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2018/04/14

女は二度決断する

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ドイツの名匠ファティ・アキンの作品を初めて観たのはイギリスのとある映画館だった。何とは無しに『Head-on』(邦題は『愛より強く』)チケットを買い求めたところ、これが脳天から頭をカチ割られたみたいな衝撃作。終映後、居合わせた2、3人の観客同士で、すごかったね、衝撃的だったね、などと言いながら興奮が収まるのを待ったものだった。ミニマルでパンキッシュなストーリーは今なお私の脳天を記憶の内部から刺激してやまない。あんな劇場体験は今後もう二度と得られないだろう。

あれから13年が経ち、アキンの作風は、随分と骨太さ、重厚さを増したように思う。そして今回の『女は二度決断する』ほど「死」や「憎悪」といった深刻なテーマに真正面からぶつかっていったのは初めてじゃなかったか。悲劇は仲睦まじい家族に突如として襲いかかってきた。爆弾テロによって夫と息子を喪ったヒロインは、絶望のどん底でのたうちまわる日々を過ごしながら、やがて法廷で容疑者と対面することとなる。

3章仕立ての構成はアキンがよく使う手だ。今回は映画がとてつもない慟哭で渦巻いているからこそ、混乱の中にも一筋の冷静な光が貫いているかのような、静謐な空気をもたらしてくれる。そして物語がどんなに衝撃を供えようとも、ダイアン・クルーガー演じるヒロインの存在感の大きさは揺るがない。絶望の毎日から這い上がろうとする彼女の、刻々と変わりゆく相貌の凄まじさ。彼女は苦しみを言葉にするタイプではない。感情をぐっと奥に押し殺していても、身体に刻まれたタトゥの数が心の内側に潜む怒髪天を抜くパンキッシュな魂を物語る。かつて観た『Head-on』のヒロインともどこか共通するものがあるのを感じた。

そして海。ファティ・アキンの作品の多くはいつしか海へと行き着く。全ての感情がうねり、交錯し、そしてまどろむように一つになって溶け合っていく。 この物語に厳密な意味での”救い”など見当たらない。過去の事件にインスピレーションを受けながらも、現実はより一層つながっているように感じる。さらに獰猛さを増し、憎悪はどんどん増幅させながら。これはそんな世界への、ヒロインが挑むたった一人の戦いの物語だった。

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