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2013/07/28

【レビュー】ペーパーボーイ 真夏の引力

 『ハイスクール・ミュージカル』からのザック・エフロンのファンには申し訳ないが、もしも『ペーパーボーイ』が彼を単独主演に仕立てたイチモツであったなら、僕はこの映画にさほど関心を払わなかったし、映画自体も失敗していただろう。

 でも幸いなことに本作は、原作の持つダークネスを微塵も失わなかった。『プレシャス』で注目を集めた黒人監督リー・ダニエルズは、これまでに医療介護、俳優マネージメント業などを経てエリートコースとは言い難い迂回路を通りながら今の立ち位置を獲得してきた苦労人だ。それゆえエフロンのキャリア最大の挑戦にあたり、決して彼を捨て駒などにはしない。むしろその世間一般のイメージを使って、僕らをとんでもない藪の中、闇の奥にいざなっていく。ジャングルクルーザーを血なまぐさく逆ベクトルに押し進めたかのような衝撃の旅路が今始まるーー。

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 本作を彩る面々は人気も実力も兼ね備えたメンツばかりである。ニコール・キッドマン、マシュー・マコノヒー、ジョン・キューザック、デイヴィッド・オイェロウォ。エフロンも必死ならば、彼らも彼らで殻を破って自身の中に秘めたる怪物を現前化させようと目をギラつかせている。あわよくばエフロンを踏み台にせんばかりだ。まるでドロドロした欲望のジュース。そんな一筋縄では行かない現場でありながら、結果的にその本能の剥き出し感が最高のチームワークとなってフィルムに濃厚に焼き付いているのも、本作のゲスな黒光り感が甚だしいゆえんだ。

 舞台は1969年、フロリダ州モート郡。はじまりはひとりの白人男のえん罪事件だった。今や獄中で死を待つ身の死刑囚ヒラリー(ジョン・キューザーック)がいる。シャバには彼と文通することで結ばれた風変わりな女シャーロット(ニコール・キッドマン)がいる。事件の真相を暴くべく故郷に舞い戻ってきた新聞記者ウォード(マシュー・マコノヒー)がいる。その同僚ヤードリー(デイヴィッド・オイェロウォ)がいる。そして彼らのお手伝いをすることになったエフロン演じるペーパーボーイ(新聞配達青年)のジャックがいる。

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 ペーパーボーイはチェリーボーイでもあった。メインキャストが出揃った途端にシャーロットの黒いバービー人形のような淫靡さに崩れ落ち、下半身がどうしようもなくむせび泣く。ジャックは内に秘めた欲情をだだ漏れさせながらも、チームがえん罪事件を調査していくのをサポート。やがて彼らは危険を顧みずワニの棲息する不気味な湿地帯の奥深くへと分け入っていくことになる。その様は、異様なまでの秘密と欲望を抱えた登場人物達の深層心理を覗き込むようでもあり、またシャーロットの肢体に赤子のように溺れて湿地帯を辿るジャックの恍惚の航路のようでもある。そして事件、心理、エロス、その3つのバイオリズムが示す最頂点においてこそ、本当の時限爆弾が炸裂するのだ。

 それはあまりにも苦くて凄惨なロスト・ヴァージニティの物語であり、観客にとって悪夢にうなされた朝の嫌な発汗を思い起こさせるものでもある。

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 ピート・デクスターの原作は本当にぶっ飛んでいる。恐らく“ぶっ飛んでいること”を意識して臨まなければ、これから自分がどこに連れて行かれるのかばかりが気になって、いまこの瞬間に巻き起こっている俳優達の目を覆うような変幻自在ぶり、あるいは互いの存在感を捨て身でぶつけあうアメフトのような演技合戦を楽しむ余裕を忘れてしまう。

 だが、そんな彼らの役者人生を賭けた壮絶な役づくりを前に、あえて"So What ?"ってな表情でサディスティックに構えるというプレイも充分にありかなと思う。そうすることでサザンの深く湿った闇の奥にて食物連鎖の頂点に立てたような気がして、なんだか優越感を満喫できる。

ーーーという自分が、恐らくいちばんこの映画に毒されているのだ。病んでいる。怖い、怖い。

The Paperboy (2012)
Director: Lee Daniels
Stars: Zac Efron, Matthew McConaughey, Nicole Kidman
107min. /USA/Thriller

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