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2013/07/18

【レビュー】パシフィック・リム

 ロボが膝から崩れ落ちる―。この描写は言わばひとつの通過儀礼だ。何かしらの絶対的なパワーが倒れ、価値観の更新を余儀なくされるその瞬間。まさに試練の時。シリーズ物ではだいたい全体の3分の2が終わって、そこからクライマックスの盛り上がりが始動していくかという頃合いにこの描写が放り込まれる。だが、ハリウッドが生んだロボットVS怪獣のアクション大作『パシフィック・リム』では、早くも冒頭の闘いからこの通過儀礼を目の当たりにすることになる。膝から崩れるだけではない。そこには傷ついて「剥き出しになったコックピット」さえ登場する。主人公は礼儀正しい日本人の所作を踏襲するかのように、本作における最初の怪獣と鋼鉄の装甲版ごしではなく、直に面と向かって対峙することになるのだ。

 日本のロボットアニメの定番として浸透したこれらの動的言語が、巨額の制作費を投入していま実写としてそこに刻まれていることに、DNA的に刷り込まれた原始的リズムでもって呼応、いや喚起してしまう自分がいた。

Pacificrim

 高層ビルが立ち並ぶオフィス街、伊福部昭的なホーン・サウンドにあわせて怪獣が身体をうねらせ姿を現したかと思うと、次の瞬間にはギターサウンドにあわせてロボット"イェガー"が立ちはだかる。これもまた勝手知ったる応酬。馴染みのあるバイオリズム。ただし対峙する二者は、まるでデル・トロ少年が自身のオモチャ箱の中からプロダクションやジャンルの垣根をも超越して無作為に取り出したロボと怪獣を戦わせるているかのよう。例えるなら、鉄人28号VSバラゴン、ゴジラVSガンダムみたいな。

 許されるならば、初日オールナイトで入れ替え制ではなく夜通し盛り上がって観ていたい映画だ。ロボが繰り出すロケットパンチごとに「うぉー!」「いったー!」と歓声をあげながら。この時点で我々は本作の中で怪獣の猛攻から逃げ惑い、守りの薄いシェルターへ逃げ込む大勢の市民と酷似している。我々は劇場というシェルターの内側からこの激闘を見守っている。そしてロボットおよび怪獣モノの常として、このシェルターの内部もまた、やはり剥き出しになるのだが。

 かとおもえば、薄暗く密室性のある映画館の客席は、巨大ロボのコックピットとも似ている。とりわけ3Dバージョンではこの暗闇のコクピット内に様々な指示系統の光の絵図が立体的に浮かび上がり、閉所だからこそ臨場感を増幅させる。ここに搭乗するパイロットは基本2人。それぞれが右脳と左脳とを司り、互いの記憶や感覚を共有することによってひとつの巨体を動かしていく。とすると、いまスクリーンという記憶媒体に深く潜り込みながら感情を同化させる我々もまた、さながら第3のパイロットのようではないか。

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 『パシフィック・リム』はこれらの閉所を経由しながら目線を紡ぎ、そしてメインとしてのロボと怪獣との対決を、破天荒なまでにカタストロフィックに描き出す。もはやどちらが優勢なのか、相手を倒す術はあるのか、このストーリーに落としどころがあるのかどうか、検討もつかない。その混沌さゆえにこのハリウッドの大一番をどこまで信頼していいものか疑心暗鬼に陥りそうにもなるが、とにかくストーリーはざっくりしているものの、それでも映像へのこだわりだけは最後まで一向にブレることがない。

 全編見終わって僕が最も感嘆したのは、その最後まで妥協せずに貫かれた執念であり、単にギレルモ・デル・トロ流の「マニアック愛の連呼」に留まることなく、オリジナルの一本立ちした世界観を立ち上げ、そしてアニメーションならば作画上省略されてしまうディテールまでも、実写映画の文法のもと齟齬なく翻案して具現化してみせたことにある。

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 思えば、『パシフィック・リム』は日本のロボットアニメーションや怪獣映画に着想を得ながらも、それが昭和の時代のストレートな分かりやすさで紡がれていることに魅力があるのかもしれない。「なぜ戦うのか?」「僕らはどこからやってきて、どこへ向かうのか?」といった哲学的な思考はここには一切ない。みんな深いこと考えずに、すごく場当たり的。誰もがギリギリのところで戦ってる。しかも世界が一丸となって。そこがいい。ようやく流れ流れて、あらゆる支流が合流する大海へと押し出してくれたような気がする。

 だから脳で咀嚼する以前に、まず本能的に身体が反応するのだ。膝から落ちるロボット。剥き出しのコクピット。渾身のロケットパンチでゆがむ怪獣の顔面。これらの描写に唇を噛み締め、思わずこぶしを強く握りしめてしまうのだ。

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