2020/03/15

ヒッチコック『知りすぎていた男』(56)

このタイミングに普段あまりできなかったことを実践しようと思い、手当たり次第、ヒッチコック作品を紐解いている。お時間ある方は是非お付き合いのほどを。今回のお題は『知りすぎていた男』。

 

 

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本作は『暗殺者の家』('34)をヒッチコック自身がセルフリメイクしたものだ。もっとも、前作はイギリス映画だが、リメイク版はパラマウント製作のアメリカ映画。ヒッチコック自身は両作の違いについて「オリジナル版はアマチュアの傑作、リメイク版はプロの傑作」と語っている。

物語はモロッコで幕を開ける。にぎわう市場で殺人事件に遭遇したスチュワート演じる医師は、死にゆくその男から「要人を狙った暗殺計画が進行中」とメッセージと告げられ、間髪入れず、別の男からは「メッセージを明かしたら、息子の命はない」との脅迫を受ける。結果的に警察の手を借りず、ドリス・デイ演じる妻とともに奔走するしか術がなくなるのだが・・・。

やがて舞台はロンドンへと移り、ロイヤル・アルバート・ホールで行われるオーケストラ演奏に合わせてボルテージも最高潮に。そのさなか、曲を締めくくるシンバルの「ジャーン!」のタイミングを狙って、暗殺者の銃口が向けられる。実は冒頭部分でこの部分がすでに示唆され、観る側にとって本作の流れそのものが、ここへ向けたカウントダウンとなる構成もまたニクい。

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演奏中にサスペンスが進行するという筋書きは、最近だと『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』にも用いられた。クリストファー・マッカリーら作り手たちが同じスパイ・サスペンス映画の大先輩であるこの傑作を意識しなかったことはまずありえないだろう。

ちなみに交響楽団の指揮者としてちらりと顔を出すのはバーナード・ハーマン。『サイコ』『めまい』などのヒッチコック代表作を音楽面で支えた偉大な作曲家である。

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2020/03/05

アマデウス

今から35年前のオスカーに輝いた傑作『アマデウス』について書きました

『アマデウス』と聞くと、クラシック音楽好きな方以外はどうしても体が膠着してしまうかもしれません。でも、これを「才能に恵まれた者」と「そうでない者」との人間ドラマとして見つめると、我々にとっても身近な物語のように思えてきます。まあ、間違いなくモーツァルトとサリエリの(フィクションをはらんだ)物語なのですが、これをあえてミロス・フォアマン監督の作家性や彼のたどった人生を通じて見つめてみました。そこで何が見えてきたかについてまとめています。

オスカーに輝いた『カッコーの巣の上で』や『アマデウス』を始め、フォアマンの作品はとにかくそのパワフルな人間描写が魅力。コロンビア大学ではジェームズ・マンゴールドの指導教授だったことでも知られる彼ですが、パワフルな人物描写といった部分はマンゴールドにもしっかりと受け継がれているように思えます。

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2017/10/18

ソフィア・コッポラの椿姫

映画監督ソフィア・コッポラが演出を務めたオペラ「椿姫」について書きました。現在、日本橋の映画館でその映像版が上映されています。音楽的にも素晴らしかったのですが、映画サイトということであくまで映画的な視点から、こちらも映画界では有名な人、美術監督ネイサン・クロウリーのことについて書いています。

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2016/04/16

グランドフィナーレ

4月16日より公開となる映画『グランドフィナーレ』(原題:Youth)のレビューを執筆しました。引退した作曲家の胸のうちを、様々な思いがよぎっていく物語。

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映像の魔術師が『グランドフィナーレ』で描く、甘く切ない”老い”の境地/リアルサウンド

フェリーニの再来とまで賞賛されるイタリアの名匠パオロ・ソレンティーノ監督の最新作です。御歳82となるマイケル・ケインと、76歳のハーヴェイ・カイテルが織りなす人間模様が本当に味わい深く、その一言一言のセリフや彼らの一挙手一投足にドキリとしたり、クスッと笑わされたり、人生という名の年輪を感じたり。

