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2020/03/09

『コロンバス』

3月14日より公開を迎える劇映画『コロンバス』にとても心奪われました。

 

アメリカのインディアナ州にある小さな町、コロンバス。住民たちはあまり意識してないようだが、ここには至る所にモダニズム建築が建ち並んでいる。それゆえカメラでフレーミングされた街の風景はちょっとした未来世界のよう。それこそタルコフスキーの『惑星ソラリス』の映像美を不意に思い起こしてしまうほどだ。

こんな街並みを舞台に、果たしてどんなストーリーが紡ぎあげられるだろう。韓国生まれの「コゴナダ」と名乗る本作の監督は、さっそく二人の主人公を用意する。一人は様々な夢や可能性を内に秘めながらもこの街に留まり続ける若き図書館員の女性。そしてもう一人は、父がこの街で倒れたのをきっかけに韓国から駆けつけてきた男性だ。

何の接点もなかった彼らが出会い、いつしかタバコを片手に語り合うようになる。二人が横に並ぶとなんだか妙だ。兄妹とも親子とも恋人ともつかない不思議な空気が立ちのぼってくるのを感じる。そもそも生まれも育ちも世代も全く異なる二人がこうして心を通わせ合うのはなぜなんだろう。

ふと、遠くにモダニズム建築が映り込む。あの建物の印象的な渡り廊下には「何かと何かをつなぐ」という意味が込められているんだよ、と二人はまた語り合う。それ以上でもそれ以下でもない。そこには穏やかでゆっくりとした時が流れている。

この映画に大きな出来事や事件は皆無だ。が、建築物を印象的に描いた数々の名作映画がそうであるように、本作も「建築たち」は各々の個性を放ちながらそこに柔らかくたたずみ、自己主張はしなくとも、登場人物の心に何らかの影響を与え続ける。

昼と夜とで表情を変える建物もある。表向きはぐっと存在感を放ちながらも裏に回るとまったく違う印象を放つものもある。内部を突き抜けて中庭に出るとそこに別世界が広がっていることもある。人と同じく、建築物もまたここでは大切な登場人物の一人なのだ。

建築物に思いを馳せたり、語り合ったり、その存在に何かを投影することを通じて、止まっていた二人の時間はまたゆっくりと動き出す。1時間40分ほどの映画だが、コゴナダ監督が紡ぐ柔らかく優しい映像、もっと言うと、人を否定したり拒絶したりせずあらゆるものを受け入れていく映像世界に安らぎを覚える。ずっと身を浸していたくなる一作である。

 

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