2010/08/01

アクターズ・スタジオ・インタビュー(BOOK)

名物番組「アクターズ・スタジオ・インタビュー」を日本で享受するファンにとって、これほど情報量に欠ける人物はない。裁判官のような生真面目な表情で、綿密な取材に基づいたブルーの質問カードを一枚一枚めくっていくその御仁の名は、ジェームズ・リプトン氏。生年月日を見て驚いた。なんと1926年生まれだという。

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リプトン氏が言葉を尽くした本作は、大きく2部に分かれる。前半は自身の半生がじっくりと描かれ、後半は「アクターズ・スタジオ・インタビュー」で立ち会った名シーンの数々を司会者兼プロデューサーならではのエピソードとを交えて巧みにアーカイブしていく。

読み終わって溜息が出た。圧倒的な分量。なんと600ページ強だ。そしてこの筆圧が読者を惹きつけてやまない。本書を読めばこれから先、ブラピやジョニデやアンジーだとか、当番組にいかなる超有名スターを招聘されようとも、僕らは口を揃えてこう断言することだろう。「リプトン氏こそが真のヒーローである」と。またその想いはアメリカ中から「この番組にだけは出たい!」とやってくるゲスト諸氏らにも深く共通するものなのだ。

彼のポーカーフェイスはすべてフェイクだ。本当は凄くおちゃめな人。「サタデー・ナイト・ライブ」で自身をモノマネしたウィル・フェレルをゲストに招いて「Wリプトン態勢」で番組をお送りしたり、またあるときには自身がアニメとなり「シンプソンズ」へと飛び込み、出演者へのインタビューを試みたりもする。ゲストと飛行機の話になると止まらなくなる。映画館のポップコーン売り場で行ったスピルバーグへの出演交渉や、結局最後まで出演の叶わなかったマーロン・ブランドとの電話での極秘会談の経緯も色鮮やかに収録。これらはもはや記録というより伝説の名にふさわしい。

また、ゲストが勇気を振り絞ってこのトーク番組に臨む姿をリプトン氏は真摯な筆遣いで伝える。あのハリソン・フォードは開始直前の舞台袖で緊張のあまりガクガク手を震わせていたという。『スーパーマン』として名高いクリストファー・リーヴは身体の麻痺を押して番組出演し、ステージ上で発作に見舞われたときも常にユーモアを忘れず、観客席にいる俳優の卵たちに自分の生き様を伝えた。

別に病気や障害がどうこういうわけではない。かくも映画人(特に俳優)とは自分の痛みや感情をさらけ出して観客に伝える壮絶な職種なのである。発言の端々に垣間見える彼らの強靭な意志に圧倒され、ページをめくるごとに新たな涙がこぼれた。またゲストからこれらの言葉を巧みに引き出すジェームズ・リプトン氏のパーソナリティは、まさに本書の前半に描かれた濃厚すぎる演技人生をくぐりぬけてこそ培われたもの。

願わくば映画界の至宝リプトン氏が末永くお元気でこの番組を続けられますように。そしてNHKが放送回数を渋らず、最新シリーズを快くレギュラー化してくれますように。

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2010/07/07

MORSE モールス

昨年、一つのスウェーデン映画が欧米をはじめ世界中に衝撃をもたらした。そのタイトルは"Let The Right One In"。日本では『ぼくのエリ/200歳の少女』という邦題で今週末より順次公開となる。

内容はというと。。。12歳の少女ヴァンパイアといじめられっ子の少年とが織りなす『小さな恋のメロディ』。。。といえばイメージが湧きやすいだろうか。映画の製作者に言わせると「とにかく原作に魅了されたんだ」とのことなので、日本でも翻訳出版されている原作本「モールス」を手にしてみた。作者のヨン・アイヴィデ・リンドグヴィストは"Let The Right One In
"の脚本も手がけている。

