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2013/03/27

【レビュー】イノセントガーデン "STOKER"

『イノセントガーデン』という英国庭園風な、ともすれば韓国ドラマ風にも思える邦題が付けられているが、原題は"STOKER"。これを見ると瞬間的にアンドレイ・タルコフスキーの名作やロビン・ウィリアムズ主演のサイコサスペンス、果てには「ドラキュラ」を執筆した作家ブラム・ストーカーなども思い浮かべる人もいるだろうから、映画業界にとっては少々厄介な原題かもしれない。ちなみに本作の中では巨大な屋敷に暮らす主人公一家の“名字”として掲げられる象徴的なものだ。

Stoker
この家族、といっても母と18歳の誕生日を迎えたばかりの娘といったふたりなのだが、なんだか変。そもそも物語が始動すると同時に怪死した父親の葬儀が行われているし、母親は夫が死んだのにそれほど落ち込んだ様子でもない。娘に至ってはそれが生まれ持った性格なのか、常に気難しい顔をして自分の精神世界に埋没している。

そんな彼らの元に“死んだ父の弟”を名乗る男性が現れる。これまで実家に寄り付かず、世界中を放浪して暮らしてきたのだそうだ。完璧な容姿、それに優雅な物腰を併せ持つ彼が「しばらくここに居てもいいかな?」と切り出したことで一家の関係性は少しずつ変容していく。しかしその分、彼らの周囲ではおかしな事件が立て続けに起こる。登場人物の言を借りれば「周囲から人が消えていく・・・」のだった。果たしてストーカー家では何が起きているのか。そしてこの奇妙な伯父さんの目的、そして正体とはー。

監督を務めるのは『オールドボーイ』などで知られる韓国の奇才パク・チャヌク。これがハリウッド初進出作となるわけだが、それにしても今回、彼はあまりに高い評価を手にしている。まさに観客がアジアの枠組みではなく、ワールドワイドな物差しでもって彼の真価を計る機会が訪れ、それが見事に結実したというわけだ。

Stoker02
まずもってその映像美に圧倒される。冒頭、シャッターを切るかのように一瞬停止しては再び流れ行く映像世界に、主人公の少女のモノローグがかぶさっていく。そもそもシークエンスとは瞬間の点描であり、また一連の淀みない流れでもある。18歳の誕生日を経て生まれ変わった彼女の意識も、そして人生もまたこれに同じ。そんな理解が冒頭とクライマックスに2度、観客の中の滝壺へと華麗に流れ落ちてくる。

韓国時代には壮麗な音楽のもとで時にこれ見よがしにも思えることもあったパク・チャヌクの映像演出だが、本作ではクリント・マンセルのピアノ曲が耳に小鳥のさえずりのようなささやかな刺激を与えながら、それが見事に血肉化されてひとつの身体の中に結実していく。誕生日ケーキを彩るロウソクの煙。道路に伸びる黄色の標示、庭園を包み込む緑。屋敷内の暗黒。足下から忍び込む蜘蛛。人混みを掻き分けて紡がれる視線と視線の交錯。そしてパク・チャヌク作品では珍しいほど一点集中的に炸裂する鮮血ー。

ほんのワンシーンを撮り上げるのにどれだけの趣向が、芸術性が詰まっていることか。そのすべてが調和して川のように流れ行く。それでいてこの映画は観客に、我々の向かうべき場所をも決して見失わせない。ヒッチコック的なミステリーの様式を保ちながら、気品豊かに終着地に向けたダンスが旋回していく様は極めて心地よいものだ。

また、この映画で少女は言う。「私はとても耳がいい。遠くのいろんな物事が聞こえてくる」。その言葉通り、彼女の耳は視覚に先行して様々な音をキャッチする。その意味でも本作における“サウンド”は非常に重要な位置を占めている。つまりは18歳になったばかりの少女の心理状況を視覚的、聴覚的、そしてひとつの鮮烈な寓話世界において覗き見て、なおかつ体感するのがこの"STOKER"という映画なのだろう。

と同時に、この広大なストーカー家の屋敷がそのまま家名に潜む闇やヒロインの血、そして深層心理をめぐる迷宮でもあることを、観客は深く飲み込みながらも、その結果、何にも増して静かに茂みに分け入るおぞましくも神秘的な筆致に目が眩み、なおかつ陶酔してしまうことだろう。

Stoker03
え?例の奇妙な伯父さんの正体は誰なのか、って?

それに触れる事は本作の結末を明かすことにも繋がるので、ぜひご自分の目で見極めてほしい。

ちなみに本作の原案と脚本を手がけたのはTVシリーズ「プリズン・ブレイク」の俳優ウェントワース・ミラーだというから驚きだ。彼は一発屋として消えてしまったのかと思いきや、ずっと脚本を書いていた。そして本作が「どうせ俳優が書いた脚本だろ」と一蹴されてしまうことを恐れてペンネームで発表した。その結果は見ての通り。最初は1プロットだけ自分で書いてみようと始めたところ、結局最後まで書き上げてしまったそうだ。

先日ニューズウィークを読んでいたら彼のインタビューが掲載されていた。面白かったのは「プリズン・ブレイク」時代に多くの仕事人たちと一緒にやれたことで多くを学んだと語っていたこと。彼の周囲では毎回、脚本家たちが複雑なプロットを繋ぎ合わせてブレスレスな展開を作り出していた。そんな仕事ぶりに自ずと実践的なドラマの紡ぎ方を学んだそうだ。

なるほど、人生とはやはり、様々な点描の積み重ねのようなもの、らしい。無駄な瞬間など何一つ存在しない。


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