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2018/04/17

レディ・プレイヤー1

スピルバーグのフィルモグラフィを紐解く時、最も重要なのは「『シンドラーのリスト』と『ジュラシック・パーク』をを同一年(1993)に送り出したこと」だと私は思っている。『シンドラー』の撮影があまりに精神的に堪えるものだから、しょっちゅうロビン・ウィリアムズに電話して笑わせてもらっていたというのは有名な話だが、この二作を同時期に撮ったのに、何らかの「振り子作用」があったのは確実である。

ふとそんなことを思い出したのは、『ペンタゴン・ペーパーズ』と『レディ・プレイヤー1』もほぼ同時期に生まれたからだ。片や今の時代に必要な圧倒的なまでのリアリズム映画であり、片や実写撮影のみならずCGを駆使してイマジネーションを炸裂させた映画。実のところ『レディ・プレイヤー1』は2016年に実写部分の撮影が行われ、その後、膨大なCG作業の仕上がりを待つ間、スピルバーグは2017年に驚くようなスピードで『ペンタゴン・ペーパーズ』を撮り上げたのだとか。今のタイミング、この組み合わせでなければ生まれ得なかった正反対の双子、というのは言い過ぎだろうか。

さて、そんな本作を恐る恐る紐解くと・・・冒頭から未来世界なのになぜか80年代の空気が吹き込んでくる。懐かしき「Jump」が流れ、さらにTears For Tearsの「Everybody Wants To Rule The World」のイントロが流れ出した時には、前に『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のオープニングで10ccの「I’m not in Love」が飛び出した時みたいに驚いて胸の内側がジワッと湿り気を増していくのを感じた。

まあ、そんな懐メロな話を抜きにしても、本作は問答無用で楽しく、ワクワクが止まらなくなる作品だ。仮想現実と現実を描くという意味では『マトリックス』や『トータル・リコール』などのサイバーパンク映画と共通しているし、細田守監督の『サマーウォーズ』を思わせもする。が、もちろん、それだけではない。まずはガンダムからAKIRA、デロリアン、キングコング、アイアン・ジャイアント、ジュラシックパークなど、よくぞ使用権が許可されたものだと感嘆の声が上がるほどの要素がてんこ盛り。また、バーチャルリアリティ「オアシス」内の各ステージにおける圧倒的なエンタテインメント場面があまりによくできているものだから、我々はまず最初のレース・ステージで瞬時に娯楽のカオスへと飲み込まれてしまうし、最初はあの絵柄を見て「大丈夫かな?」とさえ感じていたバーチャルリアリティ内の設定や世界観、そしてキャラクターをいつしか心底楽しめるようになっている。

本作ではバーチャル世界をゲームやアニメのような質感で描きつつ、またそれがふとした拍子に現実へと引き戻されると、そこには誰が見てもスピルバーグ色でしかありえない世界観や登場人物たちが広がる。この無尽蔵なバーチャルの、そして寂れた中にこそ特色のある未来の描き方のなんと面白いことか。冒頭に「振り子作用」について述べたが、『レディ・プレイヤー1』もまた「振り子」を確実に内包しているのである。

現実では冴えないが、「オアシス」の中では人一倍注目を集める存在の主人公。そんな彼が挑む「創業者が遺した大きな謎」。執拗に追いかけてくる巨大企業。そしてバーチャルを超えてつながりあう仲間たち。後半に向けて二つの世界を交互に映し出し、ノリ良くテンポよく、グッとくるような感度で臨場感と興奮を高めていくスピルバーグの筆致がとてつもなく上手い。そして少年少女たちの冒険がやっぱり80年代色に満ちているのは(例えば『グーニーズ』のような)、そのテイストで生まれ育った観客にとって”恍惚”にも受け取れるはず。

このバーチャル世界を作り上げた創業者(クリエイター)を、スピルバーグ作品の最近の顔ともいうべきマーク・ライアンスが妙演し、その親友のクリエイター役をサイモン・ペッグが演じる。まるでジョブズのように描かれる彼らの開発秘話などを巧妙に差し込ませる構成も物語を重層化して見応えを増幅させる。主人公たちは驚くべき方法で彼らが愛したカルチャーや思い出の中にヒントを見つけるが、その過程で映画ファンにはたまらないかの超名作の作品内に足を踏み入れる趣向も組み込まれているので思い切り楽しんでほしいところ。

ちなみに私はこれを2D版で試写したが、公開後は必ず3Dか4D版で観たいと思っている。おそらくストーリーを冷静に楽しむには2Dが最高だろうが、しかし本作はもっと体感的、感覚的、肉感的に楽しむべきポイントが満載だ。この映画で映画館は最強のテーマパークになる。久々に公開日が楽しみで、この仕事をやっていてこんな気持ちになるのも珍しいのだが、私は冒険の扉が再度開くのを私はドキドキしながら待っている。

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