2010年2月17日 (水)

コララインとボタンの魔女

築150年の家に引っ越したばかりの少女コラライン。パパもママも仕事で忙しく構ってなどくれない。そんな矢先に見つけた秘密の扉。好奇心に導かれるまま開いてみると、そこは現実と違う夢のような世界だった…。Button

原作が宮崎アニメ大好きな多芸者ニール・ゲイマンなので『千と千尋』っぽい物語かなと思ってたら…もうこれは、コララインに先んじて僕らが「秘密の扉」を開けてしまったかのような映像世界。冒頭、一体の縫いぐるみが宙に浮かび手際よくツツツと糸をほどかれる。内臓の代わりに白綿がぶわっ。そうそうこの感じ。これが『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』(劇場公開から16年!)を手掛けたヘンリー・セリック監督の、ちょっとダークだけど、なんだか愛らしくもあるストップモーション・アニメなのだ。ここで心掴まれるや、あとは一気に跳べる。ツンとした黒猫。奇怪な仮面のバイク男子。ネズミのサーカス。子供たちのゴースト。僕らはすっかり別次元の触感へと導かれ、その一挙手一投足に溜息を洩らす。ふー。

そもそも映画の1秒間はフィルムの24コマ。少女のほんのささやかな表情の移ろいを描くにしても、いったいどれほどの集中力と粘り強さ、アーティスティックな引き出しが必要とされたのだろう。実際には作りモノであっても、フィルムを介して見つめたときに彼らは躍動感たっぷりに生きている。1コマ1コマ、血が通い、息をしている。この撮影に4年かかったというのだから、リアルであれフィクションであれ、生命を吹き込むとはいかに大変な所業なのか思い知らされる。

そしてスクリーンでは徐々に、願望世界が化けの皮をほころばせる。水面張力が限界を越えて弾けるみたいに、今度はめくるめく狂騒が洪水みたく襲ってくる。このギアの切り替えも見どころのひとつ。今回は『ナイトメア~』みたいにミュージカル調ではないものの、『コラライン』にも月の満ち欠けのような音楽的なダイナミズムが脈々と流れ、感情の浮き沈みを司っているかのようだ。Button_3 また、すっかり海の向こうのお話と思いがちだが、実は本作、日本からもコンセプト・アーティストとして上杉忠弘氏がエキスを注入している。ここに息づくキャラクター、お屋敷、部屋のデザイン、コスチュームはすべて上杉氏のイラストレーションを基に少しずつ具象を帯びていったもの。そして先日開催されたアニメ界の祭典アニー賞授賞式では、見事、氏が「プロダクション・デザイン」部門で最優秀賞獲得を果たした。

これは同じ日本人として心より祝福しながらも、他にも上杉さんのような才能が何百人と束になって『コラライン』のキャラクターを1コマ1コマ動かしてきたことを思うと、あらためて映画作りというものが途方もない共同創作であると気付かされる。

東欧アニメ、ウォレスとグルミット、そしてナイトメア…。どうしてストップモーション・アニメはこれほどまでに愛されるのだろう。実写でなく、フル・アニメでもなく、恐るべき手間暇をこかけざるをえないこの方法論。映画は時代と共に進化していくトリッキーな存在だが、でもこの手法だけは、いつどの時代でも嘘をつけない気がする。本作が『アバター』とおなじ3D上映であるとしても、そこには“理解可能な技術”として、なんだかとても安心できるものがある。

そこに手の温もりがしっかりと残っている感覚。僕はストップモーションを目にするといつも、無性におじいちゃん、おばあちゃんの手のひらを思いだしてしまうのだが…あなたはどうですか?

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コララインとボタンの魔女 監督:ヘンリー・セリック ボイス・キャスト(オリジナル):ダコタ・ファニング、テリー・ハッチャー(2009年/アメリカ)ギャガ 2月20日(土)TOHOシネマズ シャンテほかにてロードショー

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2010年2月14日 (日)

新しい人生のはじめかた

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、お手軽な文系スポーツ。今回のお題は『新しい人生のはじめかた』です。

ロンドン旅行のお供、だけじゃなく、もっと英国を知りたい人におススメ。
初老のアメリカ人男性が娘の結婚式のためにロンドンへ。だがこの街で孤独に苛まれた彼は、これまた孤独に佇む空港職員と出逢い…。ヴァージンアトランティックの機内誌で「おススメ!」と紹介されていた本作。なるほど、当機の向かうヒースロー空港が舞台のひとつだし、ヒースロー・エクスプレス→ロンドン中心部→テムズ河のほとりという定番コースも旅行者には嬉しい。でも本作はそれだけじゃなく、英国人に自らの国民性を見つめさせ、うん、まんざら悪くない、と思わせるウェルメイド感にも満ちている。英国産ながら昨年のゴールデングローブでは主演女優&男優賞候補に(*)。2大俳優のこれまでになく寂しげ、かつ踏み出せない心を優しく映しだし、そっと人生の背中を押してくれる佳作。
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(*)その代わり英国のアカデミー賞にあたるBaftaアワードにはノミネートされていない。
ご当地の観客以上にハリウッド在住の外国人記者たちによって評価された英国映画として
本作は極めて特殊な地位を築いている

