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2013/03/28

【レビュー】シュガーマン 奇跡に愛された男

あらゆる時代において人は自分に与えられた使命を精一杯に全うしたいと願う。そしてそれが叶う者もいれば、叶わずシーンから消え去っていく者もいる。ロドリゲスと呼ばれたアーティストは後者の典型だった。

60年代、彼はデトロイトの街角にギターを抱えてフラリと現れた。彼の奏でる鮮烈な音楽はプロデューサーの目と耳に留まる。寂れたバーの、タバコの煙が立ちこめるその向こう側から聞こえてきたのは、心に突き刺さるリリック。そして胸を揺るがすギターの音色。プロデューサーらは「これこそ探し求めてきた音楽だ!」と確信する。しかし現実は厳しいものだった。肝入りで製作されたロドリゲスのアルバム2枚はいずれも鳴かず飛ばず。契約は打ち切りとなり、彼は音楽業界から消えていく。彼を知る者の間では実しやかな伝説だけが伝えられた。ロドリゲス?ああ、どうやら彼は、ライブの途中で拳銃自殺を計ったとかー。

Sugarman
ドキュメンタリー映画『シュガーマン 奇跡に愛された男』は、原題の"Serching for Sugar Man"そのままに、ロドリゲスの“その後”を辿る旅である。けれど、これは決して敗者の弁を聴きにいく旅ではない。というのも、ロドリゲスが不在のうちに事態は大きく動いていたから。彼は確かにアメリカでは不発だったが、彼の音楽は時代を超え、国境を越え、いつしか南アフリカにてアパルトヘイト撤廃運動の象徴的楽曲として人々の心の中で鳴り響いていたのだ。

後半はそのロドリゲス本人の消息を追い求めて、点と線を繋ぐロードムービーとしてカメラは大陸を果敢に行き来していく。人は「奇跡の映画」と言うかもしれない。だが、この映画は2段構えの驚きで出来ている。

ひとつは我々がまだグローバルという言葉の意味を知らなかった時代、国境がまだまだあまりにも高くて乗り越えられなかった時代に、本国アメリカで苦杯を舐めた楽曲が遠い遠い国を苦しみの過去から解き放ったソウルソングとして絶大なる支持を集めたという事実。筆者はこの顛末に、かつてドラえもんの映画にあったような「畳の向こう側に広がる別の惑星では、のび太も無敵のスーパーマン」といった人生大逆転のカタルシスを彷彿とした。この星のどこかにはきっと自分の才能を理解してくれる人がいる。そうだ、頑張れば報われるのだ。よし、俺もこの奇跡を信じて、精一杯がんばってみようじゃないか!

そんな安直な感慨は、ふたつめの驚きでガツンとやられる。それはロドリゲスの生き方にあった。彼自身はあまり多く物事を語らない。その代わりに彼の音楽が存在し、そしてサングラスをかけた彼はいつも優しく微笑んでいる。クライマックスで明かされる彼の子供達が語るエピソードには胸が震えた。父がどのようにして自分たちを育て、生きてきたのか。決してヨイトマケの歌のように寝食惜しんで働き続けたことを強調するわけでもない。

なんと彼は2枚のアルバムをリリースして撃沈した後も、別段変わりなく穏やかに暮らし続けたというのだ。彼の人生においては絶望も、成功も、挫折も、屈折も存在しない。あともう2年続けていたら、という後悔さえもまるでない。彼には自分の音楽活動のために子供らを犠牲にしようなどといった想いは毛頭なかったのだろう。そして彼にとって音楽とは、別に売れようが売れまいがスタンスに違いのない、日常の中のテラスから注ぎ込む日差し、美しいものに触れたときの微笑みと同意語のような表現手段だったに違いない。しかし逆説的にいうと、だからこそ彼の人生にはクリエイティビティを失う瞬間など一度もなかったのだ。

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そのことは彼の娘たちを見ていてもよくわかる。彼女らは父について「貧乏なはずなのに、必要なことには惜しまずお金を費やしてくれた。時間があれば美術館や博物館につれていってくれた」と語る。彼女たちが楽器を弾けるのか、あるいはソウルフルな歌が歌えるのかについては分からないが、ロドリゲスのアーティスティックな感性は別の形で受け継がれていることが、その表情、発言、服装、自宅の調度品の数々から自ずと伝わってくる。

また、ロドリゲスと一緒に建設現場で働いていたという男は、「彼はいつもジャケットを羽織ってきちんとした身なりで現れた」と語る。まさか隣で汗水垂らして労働していた同僚がそんなに凄いミュージシャンだったなんて、彼は想いもしなかっただろう。けれどそんな事実について同僚は素直に「嬉しかった」と語る。その瞬間に、なぜだか分からないが、筆者の目から涙がこぼれた。

身近なところに神様はいる。そして本当の神様は、自分が神様であることすら気づかずに、いつも笑顔で、苦を語らず、穏やかに笑っている。『シュガーマン 奇跡に愛された男』が示す最も大きな奇跡とは、革命やセンセーションではなく、ロドリゲスがそのようにして生きてきたという人生の証だ。誰もがそう生きたいと願う。しかしそう簡単にはいかない。"Serching for Sugar Man"とはそんな、神をめぐる宗教的な物語のようにさえ思えてくるのだ。

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