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2013/12/02

【レビュー】ゼロ・グラビティ

地球からそう離れていない宇宙空間———。

静寂。3D効果も相俟って無重力をフワフワと漂う我々は、カメラが少しずつ少しずつ旋回することで、いつしか宇宙空間で作業中のふたりを確認できる位置に到達する。カメラは彼らに寄る。サンドラ・ブロックは黙々と作業中。それに対してジョージ・クルーニーはジェット噴射で自由自在に無重力空間を移動しながら、これが最後になるであろうミッションをリラックスして楽しんでいるご様子。と、ここでハッと気づいた。序盤、もう随分とカメラが回っているのに、ここまで切れ目無くワンカットで撮られているのだ。これ見よがしに長回しを敢行する例は多いが、もはやそれさえも意識させないレベル。この映画は僕らを、一体どこに連れて行こうとしているのか。

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そんなことを考えながら観ていると、突然、スクリーンの側で緊急事態が生じる。宇宙空間で作業中の彼らの耳に、飛び込んでくるヒューストンからの声(この管制室の声を担当するのが『アポロ13』でも管制官役で出演したエド・ハリスだ)。「いち早く、退避せよ!」 ロシアの破壊した自国の人工衛星の残骸が地球の軌道を漂い、もうしばらくするとこの地点に大量に流れ込んでくるというのだ。

細かい破片と化したそれらはやがて隕石群のように容赦なく襲いかかってくる。そしてサンドラと宇宙ステーションとを繋いでいた命綱は無情にも切断され、彼女は宇宙空間の暗闇の真っ只中へ。どんどんと遠のいていく彼女。酸素もみるみるうちに減少していく。果たしてサンドラはこの後、無事に生還できるのだろうか!?

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ストーリーというよりは、ただただ“状況”が横たわっている。濃厚な物語性を求める人には物足りないかもしれないが、ただこの“乗り物”には誰もが容易く感情移入することが可能だ。上映時間はほぼ90分。リアルタイムにも等しい状況のうねりの中、我々はサンドラ・ブロックの宇宙空間サバイバルに必死に身を委ねる。そして、もうダメだ!もう無理だ!そう口をついてこぼれる弱音を粉砕するかのように、この映画には思いがけない展開が待っている。最後の1分1秒まで諦めさえしなければ、何かが起こり得るかもしれない。それは何も宇宙空間に限らず、私たちが生きる現実世界だって同じことだ。

今やインターネットで世界中が繋がり、我々は秒速での判断が求められるようになった。そんな中で無重力空間に放り出されたかのように心身虚脱して「ああもうだめだ!」と感じる時も多々あるだろう。だがそんな時にこそこの映画を観てほしい。サンドラ・ブロックの魂に寄り添い、エマニュエル・ルベツキの魔術的な映像に身を委ねてほしい。そうやってこの冒険を追体験することで、きっと、自らの呼吸や鼓動をこれまで以上に意識し、身体に伸し掛かってくる地球上の重力をグッと受け止め、その果てに、自らが今この地上に立つことの意味さえもしっかりと噛み締める瞬間がやってくるはずだ。

そして、最後に私たちは監督のアルフォンソ・キュアロンに思いを馳せよう。傑作『トゥモロー・ワールド』(原題:Children of Men)から7年。本当に長かった。『ゼロ・グラビティ』はもともとアンジェリーナ・ジョリーが主演に決まり、製作スタジオが変更となり、共演に決まっていたロバート・ダウニー・Jr.が離脱を表明し、誰もがこの映画は途中で制作中止になるのではないかと気を揉んだ。ところが違った。最後の1分1秒まで諦めなかったのは劇中のサンドラ・ブロックだけでなく、キュアロンもまた同じだった。そしてピンチを最大のチャンスに変え、こんなにも壮大かつ等身大のSFサバイバルを我々のもとに届けてくれたのだ。これぞ最高のクリスマスプレゼント。全力でこのミッションを生き抜け。そして皆、無事に帰還せよ。

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