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2019/10/29

『象は静かに座っている』234分の衝撃

中国映画「象は静かに座っている」のレビューを執筆しました。この作品、なんと尺が234分もあります。しかしながらいざ見始めると思い切り没入してしまい「長い」なんて微塵も感じることがありません。映画や物語は主人公や私たちが辿る一つの旅のようなもの。この道のりを乗り越えていざなわれる場所は一体どこなのか。その果てで、私たちの心には一体どんな思いが発露するのか。切実な内容ではあるものの、ラストシーンを迎えた時、もう一つの違う自分と出会えたような気持ちが込み上げてきました。個人的には2019年で最も熱狂した映画体験かも。この気持ち、生涯忘れることがないと思います。

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2019/10/23

子役と動物にはかなわない

どんな名優も子役と動物には敵わないと言われる。『クレイマー、クレイマー』はまさにそのことを端的に証明する映画だ。父母の離婚問題に揺れる男の子は、いかにしてあのナチュラルな演技を手にできたのか。詳しくはCINEMOREに書いた本作に関する原稿をお読み頂きたいのだが、このメソッドを紐解くうちに強烈に思い出したことがある。それはスピルバーグが『E.T.』の子役たちに用いた手法だ。

Kramer

基本、すべてのシーンをストーリー通りに順撮りして子供たちの感情を醸成させていった『ET』だが、ことラストシーンに至っては、子役たちの悲しみの演技を導き出すために、スピルバーグは子供らにこう語りかけたという。「いいかい、今からETにさよならを言うよ。これでもう最後だ。もう二度と会えないんだからね・・・」。この一言の効果はてきめんだったとか。

子供の頃は「永遠」とか「二度と」という概念を意識することはほとんどない。が、『クレイマー、クレイマー』や『ET』の見せ場となる場面では、こうしてあえて子供達に自らの力で扉を押し開かせることで、未踏の感情を導き出すことができた。つくづく演技とは奥深いものである。

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2019/10/22

テリー・ギリアム監督作「バロン」

先日の『バンデットQ』に続き、同じくテリー・ギリアム監督作の『バロン』について書きました

Barron

よく「史上最大の失敗作」的な言われ方をする映画ですが、今改めて鑑賞してみると実に素晴らしい作品です。数々のトラブルに見舞われながら、それでも芸術性をいっさい安売りすることなく、思い切りイマジネーションを爆発させているところが感動的。さらに戦争という圧倒的な現実の中でフィクションというものがいかに機能しうるのか、そんな究極の問いが垣間見えるところにもハッとさせられます。

ちなみにこの作品、制作費が節約できるという理由でローマに拠点を置いたのですが(そもそもこれがトラブルの始まりだったという声も)、この地でテリー・ギリアムは何度かフェデリコ・フェリーニとも会って言葉を交わしたそう。その時、感じたこととして「撮影中のフェリーニは驚くほどエネルギッシュで若々しく、そうでない時の彼は急に歳を取ったみたいに弱々しく見えた。仕事と想像力によってこんなにも人は変わるんだな、と思い知らされた」という風に述べている。

今やギリアムもフェリーニの享年をとうに超えてしまったが、困難にぶつかってもすぐにまた起き上がって猪突猛進を続けるその勢いはまだまだ衰えそうにない。どんなサイズでもいいから、いつまでも若々しく、エネルギッシュに映画を撮り続けて欲しいものだ。

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2019/10/21

バンデットQ

誰にでも何かのタイミングで偶然に見たり聞いたりして、タイトルはわからずとも、その後ずっと気になり続けてきた映画や音楽って一つや二つあると思う。僕の場合、その代表格と言えるのが、小学生の頃にたまたまTVで観て、まるで電流に打たれたかのように衝撃を受けた『バンデットQ』。

Time-bandits

ようやくこの映画の詳細にまでたどり着いたのは大学生の頃で、まずはモンティ・パイソンのファンになって、それからパイソンズのメンバーであるテリー・ギリアムの映画を意識して観るようになり、過去作を遡っていくうちに「あっ、この映画は、小学生の頃に見た・・・」と発見。まさか自分が小学生の頃すでにギリアム作品の洗礼を受けていたなんて、かなりの驚きでした。

今回、改めてきちんと見直してみようと思い、満を持してCINEMOREで『バンデットQ』を選んでみました。何度見ても本当にヘンな映画です。でも今ではある程度歳を重ねたせいか、その「ヘン」の中にギリアムの途方もない情熱を感じることができる。徹底的に、情熱的に「ヘン」をやり通せる大人って本当に素晴らしいし、カッコイイ。