意外と取っ付きにくいことで知られるソレンティーノですが、今回は『グレート・ビューティー』とは違い、幅広い観客層に受け入れられる作品に仕上がっています。

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2016/02/29

偉大なるマルグリット

音痴な歌姫の物語、『偉大なるマルグリット』について書かせていただきました。

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”音痴な歌姫”はなぜ観客の心を揺さぶるのか セザール賞4部門受賞『偉大なるマルグリット』の魅力

自信満々に愛の歌を奏でる彼女ですが、実はジャイアン顔負けの、すごい音痴。けれど財力だけは多分にあるものだから、誰も「あなた音痴ですよ」とは言い出せない。。。それはそれで「悲劇」ではあるのだけれど、しかしある一点を越えると、なぜだか彼女の歌声が本物の愛の歌に聞こえてくる。そんな不思議な味わいがどうしようもなく胸に迫ってくる作品でした。

先日発表されたフランスのアカデミー賞ことセザール賞では主演女優賞を始め4部門に輝いています。ぜひご覧ください。

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2015/09/05

『ボーイ・ソプラノ』監督インタビュー

リアルサウンドにて、『ボーイ・ソプラノ』(原題 Boychoir)のフランソワ・ジラール監督へのインタビューの模様を執筆しております。

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美声に包まれた音楽映画『ボーイ・ソプラノ』監督が語る、映画作りで才能よりも大切なこと

ジラール監督といえば、映画にとどまらず、演劇やオペラ、そしてシルク・ドゥ・ソレイユの巨大なステージまで演出してしまう底知れぬ才人なのですが、とにかく謙虚な人で、「あなたの才能の源泉は何ですか?」といった質問をしても「いやいや、僕には才能なんてものがあるのかどうか。毎日が自問自答の連続で、ほんとうに嫌になるほどなんだ・・・」と率直に胸のうちを語ってくれたのが印象的でした。

9月11日公開となるこの『ボーイ・ソプラノ』。男子たるもの誰もが“声変わり”の瞬間を経験するわけで、とするとこのボーイ・ソプラノの歌声は、ほんの束の間、神様から許された奇跡の瞬間とも言えるのかもしれません。

きっと誰もがこの歌声のように唯一無二の才能に恵まれているはず。本作を観ながらつくづく「ああ、人生って無駄遣いできないものだなあ」と思い知らされました。

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2013/07/09

【レビュー】25年目の弦楽四重奏

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映画.comにて『25年目の弦楽四重奏』のレビューを執筆致しました。ハリウッドを代表する名優達が織り成すカルテット、その演技および演奏の響き合いをとくとご覧ください。

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2012/05/04

【NEWS】ダスティン・ホフマン監督作をワインスタインがお買い上げか?

Hoffan ダスティン・ホフマンによる監督作"Quartet"の配給権をめぐり、ハーヴェイ・ワインスタイン率いるワインスタイン・カンパニーが交渉入りしているという。

本作はおよそカンヌ映画祭を目途にバイヤーたちのもとへ仕上がってくるものとされていたが、昨年の同時期に『アーティスト』の配給権を先行取得したのと同様、ワインスタイン・カンパニーは他社に先んじて交渉を進め、いち早く作品を押さえようとしているようだ。もしやこの作品に次なるオスカーの可能性を見出しているのだろうか?

ロナルド・ハーウッドによる戯曲をハーウッド自身が脚色した本作は、引退したオペラシンガーたちが暮らすホームを舞台にしたコメディ。毎年、ヴェルディの誕生日にコンサートを開くことを慣わしとする彼らだが、今年はディーヴァ役のワケあり女性が演技はすれど歌唱を拒むという暴挙に出たことから、公演には大きな不協和音が生まれ・・・。

実はダスティン・ホフマンが監督業を試みたのはこれが初めてではない。1978年の"Straight Time"という作品は当初ホフマンの監督デビュー作として準備がなされていたものの、実際の撮影が始まると彼はこの役割を放棄。その穴を埋めるべく急きょウル・グロスバードが代理監督として登板することとなった。彼の名誉を考慮しての判断か、ホフマンの名前は同作の監督名としては並んでいない。

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2010/04/15

オーケストラ!

