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2019/01/10

喜望峰の風に乗せて

『喜望峰の風に乗せて』(原題The Mercy)は、『博士と彼女のセオリー』のジェームズ・マーシュ監督が、オスカー俳優コリン・ファースとレイチェル・ワイズと組んで送るヒューマンドラマだ。60年代の終わりにイギリスで実際に起こった出来事がベースとなっている。

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ドナルド・クローハーストという人物は実に謎めいている。これまで彼にまつわる映画やドキュメンタリー、あるいはテレビドラマなども数多く製作されてきた。その理由は簡単だ。彼の逸話を耳にした者は誰もがそのミステリーに取り憑かれる。そうして「一体、なぜ?」と、常人には想像もつかない答えを求めて霧の中を手探りしてしまうのだ。

主演にはコリン・ファースとレイチェル・ワイズ、それにデヴィッド・シューリスという少数精鋭ながら最高の布陣が並ぶ。良き夫であり、良き父であり、野心溢れた起業家でもあったクローハースト。冒険家としての力量は未知数ながら、だからこそ攻めの姿勢や大志を忘れなかった。たとえレースに勝つ可能性が100万分の1ほどしかなかったとしても、最終的に掴み取ることができれば万々歳だったはず。でも、こんなにも広大な大海原を前にしながら、事態は思いがけない方向へ。彼はどんどん狭い袋小路へと追い込まれていってしまう。

もしも手っ取り早く彼の人生について知りたければWikipediaなどでサラッと流し読みでもすればいい。でもそうやって情報を摂取したとしてもなお謎は解けないし、かえってモヤモヤは増すばかり。だからこそこうやってコリン・ファースが焦燥に駆られた演技で我々をいざなう境地は非常に見応えがある。

『ゼロ・グラビティ』や『オール・イズ・ロスト』や『キャスト・アウェイ』を彷彿する人もいるだろう。ただ、『喜望峰の風に乗せて』はそれらに輪をかけて特殊な映画だ。面白いことに、この映画を観た知人と話をしていたら、「彼の気持ちがよく分かる」「今の自分の(仕事や家庭における)状況と似ている」という感想が飛び出してきた。万人がそうと限らないが、少なくとも共感する人は意外と多いようだ。

決して霧は晴れない。爽快に謎が解けることもない。それでもなお、我々はこの物語に、クローハーストのおぼろげな輪郭に、「自分だったらどうしただろう?」と己を重ねずにいられない。その意味で本作は、50年も前の話であると同時に、太古の昔から一貫して人々を惹きつける、ある意味、ギリシア神話的な香りすら持つのかもしれない。

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