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2013/07/26

【レビュー】サウンド・オブ・ノイズ

 「ノイズ」という言葉を辞書で引くと「雑音、騒音」という意味に辿り着く。でも、だからといってこの映画が「ノイズ」にまみれているかというと、そうではない。観る人、聴く人によっては心地の良いハーモニーにも聴こえてくるだろう。「ノイズ」という概念は受け手の感受性しだいで如何様にも姿を変えるのだ。

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 『サウンド・オブ・ノイズ』は、とある6人の音楽テロリストと、彼らを追う刑事をめぐる物語である。テロと言っても人を殺めるようなことはない。世にはびこる既存の音楽に一矢報いようと立ち上がった6人の音楽家たちが、街中で全4楽章におよぶ壮大な実験曲の演奏を試みる。その場にある突拍子もない道具を用いて紡がれていく音の洪水。そのパフォーマンスが観ているだけで楽しい。奏でられる実験曲もノイズというよりは、厳密にはエレクトロニカやポップス的。「ピタゴラスイッチ」を観ている気分。子供がはじめて音を奏でる瞬間の、緊張に思わず頬が緩むかのような表情がそこかしこに溢れている。きっと観客も皆、知らず知らずのうちに同じ表情を浮かべてしまうに違いない。

 そしてこの連続事件を追って、天才音楽一家に生まれ唯一その才能に恵まれなかった男が、ひた走る。彼の名はアマデウスーーーああ、人名とはなんと皮肉の産物なことか。

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 とまれ、いま改めて記憶を遡ってみると、果たしてこの映画の中に「ノイズ」という言葉が登場したのかどうか思い出せない。「ノイズか否かは主観によって決まる」と書いたが、6人のアヴァンギャルドなテロリストの側からしてみると、交響楽団が奏でるクラシック組曲こそがまぎれも無い「ノイズ」に違いない。逆もまた然り、かと言うと、きっとそうではなく、クラシック愛好家の中にもテロリストたちが奏でる神出鬼没な音楽を好んで愛好する者だっているはずなのだ。

 僕はこの映画を観てしばらくの間、熱狂していた。ノイズって素晴らしいなと感銘を受けていた。でもそう考えて突き詰めていくにつれ、この映画がノイズ讃歌ではないことに気づかされた。要は、何が良くて何が悪いかなんて線引きは誰にも出来ないということだ。そして自分が「ノイズ」と感じた部分にこそ未知なる可能性が隠れているとも言える。だってそれは自分の未開拓の感覚を刺激してくれる「鍵」なわけだから。

 世の中は多様性に満ちている。決して対局構造などでは解き明かせない。ノイズという概念は主流以外のものを排他的に目隠しするのに用いるのではなく、むしろ積極的に目を向け、越境していくために用いられるべきもの。そうすることで無意識的に築かれつつある「こっち側」と「あっち側」の境界線は消滅していく。

 その両者の橋渡しを行う、胸にフォースを秘めた人間こそが、アマデウス刑事なのである。彼はコンプレックスにまみれた出来損ないの長男などではなかった。白鳥一家に生まれた黒鳥。そして彼だけにしか成し得ない能力、使命、そして彼にしか聴こえない音楽があったのだ。

 人間のボディが楽器ならば、身の回りのあらゆる道具にも音が詰まっている。ムダな音なんてどこにも存在しない。

 アマデウスの身に巻き起こることは一例に過ぎない。そうやって誰もが精一杯に各々の音を響かせたとき、きっとその音色は街全体を包む込み壮大なシンフォニーへと昇華されていく。この映画から感じたのはそうした活き活きとした生の鼓動だった。

 あくまでミニマルな視点から出発し、やがて世界や概念を包含するストーリーを拡げていく奇想天外さ。さすが北欧映画だと改めて感心させられる。小さな国が世界に対抗するにはこれくらいオリジナリティがなければ。きっと彼らはノイズとして排除されがちな地平に対して常に真剣にアンテナを巡らせているからこそ、こんな模造品ばかりの世の中でこれほど堂々たるオリジナルな着想を得られるのだろう。

Sound of Noise (2010)
Directores: Ola Simonsson, Johannes Stjarne Nilssson
Stars: Bengt Nilsson, Sanna Persson, Magnus Borjeson
102 min. Sweden/France
Comedy/Music/Crime

■ちなみに、本作『サウンド・オブ・ノイズ』が作られるきっかけとなった"music for one apartment and six drummers"という短編作品。本作のイントロダクションとしてご覧ください。

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