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2015/04/04

角角ストロガのフ「エイプリル」

吉祥寺シアターにて「角角ストロガのフ」という演劇ユニットの「エイプリル」(4月3日から7日まで上演中)という舞台を鑑賞してきました。中学時代の同級生である俳優の太田正一が出演している作品。彼は「モンキーバードドッグ」という二人芝居プロジェクトを通算45回も続け、映画やショートフィルム、CMなどでも見かける一方、こうして外部の公演にも飛び込んで武者修行を積んでいます。友人ががんばってる姿をステージで目の当たりにすると、なにかこう、刺激を受けずにいられませんよね。

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さて、この「エイプリル」という作品、少年犯罪がひとつのテーマとして取り上げられています。同級生を殺した疑いのかかった少女(前田聖来さん)、その家族、父の職場、彼らを私刑に処す社会、刑事、そしてこの事件を実名報道したことがきっかけで思わぬ落とし穴にはまってしまう雑誌記者(いしだ壱成さん)など、総勢20名ほどの登場人物を擁しています。

舞台はひとつの細胞が分裂したかのように6つのセルから成っており、それぞれが「オフィス」「リビング」「編集部」「コンビニ」「取調室」そして物語のブラックボックスとなる「少女の自室」として機能し、細部が同時進行しながら話を紡いでいくのです。

最初は「これは相当な情報量の多さだな」と圧倒されるのですが、人間の適応能力ってすごいですね、いつの間にか観客はこのお芝居を「俯瞰」で観る術を習得している。そうやって舞台全体をひとつの生き物として捉えて見つめると、そこに私たちが暮らす社会像が浮かび上がってくるようにも思える。

でも「思える」だけなんですね。我々がこの距離から全てを神の目のごとく掌握できるかというと、全然できない。フラッシュバック形式で繰り返される少女の証言は毎回変わって掴みどころがないし、周辺人物の言葉も何を信じていいのか分からない。皆が何か複雑な闇を抱えている。ここのあたり、人の数だけ真実が存在する、いわゆる『羅生門』スタイルとも言えるのでしょう。

そうした中で登場人物たちは、得体の知れない不気味な集団に浸食されていきます。詳しくは言いませんが、これは見ていてゾッとするしました。こうは単純に具現化されたものでなくとも、実際の社会でも実は誰もが同じようなダークサイドを抱えていて、それらが思いがけず「繋がり合う」ことによって似たような化学反応を作り出している部分があるのかもしれません。20人の役者さんたちはビンの中で蟻が巣を張り巡らすように、その息苦しくなる軌跡を描いてくれていたように感じます。

個人的な感想としては、この物語には「語られない部分」に様々な考える余地を残しているように思えました。たとえば、いしだ壱成さん演じる主人公は一体何者だったのか。そして帰り道に沸々と沸き上がってきたのが、もしかすると客席は7つ目のセルだったのではないか、という思いでした。

なにしろ観客にとっていちばんの死角となるのが自分自身。舞台上で全てのセルを越境して現れた不気味な集団と同じく、状況を傍観している我々もまた、無意識のうちに彼らと同じような扮装をして、同じ合言葉を叫び、頭上で同じようなジェスチャーをしながら呆然と立っている存在なのかも……。

社会とはそのように知らず知らずのうちに巻き込まれてしまうもので、ちょっとしたことで被害者にも、加害者にもなってしまう。そうなると誰もが「無関係です」だなんて言えない。そんな絶望的な中で私たちは「社会」と握手を交わし、契約を結んで生きているのかもしれない。この舞台の最初と最後に刻まれる印象的な握手のシーンを、そのように解釈している自分がいました。

でもね、このダークな舞台を見て「はい、そうですか」と受け止めるのは悲劇的だと思うんです。作・演出の角田ルミさんはむしろ、そこからの観客の反動を求めているのではないか。私は「そうじゃねえ!」「ふざけんな!」と歯を食いしばってこの作品が提示する境界線から飛び出していきたい。デヴィッド・フィンチャーの『ファイトクラブ』のように全てを吹き飛ばすカタルシスはないけれど、「エイプリル」は私たちのごく身近なところに浮遊する問題を可視化させ、しかし作者の意志で自ら破壊することは目的とせず、むしろ観客自身を着火点へといざなう橋渡しをしてくれる作品のように思えました。

聴けば、角角ストロガのフにはこのような作風が多いのだとか。常連のお客さんはきっと、何度も崖から突き落とされ這い上がった獅子のごとく、鋼のハートの持ち主なのではないでしょうか。その、沈んでは浮上する心の運動と、些細な日常を俯瞰してヒンヤリと冷たい「実験劇場」のように捉えるところが魅力的なプロジェクトだなと感じました。

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肝心の友人、太田正一。私は彼のニンマリ笑った顔が大好きなのですが、実はその笑顔の奥で様々な感情を表現できるところが彼のすごさでもあり、怖さでもある。そして舞台上で醸し出される何とも言えない粘着質な存在感もまた、歳を重ねるごとに無駄な余韻を引きずることなくシャープに突き刺さるワザへと洗練されているように思えます。

昔は彼の演技を「んな奴いるか!」と、爆笑しながら見つめるばかりでしたが、最近では私もいくらか社会勉強を積んだせいか、彼の演じるようなタイプのキャラクターが「ほんとうにいる」ことに気付けるようになってきました。太田正一は人間観察のプロなんです。そんな彼の活躍を、これからも引き続き、息をひそめて観察していきたいと思います。

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