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2013/02/15

【レビュー】ゼロ・ダーク・サーティ

これまでの常識で考えれば、この題材、まずはテレビや新聞、ネットメディアの取材班か軍事ジャーナリストなどによる入念なる潜入ルポなどを経て、少しずつ広がり始める運命だったはずだ。しかし今回、何よりも早く真実へと足を踏み出したのは、ほかでもない“映画”だった。それも『ハート・ロッカー』でタッグを組んだ監督キャスリン・ビグローと脚本家マーク・ボールという最強の組み合わせ。

彼らはもともとオサマ・ビンラディン追跡作戦を題材にした作品を構想中だった。その矢先、ご存知のように、オバマ大統領による「ビンラディン殺害」の報が世界中にもたらされた。映画界はすぐさま彼らの動向に注目。ビグロー&ボールはこの機を逃すことなく、2001年9月11日から続いてきた悪夢の終焉を映画としてすべてを描き尽くしたいとして試行錯誤をはじめる。そして『告発のとき』や『ハート・ロッカー』の原作となった雑誌記事で名を馳せたジャーナリストでもあるマーク・ボールが関係者に執念深く取材を重ねたことで、この驚愕のストーリーがその輪郭を現し始めることになった。大統領選の折には共和党陣営から「機密情報のリークが行われたのではないか?」との糾弾の声があがるなど舞台裏でもヒートアップ。

そうしてようやく人前に曝け出された『ゼロ・ダーク・サーティ』は、その硬質な触感と共に、時にヒヤリと鋭利な刃物を突きつけるかのような緊張感を強いる異色作に仕上がった。『ハート・ロッカー』で評価を得た「限定された視座から見つめる戦場」の方程式をここでも大いに応用させ、そこにある“感情”を炎天下のフライパンでカラカラに干からびさせるほどに追い詰め、焦がしていく。

そこで知らされる、この作戦の裏側にひとりの女性分析官の存在があったという事実には衝撃が走る。最初は人権無視の事情聴取に目を背けて頼りなさそうにも見えたヒロインが、やがて仲間を失い、追随するテロを抑えきれず、時間ばかりが無意味に流れ行く中でどんどん焦燥し、目の奥にギラツキを覚え、男社会の中で上司にさえも恫喝しながら、ふいに手にしたほんの一筋の絹糸のごとき覚束ない手がかりを、10年の歳月を重ねながら執念深くたぐり寄せていく。

ヒロインを演じるのは毎年のアカデミー賞の常連と化したジェシカ・チャステイン。彼女と同僚の女性分析官の女の友情がこのミッションに及ぼす精神的な着火の意味合いは非常に大きく、また翻るとこの『ゼロ・ダーク・サーティ』という映画自体が、主演のチャステイン、監督のキャスリン・ビグロー、それに億万長者の娘にして20代にして数々の作家性の強い映画監督たちの作品を支えるパトロン的存在にまでのし上がったミーガン・エリソンといった3人の女性たちによる強力な共闘関係によって織り成された果実であることも忘れてはならない。

また、ヒロインと併走し、バックアップする男優達も巧みな助演ぶりをみせる。その多くは適材適所といった形でチャステインの生息する現場に入れ替わり立ち替わり顔を出しては次にバトンをつなげていく。彼らが入れ替わることによってそれだけの歳月の過ぎ行く早さを表現し、その反面、ずっとそこに生息し続けるヒロインの「変わらなさ」を際立たせる。

サスペンス・アクションだからといって、爽快感などは存在しない。ニュースで聞き慣れた事件や背景であるにもかかわらず、終止何が起こるのか心臓が警戒しっぱなしだった。足が震えた。そしてカメラはラストの不気味な静寂をたたえる真っ白な建物へと、暗視スコープにて足を踏み入れていく。ここに至るまで、執念深く点と線をつないでいった彼女が挑む大博打。映画ゆえの脚色部分が幾らかある可能性を抱えつつも、とにかくニュースが伝えられなかった真実(そうは言っても、本当の意味での客観的な真実に辿り着ける者など誰もいないのだが)に近づける意味において、150分、観て損はないリアル・スリラーとして讃えていいだろう。

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