冒頭から驚いた。フランス映画だと聞いていたのに、響いてくるのはロシア語じゃないか・・・?僕はどう間違ってロシア映画を観に来てしまたんだろう。。。

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いや、フランス映画で正しかったのだ。前半の舞台がロシアなだけ。ソ連時代に天才指揮者として名を誇ったアンドレイは、とある事件をきっかけにその座から引きずり降ろされ、いまや劇場の清掃人となっていた。今日も大ホールのリハーサル風景を遠くから臨み、あの頃を思い出して手を左右に漂わせる。

そんな彼に千載一遇のチャンスが到来。たまたま清掃中だった部屋のFAXが一枚の文書を吐き出したのだ。それは劇場専属オーケストラへの出演依頼。それも公演地はフランス・パリ。アンドレイはすぐさまその文書を持って逃走し、かつての仲間たちを前に驚きの構想をぶち上げる。「もうこんな生活は耐えられない。俺たちで楽団をつくり、乗り込もう!」

かくしてアンドレイの挑戦は、散り散りになったかつての楽団員ひとりひとりの消息を尋ねるところから始まる。いまや様々な職に就いて何とか生き延びている彼ら。タクシー運転手や党の幹部、ユダヤ系の商人、ポルノ映画の音響担当までいる。ほかにも資金集めにギャングや企業家などを引き込み、寄せ集めオーケストラは瞬く間に個性であふれかえる。この展開、どこかで見覚えがあるなと、ふと思い至ったのが、『七人の侍』だった。ジャンルは全く違うが、負け組の逆襲といい、仲間集めといい、骨格となる部分は大いに共通する。ひとつ違うのは彼らは刀でなく楽器で、ハートで聴衆をぶった切るところか。

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まあ、そんなこんなで、ようやく後半、パリへ!ここでもいろいろと問題がてんこ盛りで、楽団員があまりにむちゃくちゃなので、さきほどの『七人の侍』的な惹きの良さも薄れてしまうのだが(いや、それでこそのオリジナリティなのだ)、ここで登場する重要人物こそ、ソロ・バイオリン奏者アンヌ=マリー。

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いつも映画を観る前は資料を読まないので、「どこかで観た覚えが・・・」などと思ってたら、ああ、メラニー・ロランではないか。前作とあまりに違うので驚いた。彼女はフランス国立管弦楽団のヴァイオリン奏者のもとで3ヶ月間の訓練を経てこの役に挑んだという。

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もちろん、この『イングロリアス・バスターズ』の画像のバックで流れていたような、デヴィッド・ボウイは流れない。ラストを飾るのはチャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.35」だ。それも12分間の(映画としては異例ともいえる長めの)短縮バージョンとして、これが見事にアレンジされている。かつてエド・ハリスがタイトル・ロールを演じた『敬愛なるベートーヴェン』では交響曲第9番「合唱」付きの初演が8分間に短縮され、これもなかなか見ごたえがあったが、本作もそれに負けないほどの感情のうねりと回想とプロローグさえも盛り込んで、クラシック・ファンの心をつかむ演奏シーンに仕上がっている。

でも、何よりもうれしいのは、エンターテインメントの骨格として、どんな政治体制に翻弄されようとも決して挫けない、崇高な芸術家魂を迸らせていることだ。それらは綺麗ごとではなく、なりふり構わず、ただひたすらにがむしゃらなもの。どのキャラクターもそうやって真剣に生きているからこそ、観客はその姿に思わず笑ってしまうのだろう。人を本当に笑わせることの根底には大きな感動こそ必要なのだと、改めて教えられた。

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2010/01/13

シャネル&ストラヴィンスキー

シャーリー・マクレーン主演の『ココ・シャネル』、オドレイ・トトゥが若き日のシャネルを演じた『ココ・アヴァン・シャネル』、そしてシャネル・イヤーの大トリを務めるのがこの『シャネル&ストラヴィンスキー』である。

