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2013/04/05

【レビュー】アントン・コービン 伝説のロック・フォトグラファーの光と影

つい1ヶ月ほど前に英国を訪れた際に、街角のCDショップでオススメDVDとしてピックアップされていたのがこの作品『アントン・コービン 伝説のロック・フォトグラファーの光と影』だった。 このチョイスに、ああ、さすがU2やデペッシュモードのお膝元なだけあって、彼らの伝説造成に大きく寄与した写真家アントン・コービンの存在はこの国で揺るぎないものがあるのだなと感じたものだった。もちろん、コービンといえば『コントロール』や『ラスト・ターゲット』という映画作品でもお馴染み。最近ではジョン・ル・カレ原作の"The Most Wanted Man"の映画化に取り組んでいるとの報も聞かれている。

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本作はひとりのドキュメンタリストがオランダ出身のこの稀代のロック・フォトグラファーとの4年間に渡る交遊のなかで密着して撮り上げたドキュメンタリーだ。84分に及ぶ上映時間にはその関係性の積み重ねを強調するシーンがこれ見よがしに刻まれているわけではなく、冒頭に映し出されるソファに寝転ぶコービンに代表されるように、そのゆったりとした雰囲気の中で醸成されていくアートへ真向かう意識と、一瞬の心の閃光を見逃さずにキャッチしようとする求道精神とを、あくまで自然体で汲み取った作品だった。

U2のボノは語る。

「我々は究極的に同じなんだ。常に“光”を追い求めている。やり方が違うだけだ。僕らは音楽で、アントンは写真で・・・」

光という言葉には宗教的な側面がつきまとう。ボノの一言がまるでコービンの求道者としての側面をフォローアップしていくかのようだった。コービンは一カ所に留まることなく、常に国から国へと移動しつづけ、旅先では写真に最適の構図やすべてが完璧に調和した光を求めて放浪し続ける。基本的に寡黙で、自我を露にすることに何ら興味がなさそうな彼の姿は、巡礼者のようにも思える瞬間がある。

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これまであまり語られなかったコービンの過去が興味深い。彼はオランダの牧師の息子として生まれた。両親は常に世界中のあらゆる隣人たちの不幸を背負い込むかのように多忙に追われていたという。その時の思い出について「嫌だった」と語る彼。それはそうだろう。両親の愛情を独占したい時期に、両親の目には全ての隣人たちが平等だったのだから。しかしそれゆえに、コービンは徐々に自分の世界に閉じこもり、自分なりのやり方で世界を見つめる術を習得していったようだ。それが今の彼の成功を形作る原点となった。

すでに名声を獲得したコービンがかつて亡き父に尋ねた質問が印象的だ。

「父さんは僕の仕事のことをどう思ってる」と訊くと、父は「おまえたちみんなのことを誇りに思っているよ」と答えたという。このエピソードを明かしてコービンはちょっと空を見つめる。

この表情をどう受け取るかはひとによって異なるだろう。 僕は、きっとこのときコービンは、父親に褒めてほしかったんだと思う。「良くやったな」とか「お前を誇りに思うよ」とか、そんな言葉だけで充分だった。自分のことを見て欲しかったんだと思う。けれど父は究極的に「おまえたちみんな」として、決して特別視することはなかったのではないだろうか。

ロックミュージック界において伝説的イコンともされるアントン・コービンの作品群が生み出された裏側には、そのような精神性の遍歴があったのだ。

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U2のボノはこうも語る。

「アントン・コービンによって撮られた自分の写真を見て、アーティストは皆、こんな自分になりたい、と思うんだ」

それはまるで父親がこどもに目指すべき人間像を指し示してくれているかのようでもある。もちろん、コービンにそんな大それた意図などからきし無いのだが、単なる結果論であったとしても、彼の写しとるポートレートにはそんな魔法が、そして光が宿っているのだった。

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なお、本作には、彼が突如すべての仕事をキャンセルして自分だけの時間を持つ(その間の映像が撮られていないので、恐らくカメラも追い出したんだろう)というくだりが添えられている。

その後、撮影を再開したとき、彼は少しだけ変わっている。これまでずっと孤独を抱えてきたが、これからは少しずつ絆を温め、根を張った関係性を構築して行きたいんだと口にする。これまで自分の外側に光を求めていた彼が、いつしか自分の内側にこそ光を見出さねばと、放浪をやめてその場に立とうとしていた

何が彼をそう変えたのかは分からない(このドキュメンタリーの存在はその答えの一片を担うのだろう)。これから彼の新たな人生のチャプターが幕を開ける。そんな予感に満ちた清々しい表情が印象的だった。

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