新しい人生のはじめかた
監督:ジョエル・ホプキンス
出演:ダスティン・ホフマン、エマ・トンプソン、アイリーン・アトキンス
(2008年/イギリス)クロックワークス
2月6日(土)TOHOシネマズ シャンテほかにてロードショー

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2010年2月11日 (木)

第9地区

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、お手軽な文系スポーツ。今回のお題は『第9地区』です。

District9

LAでもNYでもなく、それはヨハネスブルグで起こった―。
ある日突然、市民の頭上に巨大UFOが出現、そして立ち往生。見かねた政府によって救助された大量のエイリアンは“第9地区”へ隔離されるが、28年後、その地は犯罪と暴力の温床と化していた…って、一体全体なんちゅう発想力!これは“招かれざる隣人”をめぐる社会派ドキュメンタリーの体裁を取りながら、いつしかパワー全快のSFアクションにまでジャンルを進化させていく驚くべき異色作だ。ごく平凡な当局職員による決死の覚悟に心震え、なおかつエイリアン親子の愛に胸熱くなる。すべては南ア生まれ&ロス・ジェネ世代監督の生々しい原体験と、遊び心溢れるガジェット・ビジュアルの賜物。この高度な合わせ技にピーター・ジャクソンンが惚れ込んだのも頷ける。

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第9地区
監督:ニール・ブロムカンプ
製作:ピーター・ジャクソン
出演:シャルト・コプリー、デヴィッド・ジェームズ、ジェイソン・コープ
(2009年/アメリカ)ワーナー・ブラザーズ映画×ギャガ
4月、
全国ロードショー

’79年生まれのブロムカンプ監督は、そもそもピーター・ジャクソンの指揮下でゲームソフト「Halo」の映画化で監督デビューする予定だったが、スタジオ側のゴタゴタであえなく頓挫。しかしその代償として、大傑作『第9地区』が世に出ることになったとは・・・なんとも皮肉な話です。そして本作の原案となった短編"Alive in Joburg"はこちら。

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2010年2月 9日 (火)

ハート・ロッカー

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、お手軽な文系スポーツ。今回のお題は『ハート・ロッカー』です。

手に汗が異常発汗。これは最高の娯楽であり、耐えがたい真実でもある。
04年、バグダッド。爆弾処理兵の背後で爆音が響く。その凄まじい衝撃はあたりの砂塵と兵士の身体をスローモーションで巻き上げ、次の瞬間、勢いよく地面へと叩きつける…。このたったワンシーンで僕らの感覚を制御する安全装置は崩壊。脳震盪みたく意識をクラクラさせながらも映画は待ってなどくれず、身の震えるほどの緊張感が容赦なく更新されていく。これこそ紛れもない米兵の日常。恐怖ってなに?ここは生と死のどっち側?そんな葛藤へ観客を突き落とすビグローの鬼気迫る描写力は、元夫キャメロンと作った『ハート・ブルー』『ストレンジ・デイズ』が遊戯に見えるほど。彼女もまた映画を革新した。これがつまり、アクションの新境地なのだ。
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ハート・ロッカー
監督:キャスリン・ビグロー
出演:ジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラティ
ガイ・ピアース、レイフ・ファインズ、デヴィッド・モース
(2008年/アメリカ)ブロードメディア・スタジオ
3月6日全国ロードショー

オスカー授賞式は3月8日。『アバター』との一騎打ちが予想される本作だが、技術面でジェームズ・キャメロンに敵う者はいないが、アクション描写に関してはビグローの手腕が明らかに勝っている。しかも『ハート・ロッカー』の製作費は1500万ドルというかなりの低予算(アバターの20分の1という噂も)。規模は違えど、ゼロから何かを生み出すというそれぞれの創作魂に対し、アカデミー協会がいかなる審判を下すのか、要注目。
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2010年1月16日 (土)

かいじゅうたちのいるところ

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、お手軽な文系スポーツ。今回のお題は『かいじゅうたちのいるところ』です。

さあ、かいじゅうおどりをはじめよう!!!うおっーー!!!!
まぶしい光の中、男の子が雪崩の如く階段を駆け下りる。大人たちはこのダイナミックなカメラワークが原作1ページ目の忠実なる再現とは気付かぬまま少年マックスの心に潜り込んでいくことだろう。幼さゆえの獰猛ぶりでひたすら愛情をむさぼる「かいじゅう」は、ママと喧嘩して自宅を飛び出ると、ぐんぐん走って、漕いで、ふと気がつくとそこは、かいじゅうたちのいるところ…。デジタル処理によって表情を獲得した怪獣たちが、動く、跳ねる、踊る。彼らとの愉快かつ極度にセンシティブな交流を通じ、マックスが他者との関係、そして他者に対する責任について学んでいく姿にキュンとくる。カレンOが手掛ける音楽も少年の心を代弁するかのようで圧倒的に素晴らしい。

