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2013/08/03

【レビュー】マジック・マイク

 この映画を試写したとき、周囲は女性ばかりだった。いつものスティーヴン・ソダーバーグ作品とはえらく異なり、客席側には映画鑑賞とは思えないほどのフェロモン臭が漂っていたように思う。だがそれも当然と言えば当然か。なにしろ本作は、今ハリウッドでヒット作を連発するチャニング・テイタムが、かつて男性ストリッパーだった頃の逸話をベースにした物語なのだから。しかもその特殊なキャリアは主人公のキャラ付けとして用いられるのみならず、煌びやかなステージ・シーンとなって幾度となく観客の前にサーブされるのだ。この迫力。しなやかさ。そして観客を瞬時に魅了する力ーーー。

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 スクリーンに大映しになる男達の迫力ある肉体は、ステージ上を『インモータルズ』の神々が降り立った時のような異世界へと変貌させる。本来ならば僕は同性として自分の貧弱な肉体を恥じ入るべきなのだろうが、神々の手による祝祭性はそれさえも忘れさせた。かと思えば、次の瞬間には自分の中の潜んでいる女子の心までもが天真爛漫にキャッキャ言って歓声を上げるのを感じたのだった。

 とはいえ、男性ストリッパーという職業には苦難が付き物だ。彼らの肉体や人気、ステージ上でのカリスマ性にも上昇線と下降線が存在する。旬の頃は心地よく歓声に酔いしれておけば良い。しかし彼らは神々や不老不死ではなく血の通った人間。その意味で、点における絶頂と、線におけるタイムリミット(賞味期限)が常に彼らにはつきまとう。主人公のチャニング・テイタム=マイクはその狭間に揺れ動くひとりの人間だ。結果的にテイタムは実生活でハリウッド俳優としてのステイタスを摑み取った。一方、劇中のマイクは廃材を用いた家具ビジネスを軌道に乗せたいと考えている。しかし彼に融資してくれる金融機関はどこにも存在しない。昼間は淡くフィルターをかけた映像の中でそんな厳しい現実と格闘する様子が描かれ、夜間は一転し煌びやかなショータイムへと飲み込まれる。その寄せては返す波のごとき日常と、そこから脱出するタイミングの模索とが本作のテーマとなっている。

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 本作はもちろんショービジネスの表も裏も、そして深い友情も浅い友情も、野心も下克上さえも赤裸々に描きながら、しかしそれでいてドロドロとしたぬかるみには浸からず、いつしかその喧騒の狭間からスマートで透明感あふれる「人生の再出発」というストーリーラインが浮かび上がってくる。そこにソダーバーグ監督の職人としての巧さがある。

 思えばカウントダウンを唱えているのはソダーバーグも同じなのだ。彼は映画監督からの引退(本人はサバティカルと言い直しているが)を唱えており、『マジック・マイク』と次回作『サイド・エフェクト』と、さらにはTV映画となった"Behind the Candelabra"にてすでに監督業に一区切りを迎えている。カンヌ映画祭最高賞に輝いた『セックスと嘘とビデオテープ』で注目されて以来、彼は芸術性とエンタテインメント性とを常に融合しながら作品づくりに励んできた。成功もあったし失敗もあった。だが彼が「引退」を唱えるようになったのは肝入りで製作された『チェ』2部作が商業的に失敗を喫してからだ。

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 「メメント・モリ」という言葉と同様、現役の映画監督が50歳という若さでの引退を宣言するという行為にも、あえて終着地を設ける事でそこまでの過程を濃密なものへと変えていこうとする決意があったことは想像に難くない。その甲斐もあって、彼のラストスパートは実に見応えのある作品ばかりで占められている。

 と同時に、ソダーバーグがここ最近の作品で、コールガール、女性格闘家、そして今回の男性ストリッパーと、自らの身体を酷使することによって誰かの欲望や興奮を満たすという職業にスポットライトをあてていることも興味深い。僕には『マジック・マイク』を観ながら、そこに映画監督という職業をも併置したいのだと暗に訴えるソダーバーグの、望まれてもいないのにカメラの裏側で上半身裸でスタンバイしてみせる姿が透けて見えてくるかのように思えた。

 チャニング・テイタムの、そしてペティファーやマコノヒーの裸に喝采を送った後には、その向こう側で屋台骨を支えるソダーバーグの心境も少しだけ慮ってみよう。そして出来れば「おつかれさま」と労いの声をかけてやろう。もしもその気持ちが届いたなら、感謝の涙の代わりに彼は、メガネと頭皮をキラリと渋く輝かせてくれるはずだ。

Magic Mike (2012)
Direcotr: Steven Soderberg
Stars: Channing Tatum, Matthew McConaughey, Alex Pettyfer
110min/USA/Drama

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