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2014/04/01

【レビュー】それでも夜は明ける

闇が浸食する。我々がいざなわれるのは19世紀、奴隷制度の続くアメリカ。NYで自由黒人として暮らすソロモン・ノーサップはある日ふたりの白人に拉致され、奴隷商人に売られ、自由を奪われる。「私は自由なのだ!」と訴えても取り合ってくれない。誰も救出してはくれない。そこにはノーサップがこれまで体験したことの無い南部社会の現実が広がっていた。大農場での過酷な肉体労働、劣悪な生活環境、そして容赦のない暴力。現代社会で言う「人権」など何ら意味を為さない。

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この映画の原作は12年間に渡る奴隷生活を生き抜いた、主人公ソロモン・ノーサップ自身の手によるもの。時に、灯りの明度が及ばないほどの暗闇がスクリーンの四隅を霧消させる。奴隷制時代の息を塞ぐような状況が、劇場の暗闇を浸食してこちらに手を伸ばしてくるかのようで、ゾッとする場面だ。その闇の中で主演チウェテル・イジョフォーの瞳がカッと見開かれる。彼の目は大きい。それは奴隷制の「目撃者」の目であり、同時に「体験者」の目だ。さらに踏み込んで言えば「告発者」の目でもある。この時代、その三つをすべて体現した者がノーサップの他に存在しただろうか。

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とはいえ、彼の賢さや教養が逆に自身をピンチに陥れることもある。出る杭は怒りや反発を招く。そうなってはとてもじゃないが生き延びられない。考えるな。希望を持つな。そう自分に言い聞かせながら、主人公の表情は次第に用心深くなり、本音を素顔の奥底へと封じ込める。映画から感情の灯火が消えそうになる。そんな日常の中でも、大自然は何百年、何千年と変わらぬ眩い陽光を大河へと降り注がせ、夕陽は川面をオレンジ色に染め上げる。季節の移り変わりが色鮮やかに時を刻む。その映像は美しい。美しいがゆえに、無情な地獄に思えることもある。

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そんな状態が何年も続く。奴隷を「演じて」いたノーサップは、とうに身も心も乾涸びている。もはや自分がかつて自由人であったことさえ忘れているかのようだ。瞳の輝きにも陰りが見える。しかしそんな最中、ひとつの出来事をきっかけに、胸の内から絶望の汁を絞り出すかのように感情が湧き出でて、ブルースが口ずさまれる瞬間がある。それは理性や意識を排除した、まさに反射的な心の叫びであった。我々はこの時、12年にも及ぶ地獄を経てもなお、彼の人間としての自尊心が死んでいなかったことを知るのである。

もしも主人公が自由黒人でなかったなら、彼は奴隷の鎖につながれた黒人のことなど意識せぬままに生涯を全うしたかもしれない。だがこうやって意図せずして真逆の環境へ突き落とされたことで、正反対の人生を体験させられることとなった。他者の境遇に身を浸したからこそ、彼の体内にはこのときはじめて「こんなはずではない」「何かが間違っている」という反動が生まれたはず。そんな転機にさらされたとき、人間は身体と魂を大いに震わせる。ターナー賞受賞のアーティストでもあるスティーヴ・マックイーン監督はその瞬間を決して見逃さない。主人公が真の自由を希求する姿、そして彼の思い描く自由の意味は、現代に生きる我々にも大きな意味を投げかけることだろう。

これまでにも『ハンガー』『シェイム』といった2つの長編映画において人や感情が他者の人生や運命を「所有する」「支配する」という牢獄と、それに抗おうとする魂の衝突を見せつけてきたマックイーン。"12 Years a Slave"も同じだ。

時代は奴隷制の頃とは大きく変わった。が、人間はそれに比例して変われただろうか?進化できたと胸を張って言えるだろうか?

結局のところ我々は、奴隷であり自由人であるソロモン・ノーサップの遺伝子を引き継ぐと共に、農場主フォードやエップスの遺伝子も引き継いでいる。このジレンマは、孤独な闇の中で絶えず瞳を見開き、自分自身に真の自由の意味を問い続けることでしか乗り越えられない。

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