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2020/03/23

『恐竜が教えてくれたこと』

児童文学が原作とはいえ、この映画は決して侮れない。

むしろ子ども時代を経由していつの間にか大人になってしまった私たちの方こそ、本作の展開に感じ入ってしまう部分が多いのではないか。

 

子ども時代というものは不思議だ。自分の独りよがりとも言える想像力を縦横無尽に巡らせながら、本当に様々なことを考えたものである。宇宙が無限に広がっていると聞くと、「無限」という概念に胸が苦しくなった。人の命が有限だと聞いた時には「死」という言葉の重みに耐えきれず、洗濯物にくるまって泣いた覚えもある。そして自分のいる環境に満ち足りていればいるほど、いつしかそれが欠けたり失われたりしてしまうことを想像し、必要以上に恐怖したものだ。

本作の主人公もまた、大切な家族が一人また一人とこの世からいなった時のことを思い浮かべ、いつしか自分がひとりぼっちになっても孤独に耐えられるようにとトレーニングに余念がない。

これがもし彼一人だと、最終的に本作は最終的に「死」についての話へと突き進んでしまいそうな気がする。だが実際のところ、この物語はもう一人の少女との両輪で回っているのだ。シングルマザーの元で育った彼女は、この地球上のどこかにいる自分の父親に会いたいと心から願っている。彼女の存在によってこの物語世界は絶妙に均衡が保たれているかのようだ。

かくも「無」を想像する少年と「有」を望む少女の対比があり、そこから「存在/不在」について様々な思考が駆け巡っていく。

その中で、少年が父親の姿を見つめ、ふと「もしもパパが赤の他人で、今初めて出会ったとしたら、僕はどう感じるだろう?」と思いをはせるシーンがある。こうした一瞬の意識の揺らぎによって人間を「社会から解き放たれた個人」として見つめてみたり、またある時には「自分が世界の中心」として成り立っている部分を巧妙にひっくり返すことで、少年の中の前提条件を静かに揺さぶってみようとする。実際のところ極めて哲学的だし、物語のテーマとしてもびっくりするほど高度なものを扱っている。だがその筆致は難解に見えることなど全くなく、羽根が生えたみたいに軽やかだ。

これは少年の忘れ得ぬひと夏の恋物語でありながら、なおかつ「自分」にとって「他者」の存在はいかなるものか、はたまた個々をつなぐものは一体何なのかについてわかりやすく、そして柔らかく問いかける物語である。その上で、たった一人ぼっちで器用に生き延びた恐竜なんていやしない、我々人間だってきっと同じだ、ということを逆説的に伝えてくれる。

舞台がオランダのテルスヘリング島というのも興味深い。おそらく恐竜たちが生きていた6600万年前にも、この美しい海と青空と砂浜が組み合わさった光景が地球上のいたるところに広がっていたはずだ。

Googleマップ上でその位置を確認してみた。テルスへリング島の属する西フリースラント諸島はまるで恐竜の尻尾のように見えた。

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