« 愛と銃弾 | トップページ | アクアマン »

2019/01/26

ヴィクトリア女王 最期の秘密

さすが、スティーヴン・フリアーズ。言わずと知れたこの名匠は、水がナチュラルに流れゆくような上質なタッチで淀みなく物語を描く。『クイーン』で激賞された彼にとって「もう一人の女王の物語」にあたる本作も、一瞬一瞬の意匠が滑らかな線となって、観客の目線をエレガントにいざなってやまない。

Victoriaand_abdul_3

優雅さと笑いをまぶしたオードブルのような導入部に舌鼓を打ちつつ、観客は宮廷の内部へ。物語はいくつかの意味のわからぬ「謎の言葉」(メダルの名称だったり、デザートの名前だったり)を繋ぎながらテンポよく進み、晩年のヴィクトリア女王とインド人従者との素っ頓狂な視線の交錯、そして思いがけない交流へと展開していく。本来なら出逢うはずもなかったふたり。開くはずもなかった扉。『リトル・ダンサー』の脚本家リー・ホールが手がけた脚本は、この二人の瞳に輝きをもたらしつつ、「何かに夢中になる喜び」を丁寧に蒸留していく。

リー・ホールの巧さは先に挙げた「謎の言葉」にも詰まっている。誰も意味を解しないまま、その「言葉」だけがむなしく空転しながらやり取りされるシニカルさ。何ら意味や、伝えようという意志が介在することのない一方的な交流が、そこには象徴されているのかもしれない。

それがいつしか「ムンシ」という言葉へと流れ着くと事情が変わってくる。「先生、師」という意味を持つその言葉をいくども口にすることで、ヴィクトリア女王とインド人の従者は長年の友人のように交流を深め、敬意を捧げあいながら互いの文化や言葉について教え合うのだ。

だが、それを快く思わない人にとっては、「ムンシ」はいつまで経っても謎の言葉のままだ。扉は閉ざされたままだし、開く気配すらない。フリアーズ監督は人々のこういった態度さえも痛烈に描きながら、真の敬意あふれる交流とは何なのかを浮き彫りにしていく。それはインド統治下の遠い遠い昔話のようにも思える一方、分断の時代と言われる現代においても深く響くものがある。

そこに説教臭さなど微塵も感じないのもリー・ホールやフリアーズ監督の巧さだが、それにも増して、二人の主演俳優が醸成していく温かくてユーモラスな関係性があまりに素敵だ。その空気を8割がた司るのはもちろんジュディ・デンチ。彼女が英国の至宝であるゆえんがたくさん詰まった名作であることは、今回も間違いない。

ちなみに日本では1月から3月にかけて三本の女王映画が公開される。本作『ヴィクトリア女王』に続いてはスチュワート朝のアン女王をめぐる『女王陛下のお気に入り』、そしてスコットランド女王メアリーを主役に据えた『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』と続く。英国文化は女王統治下において大きく発展したと言われるが、三つとも全くテイストが異なり、歴史ドラマとしても、あるいは現代にも通じる女性映画、ヒューマンドラマとしても見応えたっぷり。機会があればぜひ彼女たちのあるがままの生き様を、それぞれじっくりと堪能してほしい。


この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。


TOP】【レビュー】【TWITTER

|

« 愛と銃弾 | トップページ | アクアマン »

【地域:英国発】」カテゴリの記事

【映画×偉人】」カテゴリの記事

【お年寄りが元気!】」カテゴリの記事