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ストックホルムにほど近い住宅地で殺人事件が起きる。その手法はかなり儀式めいており、被害者は逆さに吊るされ、生血を抜かれていた。平和そのものだったこの街で、いったい誰が…!?同じころ、少年の暮らすアパートの隣部屋に少女が引っ越してくる。エリと名乗る彼女は、父親らしき男と二人暮らしのようだった。昼間にその姿を見ることは無い。いつも彼女と出逢うのは夜。「きみとは友達になれないよ」とエリは言う。その奇妙な立ち振る舞い、言動、そして日ごとに全く異なる顔色。漂う臭気。少年は彼女のことが少しずつ気になりはじめる。学校でいじめられてばかりいる少年にとって、彼女は大切な話し相手になっていく。そして彼の心にはエリへの恋心らしき想いさえ芽生え始めていた。彼女の正体が何者であるか、知らないで。。。

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2010/05/27

高慢と偏見とゾンビ(BOOK)

ナタリー・ポートマンが製作・主演を務め、『スリー・キングス』『ハッカビーズ』のデヴィッド・O・ラッセルが監督を務める形で映画化が進みはじめた本作。
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マッシュアップ小説というのだそうだ。あるいはハイブリッド小説とも。

要は、ヒップホップ音楽などでよくみられる「オリジナル楽曲をそのまま用いた上に、新しいフレーバーをまぶす」手法を、かの有名なジェーン・オースティンの名著「高慢と偏見」の頭上にも炸裂させてやりました、的な暴挙に出てしまったわけだ、この著者セス・グレアム・スミスという男はっ!

言うまでもなく原作の著作権は既にフリー。つまり、私もあなたもグレアムにも、この題材を自由にいじくって遊ぶ権利がある。あとがきによると、本作は約8割を原文のまま使用し、そこに「ゾンビ」のフレーバーをまぶして出来上がったという。舞台は18世紀、英国の田舎町。その全土は奇病の恐怖にさらされていた。それにひとたび感染すると、次第に身体が腐敗し、生きた屍となって人間の生血を求め彷徨い歩くようになる。そして今日も、その病原体を保持したゾンビ軍団が集団となってダンスパーティーを襲う・・・。

そこで敢然と立ち向かうのが、ベネット家の5人姉妹だ。父の教育方針で、中国の山奥でかの高名な少林派のペイ・リュウ師匠の厳しい訓練に耐え、いまやすっかり男顔負けのストイックなゾンビハンターとなった彼女たちが、いとも簡単に屍どもを撃退する。そんな中、次女エリザベスは、高慢な紳士にして戦士ミスター・ダーシーに惹かれていることを意識しはじめ。。。そのような精神的な弱さに直面するたびに、己の身体に不名誉の七つの傷を刻み、その血を滴らせる始末。

とにかく、意図はからきし分からんが、男尊女卑の世の中で彼女らは乙女として甲斐甲斐しく振舞いながらも、一方で残虐極まりないなほど最強なのである。この一つの身体にアンビバレントな性質を持ち合わせたキャラクターたちが、恋にも、武術にも、生き生きと青春街道をひた走る。

ちなみに先日、セス・グレアム・スミスの新しい著書が発売されたのだが、そのタイトルは"Abraham Lincoln:Vampire Hunter"。タイトルがすべてを言い表しているが、つまりはリンカーンが政治を司りつつも、ヴァンパイア退治に奔走する、という。そしてこれが店頭に並ぶよりも早くも「ティム・バートン&ティムール・ベクマンベトフが映画化権を取得」というニュースが報じられた。アニメーション映画『9<ナイン>』でもコンビを組んだ彼らは、本作でも製作に徹するらしい。

ともかく、本にも映画にも、マッシュアップ&ハイブリッドの時代がやってきたようだ。

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2010/05/16

ユゴーの不思議な発明(BOOK)