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2019/10/12

「イエスタデイ」ノーフォークの海辺

公開中の映画『イエスタデイ』で、5000人ものエキストラをノーフォークの海辺に集めて撮影したシーンが登場します。みんな本当に楽しそう。映画そのものも最高に楽しい、極上のひとときでした。

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2019/10/10

SFハードアクション映画「アップグレード」

今や人間と自動音声ガイドやAIがバディを組む映画も珍しくは無くなった。それらの描写が一般化するまでには、「アイアンマン」や「ナイトライダー」や「2001年 宇宙の旅」など偉大な先人たちがいたことは言うまでもなく、最近でもインディペンデント映画ながら卓越した未来描写で自動運転AIと人間との関係性を描いた「センターライン」が注目を集めたのは記憶に新しいところ。で、こういったジャンルの最新版として是非押さえておきたいのが、「ソウ」シリーズで知られるリー・ワネルの監督、脚本作『アップグレード』だ。製作を担うのは低予算ホラーの雄、ジェイソン・ブラム。

舐めてかかると心底はまってしまう逸品である。ミニマルな未来描写にも心酔させられるのだが、何者かの襲撃で妻を殺され、自らも重傷を負った主人公がAIチップを埋め込むことで超人へと生まれ変わるあたりから、一気に面白さが火を吹く。ハードタッチのリベンジ・アクションであり、脳内ナビゲートするAIと主人公が会話しながら真相を追う相棒モノでもある。何と言ってもコンパクトながらしっかりとまとまったプロットが秀逸で、この先どうなっていくのか微塵も掴ませない。いやはや思いがけない拾いものだった。

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2019/10/07

クロール -凶暴領域-

一言で表現すると、ワニ映画である。ハリケーン迫る中、一人暮らしの父親を心配して娘が実家を見に来ると、そこにはなぜか凶暴なワニが!そこから父娘がなんとか逃げ延びようとするパニック・ホラーが展開していくわけだが、これが90分弱の中で非常によくまとまっていて楽しかった。監督は数々のホラーやバイオレンス作でも知られるアレクサンドル・アジャ。

まずもって娘が水泳選手というのが鍵だ。彼女がプールでトレーニングに打ち込む冒頭を目にするだけで、僕らの脳裏には、ヒロインがやがて水中でワニとデッドヒートする未来絵図がなんとなく予想できるはず。それにこの父娘は長期にわたって仲違いしており、性格の似た分だけ衝突も多い二人が最大のピンチを前に共闘するのも大きな見どころだ。

もう一点、ホラー映画では「家」が一つの精神世界を成すことが多いが、本作でもまず深層心理を示す「地下室」から始動し、様々な記憶や感情をぶちまけながら、徐々に上へ、上へと上り詰めていく。こうして状況を克明に描きつつも、自ずと内面をもうかがい知ることができるのだ。教科書通りと言えばそれまでだが、ジャンル映画の枠内を端から端まで思い切り泳ぎ切ったなかなかの力作だった。

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2019/10/01

ジョーカー

DCコミックスで最も高い知名度を誇る怪人ジョーカー。その誕生物語をリアルに描いた本作は、ヴェネツィア国際映画祭で最高賞を受賞するなど、世界同時公開を前に早くも高評価の渦が巻き起こっている。僕もつい先日、試写してきたばかりなのだが、その衝撃のほどは呆然とするほど凄まじかった。

福祉の切り詰め、格差の拡大、公共サービスの停止などによって息苦しさを増すゴッサム・シティ。その社会の底辺でピエロを生業として生きる主人公アーサーは、幾つもの安定剤を服用し、さらにふとした拍子で笑いが止まらなくなるという症状も抱えている。社会的に追い詰められ、絶望の淵に立った彼はやがて一線を越えてしまうのだが・・・。

まずもって、ホアキン・フェニックスの怪演には震撼するばかり。出演決定時にすでに高まっていたハードルを、やすやすと越えたのではないか。そして本作の不気味さに暗黒の輝きを添える要素がもう一つ。それは『キング・オブ・コメディ』や『タクシー・ドライバー』の影響が見え隠れするという点だ。しかも、コメディアン志望のアーサーが視聴するTVトークショーの司会者をデ・ニーロが演じるという凝りよう。時代は繰り返すというが、本作はあの頃のデ・ニーロがスクリーンで体現していた狂気、精神的傷跡が形を変えて蘇ったかのようでもある。

『ハングオーバー』シリーズのトッド・フィリップスが切り開いたまさかの境地。ジョーカーの映画化としては危険レベルの水域に達したと言えるほどの桁違いの完成度だ。ただ、本作は精神的にキリキリとくる。体調的に余裕がある時に見た方が無難だろうし、本能的に「嫌い」と答える人も出てくるはず。どう受け止めるかはひとえにあなた次第だし、他人の意見に振り回される必要は全くない。

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