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2015/04/16

セッション/Whiplash

劇薬である。切れ味抜群の鋭利な刃物。かまいたちのようにスパンと切り裂かれる。でも不思議なものだ。痛くても、もっと!!と思う。サディスティックなのかマゾヒスティックなのか、もはや分からない。分かるわけもない。言葉で例えるなら、狂気。いや違うな、もっと鋭い。あわよくば観客と“刺し違える”。それくらいの覚悟で仕掛けてくるフィルムメーカーの気迫と態度が気に入った。

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師とは自分の才能を高みに導いてくれる存在?聖職?あまい、あまい。J.K.シモンズは死神だ。暗闇からぬっと現れ、真っ黒いジャケットをサッと脱ぎ捨てると、そこには大根ほどに野太い腕が突き出ている。これを巨砲と呼ぼうか。主人公の青年(マイルズ・テラー)の武器がドラムなら、師匠の彼はこの巨砲で相手を瀕死の状態へと追い込むのだ。そう、これは教えるとか、教わるとかそんな生やさしい映画ではなく、むしろドラムのスティックとこの巨砲で刺し違える男達の物語だ。

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師は自分の理想の音楽を作り上げるためには手段を選ばない。時には生徒を甘い言葉でねぎらい、次の瞬間には地獄へ突き落とす呪いの言葉を吐き捨てている。生徒は驚きのあまり、口をあけて「ごめんなさあい」とむせび泣くだけだ。こうして生徒の自尊心を剥ぎ取り、どん底まで突き落とし、そこから自らの力で上がってくるのを待つ。無理なら即刻このバンドの練習部屋から叩き出すのみだ。彼は一万人人の凡人を輩出するよりたった一人の天才を育てたいタイプ。いわば、ゴッホのような歴史的アーティストが半ば狂いながら傑作を誕生させた断崖絶壁の状況を、生徒のために、あるいは自己満足のために、作り出していると言うべきだろうか。

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主人公の青年は、一見それほど才能ふりまいた存在とは言えない。ぱっとしないし、目の輝きも見出せない。しかし師は彼に何かを感じたのだろう。自分の指導するバンドに引き抜き、壮絶なしごきを開始する。また青年も涙を流したりアワアワしたりしながら、何とか師にしがみつこうと壮絶かつ危機的な精神状態へと突入していく。このハラハラする展開に加えて、鼓動のごとく超絶技法の速さで高鳴っていくドラムビートも体感的な効果を生む。吠えるJ.K.シモン。食らいつくマイルズ・テラー。この肉弾戦がひとつの山を越えてヘロヘロになると、さらに壮絶な山が最後に待ち構えているのだからたまらない。

なんだかんだ言って、ふたりは師弟愛を築いている。もちろんそれは互いを思いやる愛などではなく、彼らはたとえ相手が死んだとしても涙一滴たりとも流さないだろう。しかし互いに仕掛け合い、刺し違えて、限界を越えていく。そんなヒリヒリするデッドヒートを芯から望んでいるふたり。その意味ではすでにライバルにも近い。あるいは壮絶過ぎるSMプレイ。繰り返すが、劇薬である。深刻な中毒症状にくれぐれもご注意を。

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