先日、マーティン・スコセッシの次回作として驚くべき作品が発表された。

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児童文学である
。しかも3D作品として製作されるという。巨匠が長年温めてきた遠藤周作原作の「沈黙」の映画化を後回しにしてまで(今回は製作開始ギリギリのところまでいったのに!)取り組まざるを得なかった本作「ユゴーの不思議な発明」とはいったいどんな作品なのだろうか。

それは子供向けにしてはあまりに分厚いハードカバーだった。全部で600ページ近くある。しかしすべてが文字ばかりというわけではない。文字ページが続いたなと思ったら、続いてページをめくるや、イラストのつぶてが矢継ぎ早に挿入されていく。まるで映画の絵コンテのよう。つまり本作は時おり鮮やかに言葉を消滅させ、絵がその語りを代弁する瞬間を数多く有しているのだ。

舞台は1931年のパリ駅。構内の時計を管理する少年ユゴー・カブレには秘密があった。彼の部屋には壊れたカラクリ人形が一体。それは机に向かってペンで何かを書きはじめる態勢のまま止まっている。ユゴーはいつの日かこれを修理し、人形がいったい何を描くのか、この目で見たいと願っている。そのためには人形のからくりを研究し、足りない部品をどこかからか調達しなければならない。今日もおもちゃ屋でヒョイと手を伸ばしてはお目当ての部品の詰まったおもちゃをポケットへ、と思ったら、店主に腕を掴まれ。。。

はじめのほうは幻想的なファンタジーなのかと思っていた。けれど、中盤から愕然とした。こ、これは・・・映画だ!原作を彩る最重要のエッセンスとして「映画の誕生」が用いられているのだ。なるほど、舞台がリュミエール兄弟のお膝元のパリなのも納得だ。それに、本作にはあの映画監督までもが、象徴的な映画写真と共に登場する。そもそも後に映画監督と呼ばれた人たちは、それ以前にどんな職業に従事していたのか。どういう発想で映画のトリックが生まれたのか。これはあくまでフィクションだが、そこに発露している想いはおそらくその原風景と変わるまい。

そして期せずして、物語の展開には、スコセッシが創立したWorld Cinema Foundationの理念があふれ出す。世界には今にも倉庫の片隅で人知れず腐敗した貴重なフィルムが数多く存在する。それらを保存し、修復するのが彼らの掲げる最重要課題だ。本作のクライマックスにも。。。おっと、これ以上はネタばらしが過ぎる。

少なくとも本作は3Dの質感に打ってつけだ。立体的に映し出されるパリの街並みと、数多く登場する機械仕掛け。それからあの名作映画たち!もしかすると、リュミエールの『列車の到着』や、ハロルド・ロイドの有名な宙ぶらりん場面、はたまた映画史上もっとも有名な「月の顔」さえも新たな3D体験として享受できるのかもしれない。今から完成が楽しみだ。

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2010/05/07

ザ・ロード(BOOK)

世界終焉の絶望的ランドスケープを、父子がゆく。。。The_road_2 

原因は分からない。それは突如として巻き起こった。生き残った父と幼い息子は、ショッピング・カートに荷物を詰め込み、まるで子連れ狼のごとく大陸を移動していく。腰元には一丁の拳銃。護身というよりは自殺用だ。あるいは最後のその瞬間が訪れるまでの護身用、と言ったほうが正確かもしれない。ときどき遭遇する人間はみな生き残るために心を捨てた者ばかり。奪い合い、傷つけ、そしてひもじさのあまり人肉を口にする者までいる。そんな中、父は幼子の健気な質問に答え続ける。この子がいなければ父は簡単に人間性など忘却できたのかもしれない。しかしいま目の前には息子がいる。だからこそ彼らは絶望的な世界の中でも“善き者”であり続けようとする。

