだ!SF映画の撮影スタッフになりきろう!」 そのためにはディテールも重要だ。彼はハリウッドとのパイプを活用しプロデューサー、脚本家、特殊メーキャップアーティスト、出演者、そしてマスコミを招いての製作発表まで展開させて「実際には作られない映画」のお膳立てを進めていく。そのフェイク映画のタイトルこそ『Argo(アルゴ)』に他ならないのだ。

焦燥と翳りとで彩られたリアルなテンションのはざまに映り込むこれら煌びやかなショービジネスの世界。プロデューサー役のアラン・アーキンや特殊メーキャップ技師役のジョン・グッドマンが一世一代の大勝負に挑むべく活き活きとした表情を浮かべる光景が印象的だ。そのテイストは本作のプロデューサーを務めるジョージ・クルーニー&グラント・ヘスロヴが最も得意とするジャンルでありながら、『ヤギと男と男と壁と』ではやや現実から足腰が浮いて見えたように、彼らにとってもこれまでなかなか辿り着くことのできなかった境地だ。つまりアフレックは彼らと組むことで軽やかに自分の限界と彼らの限界の両方を超えてみせたのである。

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こうしたを史実を解き明かす面白さ、語り口の巧妙さに加えて、本作は映画独自の輝きを放ついくつもの瞬間をも内在する。たとえばイラン当局の映画ロケーション案内人が見せる映画への無邪気なまでの愛情は、国と国とが睨み合う状況下でも通じ合う価値観があることに気付かせてくれる。ささやかだけれど重要なシーンだ。

また、ベン・アフレック演じる主人公が自らの危険を顧みずイランに侵入し使命を全うしようとしたのは、それはいちばん身近にいたいのにいてあげられない息子への愛情の証だったように思える。彼だけじゃない。ここにいる誰もがフェイク映画「アルゴ」のストーリーラインと現実の状況とオーバーラップさせながら、自分ではない何者かになりきる(=演技する)ことで知恵と勇気を振り絞ろうとする。

幻のままで幕を閉じる映画。世間に称えられることのなかった極秘作戦。一度は政府から見放された人質。そして立派な父親になりきれない父親。もらったらすぐに返却しなければならなかった名誉勲章。

歴史とはかくも実態のない”何か”で彩られている。本作は何かに成りきった者たちが「アルゴ」の名のもとにスクラムを組んで一点突破を目指した物語なのである。

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