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2019/07/21

引き裂かれたカーテン(1966)

アルフレッド・ヒッチコックが1966年に監督したスパイ・サスペンス『引き裂かれたカーテン』を鑑賞。鉄のカーテンを超えて東ドイツへと亡命する物理学者役(ポール・ニューマン)と、そのフィアンセ役(ジュディ・アンドリュース)をめぐる、謎が謎を呼ぶストーリー。果たして主人公の真の狙いとは!?

ヒッチコック映画といえば、丁々発止のセリフやそこに香るユーモア、さらには息もつかせぬ展開やそれを描くギミックの斬新さで知られる。だが、このポール・ニューマンとジュリー・アンドリュースという演技派二人が主演した本作は、典型的なスパイ・スリラーでありながら、例えば『三十九夜』や『北北西に進路を取れ!』といった過去作と比べるとだいぶ印象が異なって見える。公開当時は「ユーモアが色を潜め、ギミックも弱い」と評され、何より出演者から「セリフに面白みが足りない」と指摘されるほどだったとか。なるほど、前半はニューマン演じる主人公の本心がなかなか読めず、婚約者役のアンドリュースも何も事情を知らぬままその後ろを着いてゆくだけ。亡命後、監視役の男が行方不明になっても当局がなかなか動き出さないあたりは、ヒッチコック作品らしからぬウィーク・ポイントといえよう。

そんな煮えきれなさに耐え忍んでいると、ようやく半分を過ぎたところで上昇気流が巻き起こる。アンドリュースが全ての事情を知り、ようやく二人が心を一つに重ねて大逃亡を繰り広げるくだりでは、自転車に路線バス、市街地、それにバレエ公演まで飛び出し、それらの用い方も実にお見事。次々と迫りくるピンチとそれを乗り越えるアッというような創意工夫が小気味よく炸裂して、誰もが「それでこそ、ヒッチコック映画!」と安心して楽しむことができるはずだ。

ちなみに本作は、1951年に英国で起こった「バージェス&マクリーン事件」(長らくスパイとして英国中枢部に入り込んでいた彼らがソ連へ亡命した)から着想しており、ヒッチコックが抱いた「亡命者の妻は一体どのような心境だったのか?」という素朴な疑問が出発点となっているらしい。この冷戦期に起こったスパイ事件は、他にも『アナザー・カントリー』や『裏切りのサーカス』を始めとする様々な作品を理解する上での基礎知識となっているので、一度きちんと踏まえておくと、あまたあるスパイ映画の見方も大きく変わっていくことだろう。

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