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シャネルの人生にスポットライトを当てた前2作に比べて、本作はちょっと気色が違う。

デザイナーのココ・シャネル、作曲家のストラヴィンスキーという同じ時代に居合わせたふたりの寵児が、アーティストとして、男女として激しくその感性をぶつけあう。そのほんの一瞬の火花を見逃さず、それぞれの体内に流れる全く異なるメロディーを丹念に同期させていくのである。

よく映画の中での演技のぶつかり合いを“化学変化”などと言うが、これは歴史の裏側で“実際に起こったかもしれない”化学変化を、作り手の創造力を駆使して蘇らせた意欲作といえるだろう。

監督を務めるのは、もう10年も前になるが『ドーベルマン』のスタイリッシュかつ破天荒な映像で世界を驚愕させたヤン・クーネン。

今回は同じ人間の演出とは思えないほどの格調高さが香る。作り手がふたりの超人に心酔し、その奇跡的瞬間(当時を生きた人間でさえ、その実際を目の当たりにする者はいなかったのだから)の再現に息を潜めて立ち会っているかのような印象を受ける。

ただ、そのクーネンに背負わされたあまりの重責のせいか、中盤には男女のもどかしい縺れ合いが続き、いささか冗長な語り口に陥ってしまうのだが…

いや、正直、そんな細部はどうでもいいのだ!

というのも、本作はそれらの試行錯誤が瑣末に思えるほど、僕らが芸術を語る上で欠かせない歴史的大事件=ストラヴィンスキーの「春の祭典」初演をフィルムに再現しているのだから。

ストラヴィンスキー作曲、ニジンスキー振り付けによるこの新作バレエが与えた衝撃は大きい。バレエの伝統を覆す奇異なるステップ、白塗りのメイク、それに美しい情景やストーリーを語るのではなく人間の内なる感情の高鳴りにこそ肉薄した変拍子サウンド。。。

未体験の前衛表現とも芸術への愚弄とも受け取れる作品を目の当たりにした人々は瞬く間に混沌に陥った。ある者は罵声を浴びせて席を立ち、またある者は全身全霊を込めて賞賛の拍手を送る。このときパリのシャンゼルゼ劇場は両者の喧騒で演奏自体が聴こえなくなるほどだったという。

もちろん、後に「傑作」と呼ばれる作品を時代の最前列で受け止め、正当な判断を下すことは極めて困難な所業である。それこそ知識や才能ではなく、直感のなせるわざだ。

しかしこのときココ・シャネルは確かに「春の祭典」に何かを感じ取ったのであり、そこから始まる蜜月が彼女の「N°5」の香りをもたらすインスピレーションとなった(と本作は推定する)。

これはアーティストとして興奮に値する化学変化である。後の映画音楽に大きな影響を与えた、『サイコ』や『ジョーズ』のような、あの音楽の正体が知りたい。そして、当時そこに漂っていた香りを体感したい。ヤン・クーネンもその目撃者でありたいと心から欲し、誰もやらないからこそ今ここにその場面を自らの意志で出現させたのだろう。

ある意味、クーネンの脳内では最初から最後まで、あの衝撃的な「春の祭典」が鳴りつづけていたのかもしれない。

そんな作り手の想いを見透かすように、舞台はいきなり晩年へ跳ぶ。

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シャネルとストラヴィンスキーが、それぞれ別の場所で、かつての束の間の蜜月へ、ふと想いを馳せる。その瞬間、スクリーンには再びあの「春の祭典」キャストらがのっそりと現れ、白塗りの顔を寄せ合ってじっとこちらを見つめてくるのである。

精霊のように。

または芸術という名の魔物のように。

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シャネル&ストラヴィンスキー
監督:ヤン・クーネン
出演:アナ・ムグラリス、マッツ・ミケルセン
(2009年/フランス)ヘキサゴン・ピクチャーズ

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