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2012/12/19

【レビュー】愛について、ある土曜日の面会室

この女性監督おそるべし。本作『愛について、ある土曜日の面会室』を撮ったとき、レア・フェネール監督は弱冠28歳だったという。2009年の作品なので今は31歳となって、益々研ぎ澄まされた感性を身につけているに違いないが、まずは日本人としてこの初上陸する本作を受け止め、新しい才能の開花を遅ればせながら祝福しなければならない。

その語り口は時に老成した巨匠監督のような落ち着きと、初恋に落ちた少女のような感性とを併せ持つ。主人公は複数に及び、年代も性別も国籍もバラバラ。しかし誰もが切実な思いを抱えて、いま、刑務所の面会室の扉を押し開けようとする。その構成的に見ればアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(『バベル』『アモーレス・ペレス』)やポール・ハギス(『クラッシュ』)などの群像劇の名作を彷彿とする人も多いはず。個人的には『そして、全ては愛に帰る』のファティ・アキン作品などの記憶も蘇ってきたりした。

結論から言うと、この映画は最初と最後の場面が面会室で括られている。バラバラな人生を歩んできた主人公たちが、最後に同じ室内でそれぞれの面会時間を享受するのだ。綴られゆくエピソードはその瞬間に向けてのカウントダウンと見ても良いだろう。

今日も彼らは塀の向こう側に暮らす大切な人たちと再会を果たす。しかしながら最後の場面は序盤から幾度も繰り返されるルーティーン的な面会とはひと味違う。ここでは静かに、けれどダイナミックにドラマが動く。人生が動く。たかが30分、たった30分の面会時間に全てを賭けて臨む人たちの肖像がここに浮き彫りになってくる。このカメラの切り返しも難しい手狭な空間の中でいかにエピソードを集約させ、それぞれの人物たちを何らかの決着へと導いていこうとするドラマツルギーにはゆっくりと、しかし深く観客の鼓動を強めていく骨太さがある。

そしてエンディングで巻き起こるひとつの出来事を目撃することで観客の心は大きく動揺させられ、同時にこの面会室を境界線として構成される塀の向こう側とこちら側という二分律は何ら意味を持たず、むしろ「面会室」という装置は互いを鏡面的に映し出す鏡のような存在だったことに気づかされるのだ。

なるほど、そういえば我々はこの映画の中で一度たりとも牢獄の中を垣間見ることはなかった。と同時に観客は、塀のこちら側(お天道様に顔向けしている側)に暮らす登場人物たちの姿にも“人生という名の牢獄”と呼ぶにふさわしいそれぞれの悩み、慟哭、ジレンマが存在することを認識させられる。

何よりもあのラストシーンで、人々が面会を終えて世の中へと戻っていくその背中が忘れられない。本来ならば整列して牢獄へと帰っていく囚人の後ろ姿こそが似合う場面だったはずだ。しかしあの瞬間にあえてこちら側を映し出すという趣向。世界は“あの時”、スイッチしたわけではなかった。あちら側とこちら側とはまるで天秤にかけられたかのように同質で、あの時、観客はそのことに深く気づかされたのだ。

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