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2013/06/13

【レビュー】華麗なるギャツビー

古典作品は一概にクラシックと類別されがちだが、実はこの「クラシック」という言葉を紐解くと「傑作」や「最高級品」、そして「歴史に残るもの」という意味が飛び出してくる。つまりこの言葉を付与されたなら、時空を貫き永遠の魂を持つことが約束されるというわけだ。となると、クラシックはもはや堅苦しさの代表格などではなくなる。また我々にとってクラシックは、オリジナルの味わいを堪能できるのと同時に、それらを現代の感覚で翻案、あるいはリミックスして楽しめる、まさにひと粒で二度美味しい食材とも言えるだろう。

リミックスの魔術師といえば、今回の『華麗なるギャツビー』のバズ・ラーマン監督をおいて他に右に出るものはいない。ある人は「ジョー・ライトがいるじゃないか!」と訝るかもしれない。確かに『プライドと偏見』や『つぐない』の彼ならこのフィツジェラルドの物語にまた別の光を照射できたろう。しかし『ギャツビー』にはある種の映像としてのスケール感が不可欠だ。特に1920年代におけるあのジャズ・エイジとも言われた狂騒のアメリカ。そこには戦争から帰還した人たちによる無軌道なまでの生の謳歌があり、なおかつ玉石混合のいかがわしさも漂っていた。誰もが力つきて倒れこむまで踊る。踊り狂う。そして間もなく大恐慌がやってくる。その直前の一瞬の光。

この踊りの熱狂と、息切れ感をアイコンとして刻むにあたっては、『ダンシング・ヒーロー』でその才能を世に知らしめて以来、『ロミオ&ジュリエット』や『ムーラン・ルージュ』などで独自の演出術を構築してきたバズ・ラーマンに一日の長がある。本作では特にジャジーなサウンドが時に横乗りのスウィングからタテ乗りのジャンプステップへと変わるあたり、それに超満員のダンスホールで相変わらずカメラが頭上を滑空し、俯瞰し、豪速球で人の波を掻き分けて目線を紡いでいくあたりに、ラーマンのお家芸(それが大嫌いと主張する人も多数いるが)が見て取れる。これらが実際にはNYではなくシドニーでセットを組んで撮られているのを差し引いても、充分お釣りがくるくらいだ。

原作に触れたことの無い人のために『ギャツビー』を一言で表すならば、それはディカプリオ演じる“謎の富豪=ジェイ・ギャツビー”の時代遅れともおぼしきイノセントかつピュアな恋心を描いた作品ということになる。そして“語り手”も重要だ。ひょんなことからギャツビーの隣家に越してきて、彼との友情を育むこととなるニック・キャラウェイ役を『スパイダーマン』のトビー・マグワイアが演じている。

実はレオとトビーは昔からの親友でもある。レオが『タイタニック』で来日した折にまだ無名のトビーが同行したこともある(僕が大学生の頃に購入した雑誌「ロードショー」にはそのときのトビーの姿が活写されていた)。ちなみにラーマンは自身のプロジェクトを始動するにあたってまず最初にワークショップを開催することでも知られる。今回もレオとトビーはもちろん、キャリー・マリガンらを含む有名俳優らが招かれ、時おり役をスイッチしながら様々な化学変化が試されたようだ。その甲斐あってか、さすが親友どうしなだけあってふたりのコンビネーションはその阿吽の呼吸が魅せる。

カメラワークの豪速球ぶりはこの時代の象徴とも言える自動車の走行シーンでも応用されていく。そして作品の煌びやかさと共に浮かび上がるのは、ニューヨークとウェストエッグのちょうど中間地点にある「死の谷」。文明の世紀が排便した負の遺産をすべて抱え込んだかのようなこの地で、「エクルバーグ博士の目」の巨大看板だけが、すべてを見通した神の視点のように、はたまた主観と客観の光を反転させる地獄のふたのようにそこに無下に立ち尽くしている。

原作でも不気味な余韻を遺すこのモニュメント的存在。ラーマン作には過去にもリオのキリスト像などの「俯瞰する目」が登場してきたが、今回の看板はかなり意味深かつダイレクトな象徴だ。外見的には単に風化してボロボロになって誰も気にしなくなった遺物。しかしその実、その場でいつも変わらず、時代や文明や人の業を見つめることを宿命とした、ひとつの大きな目線でもある。何が起ころうともそれは揺らがない。しかしこの不動性こそ、すべてが慌ただしく狂騒していく時代においてはより不気味なのだ。そして案の定、世界の墓場のようなこの場所で、目の前で、事件は起こる―。

そこで私たちは改めて気づく。『華麗なるギャツビー』は狂騒の物語でもあり、イノセントやピュアといった絶滅危惧種的な感情を懐かしむノスタルジーであり、またそこに介在する慎ましい目線の物語でもあったのだ、と。

「エクルバーグ博士」と語り手のキャラウェイ、そして我々観客といった3つの神の目線がその像をひとつに結ぶ時、この煌びやかなれど哀しみの物語はしめやかに完結し、ひとつの運命、ひとつの時代を全うしたかのように、ひっそりと幕を閉じるのである。

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