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かいじゅうたちのいるところ
監督:スパイク・ジョーンズ
出演:マックス・レコーズ、キャサリン・キーナー、マーク・ラファロ
(2009年/アメリカ)ワーナー・ブラザーズ映画
1月15日より全国ロードショー


ちなみに予告編で使用されている楽曲はカナディアン・バンドThe Arcade Fireによる"Wake Up"。この映画のために再録されながら本編には登場しません。

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ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、お手軽な文系スポーツ。今回のお題は『ミレアにアム ドラゴン・タトゥーの女』です。

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2010年1月15日 (金)

板尾創路の脱獄王

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、お手軽な文系スポーツ。今回のお題は『板尾創路の脱獄王』です。

笑いではなく、胸の奥をむず痒くさせる妙技。
どんなに緊迫した場面でも彼の周囲だけは特殊な時間が流れる―。そんな類稀なる存在感により多くの監督からラブコールの絶えない板尾創路が、満を持して自分自身を演出する。それは昭和初期、些細な罪により逮捕され、その後、度重なる脱獄に挑んだ男の物語。逃げる。でもすぐに捕まる。その繰り返し。はたしてその行動に隠された真意とは…?ほんの軽い気持ちで見始めたものの、だんだん目の離せない展開に。というのも、板尾の先天的な“天然ぶり”が大勢のスタッフを介して緻密に再構築されていく妙技に恐れ入ったのだ。これはある意味、マルコヴィッチならぬ、板尾創路の頭の中なのかも。それにいぶし銀を添える國村準も絶妙に光る。あんた最高だよ!

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板尾創路の脱獄王
監督:板尾創路
出演:板尾創路、國村準、ぼんちおさむ、
オール巨人、笑福亭松之助、石坂浩二
(2009年/日本)角川映画
1月16日より角川シネマ新宿、渋谷シアターN他にて
全国公開

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2010年1月12日 (火)

シャーロック・ホームズ

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、お手軽な文系スポーツ。今回のお題は『シャーロック・ホームズ』です。

ホームズよりもダウニーJr.がメインのショータイム

アメコミが原作者を代えリニューアルしつづけるように、19世紀末より蘇りしこのミステリー・アイコンも大きく様変わりを遂げた。こと映画になると秘密結社を持ち出したがる推理モノの定石に従いつつも、ビジュアル先行型のガイ・リッチーは物語を捜査の中途から起動させるし、ホームズは半裸で格闘、婚約を控えたワトソンに嫉妬、自分を出し抜いたマドモワゼルに恋心すら芽生えさせる。そんな破天荒なトリックスターもダウニーJr.の存在感あってこそ。そして側に控えるジュード・ロウとのツーショットを目にすると、「ミステリーは皆無」といった不満も吹き飛んでしまう。次回作、宿敵モリアーティ役にブラピの名も挙がっているが、さてどうなる?


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シャーロック・ホームズ
監督:ガイ・リッチー
出演:ロバート・ダウニーJr.、ジュード・ロウ、レイチェル・マクアダムス、
マーク・ストロング、エディ・サーマン
(2009年/アメリカ)ワーナーブラザーズ映画
3月12日(金)、丸の内ルーブル他全国ロードショー

僕のなかでは、ホームズというとジェレミー・ブレットの容姿に露口茂の吹き替えという組み合わせが焼き付いています。が、下のクリップを見ると・・・案外、ダウニーJr.は的役なのかも!

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2010年1月 6日 (水)

ラブリー・ボーン

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、お手軽な文系スポーツ。今回のお題は『ラブリー・ボーン』です。

Lovely_bones

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2009年12月22日 (火)

蘇りの血

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、お手軽な文系スポーツ。今回のお題は『蘇りの血』です。

あの世から、血まみれになって二度目の産声をあげた男。
最高傑作と名高い『空中庭園』の公開直前、自ら引き起こした事件によってフェイドアウトを余儀なくされた豊田利晃。再起復活となる本作は、有史以前の神話世界を舞台に、一度は命を落とした按摩師があの世から現世へカムバックし、自堕落で無慈悲な王に囚われた少女を救いだそうとする。こんな異様な空気を練り上げる才能はいまだに日本で彼しかいないし、映像からは血まみれの赤子が母の胎内より生まれ来る感覚がヒリヒリと伝わってくる。上映時間の短さとスローモーションの多様がやや悔やまれるが、音楽と映像の相乗効果という意味では相変わらずのボルテージをみなぎらせる。今回はまだまだ軽いジョブ。今後の豊田のセカンド・ステージの序曲として受け止めたい。

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蘇りの血
監督:豊田利晃
出演:中村達也、草刈麻有、渋川清彦
新井浩文、板尾創路、マメ山田
(2009年/日本)ファントム・フィルム
12月19日(土)ユーロスペースほかにて全国順次公開

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