「ぼくらは火を運んでいるんだ」

この一言が幾度も繰り返される。読者ははじめこの意味が分からないが、彼らの旅を通じて徐々におぼろげながらその意味するところが掴めてくる。これは父から子へと受け継がれていく“生命の授業”と言えるのかもしれない。人間の寄る辺が余すところなく消滅してしまった世界で、人間は何を目撃し、いかに苦しみ、何を神に問いかけ、そして身近な者へ何を伝えていこうとするのか。ずっと父親の視点に肉薄していたはずの語り口がやがて幼子によって牽引されるとき、誰もが本作をただのSF黙示録とは思わないはずだ。これはおそらく、誰もが体験する、とてつもなく身近な物語であるに違いない。

著者は現代の最重要作家のひとりとして数えられるコーマック・マッカーシー。高齢になって授かった幼い息子を見つめながら、ああ、この子が大人になるとき、世界はどうなっているだろうか、と想像しながら執筆にあたったようだ。映画化された彼の作品には『すべての美しい馬』や『ノーカントリー』が挙げられる。そして本作の映画版も昨年全米公開。6月末には日本でも封切られる。父親役にはヴィゴ・モーテンセン。彼の温かくも、息子のためなら冷徹にだってなれる激しさが、観賞後ずっと、心のなかに光と影を遺し続けている。

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2010/04/29

「ニューヨーク・チルドレン」(BOOK)

2週間くらい格闘していた。女流作家クレア・メスードが2006年に著し、翻訳本は既に絶版になっている「ニューヨーク・チルドレン」(原題"The Emperor's Children")をようやく読了。
Children_2巻末のあとがきには「ロン・ハワード監督、ノア・バウムバック脚本で映画化が決定している」と記してあったが、最新情報によると、ロン・ハワードは製作へと退き、監督&脚本ともにバウムバックが手掛ける。『イカとクジラ』、「マーゴット・ウェディング」(未)、そして最新作"Greenberg"も好評なこの俊英監督だが、両親がジャーナリストという特殊な環境で育った経歴もあり、まさに彼にとって勝負の一作となることは間違いない。

作品は群像劇の形態をとる。かつて同じ大学で学んだ3人の親友男女(高名なジャーナリストを父に持つマリーナ、TV局ディレクターのダニエール、同性愛者のジュリアス)が、10年後の30歳になった時分でもなんとか友情を保ちつつ、それぞれのニューヨーク・ライフを送っていく。時代背景となるのは00年から01年にかけて。その間、オーストラリアからは野心に満ちた編集者シーリーが「革命を起こす」と言ってこの地に乗り込み、また南部の片田舎からは大学教育に失望した青年ブーティが新たな展望を夢見て、やはりこの地にやってくる。彼らは皆それぞれに人生の多感な時期を送り、裏切り、裏切られ、友情も愛情もほんのわずかなバランスのもとで崩壊寸前になりながら毎日をやり過ごしていく。そして、忘れもしないあの運命の瞬間が、この街に訪れる。。。

ハードカバーは600ページからなり、かなりの重厚感がある。皆がジャーナリスト(あるいは志望)なだけに、ストーリーは常に社会に対し歯に衣着せぬ目線でサバサバと展開するが、ラストの100ページでその文体は急激に湿度を帯びる。タイムリミットと共に弾け飛んだタガがすべての関係性をリセットするかのように、それぞれの胸中に変化と贖罪と絶望をもたらしていく。

ああ、これは映画でもきっと壮大な人間ドラマになるだろう。これまで人間が抱えた悶々たる想いをコミカルに紡いできたバウムバックだが、果たしてこのクライマックスの悲劇でいかに状況を揺さぶれるか。楽しみでもあり、不安でもある。彼にその覚悟がほんとうにあるのか。。。?

ちなみに現在までに候補に挙がっているキャストは、キーラ・ナイトレー(マリーナ)、リチャード・ギア(マレーナの父)、エリック・バナ(シーリー)。そしてミシェル・ウィリアムズがダニエール役に立候補しているという噂もあり、今後の進展が気になるところだ。

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