2020/10/18

ジョー・ライト監督作『ハンナ』

もはやファミリー向けの売れ線しか置いてなくて使い物にならんと思い込んでいた近所のレンタル屋にロベール・ブレッソンが置いてあることが判明し、代表作『スリ』を借りた。先日、CINEMOREで取り上げたジョー・ライト監督作『ハンナ』に『スリ』がインスピレーションを与えているのを何かで読んだからだ。なるほど、動線や目線を大事にしながら、やがて訪れる決定的な瞬間に至るまでの状況と緊張感としなやかな体の動きを静謐に紡ぎだすこの一連の流れ。もはや神業というほかない。たとえお金はかかっていなくても自らのスタイルを維持し、ここまで鮮烈な印象を撮り切るところに強靭な作家性を感じる。それにしても、レンタル屋に行くと未見のタイトルばかりが目に飛び込んできて、自分の不勉強ぶりに恥じ入るばかり。そういったものから距離を置かず、一つ一つ攻略していくところにこそ、最大の喜びがあるわけだけれど。

 

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2020/08/27

『未来世紀ブラジル』

言わずと知れた80年代が生んだ奇想天外なSFファンタジー『未来世紀ブラジル』。この映画について私が長年抱えていた疑問が二つありました。一つは「なぜ、ブラジルなのか?」。そしてもう一つは「どうしてデ・ニーロが出てるの?」。このたび、執筆の機会を頂きましたので、幾つかの書籍をあたりながら探ってみました。

『未来世紀ブラジル』誕生のきっかけとなったギリアムの突発的インスピレーションと名曲の調べ/CINEMORE

 

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2020/07/28

短評『エレファント・マン』

短評に『エレファント・マン』を追加。1980年製作のデヴィッド・リンチによる名作が、40年の歳月を経て4K修復版となってリバイバル公開。その昔、画質の悪いビデオテープで観た思い出が嘘みたいに、今回は吸い込まれそうなほどの映像の美しさに見入ってしまいました。ジョン・ハートとアンソニー・ホプキンス、どちらも決してステレオタイプ的な描かれ方ではなく、真正面から心を見つめることで互いに響きあいながら変わっていく。そして両キャラクターが常に「どうあるべきか」について深く探求し続ける姿がとても印象的で、揺るぎない本作の芯となりえています。『シザー・ハンズ』などを始めとするティム・バートン作品とも相通じるエッセンスがあり、今の時代だからこそ改めて発見できる部分も多いように感じました。

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2020/06/12

『15年後のラブソング』パンフに寄稿しました

6月12日(金)より全国公開となる『15年後のラブソング』の劇場用プログラム(パンフレット)にコラムを寄稿させていただきました!

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本作の原作者ニック・ホーンビィに関する内容です。ホーンビィといえば、映画『ハイ・フィデリティ』や『アバウト・ア・ボーイ』などの原作で知られると同時に、近年は『17歳の肖像』『わたしに会うまでの1600キロ』『ブルックリン』といった女性を主人公にした名作映画の脚本家としても腕をふるっています。

『15年後のラブソング』を単刀直入に言い表すと、彼の「原作もの」と「脚本もの」の両方の傾向を混ぜ合わせたようなとても魅力的な作品。ラブコメ好きな方も、決してそうではない方も、時に大笑いして、時に胸がジーンと熱くなること請け合いです。ぜひご覧になってみてください!

 

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2020/05/28

『ワイルド・ローズ』

とても気持ちのいい映画に出会った。音楽の聖地ナッシュビルを夢見るカントリー歌手の物語————そう書けばアメリカンドリームを掴みとろうとする米映画お決まりのパターンかと思われるかもしれない。しかし、そもそもこれは英国映画だし、舞台はスコットランドのグラスゴー。さらに主人公の女性歌手は今ようやく刑務所を出たばかりで、二人の子持ちのシングルマザー。才能は確かにある。誰が聞いたってそのパワフルでハートフルなパフォーマンスと歌声は絶品だ。しかし現実を見つめるとそんな悠長なことも言ってられない。毎日の生活があるし、守るべき家族もいる。そんな中、思いがけないチャンスに見舞われた彼女は、夢と現実に引き裂かれながら人生の岐路に立つことに・・・。

本作が素晴らしいのは、夢を追いかけることも、現実を見つめることも、どちらも決して否定しないところだ。その両方を抱きしめようとする主人公の姿はクライマックスに向けて人間的な深みを増していく。「それが運命ならば、どの道を歩もうともいずれ叶う」。幾度か繰り返されるこの言葉が、その都度、違う響きをもって胸に迫ってくる。

主演のジェシー・バックリーの素晴らしさもさることながら、本作を支える影の功労者は母親役の名優ジュリー・ウォルターズかもしれない。彼女は『リトル・ダンサー』でビリー少年を導くバレエ教師役で一躍脚光を浴びた人である。思えば『リトル・ダンサー』もバレエの才能が開花するとは思いもしない炭鉱町を舞台に、少年が意志を貫き、夢を掴みとろうとする映画だった。さて『ワイルド・ローズ』はどんな運命を運んでくるのか。いずれにしても本作に触れた人は、まるで雷に打たれたみたいに感化され、主人公ローズの歌をもっともっと聴きたくてたまらなくなるはずだ。

ワイルド・ローズ公式サイト

 

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2020/03/31

『第3逃亡者』(1937)

英国時代に『暗殺者の家』(34)、『三十九夜』(35)といった快心作で多くの観客を沸かせたヒッチコックだが、続く『間諜最後の日』と『サボタージュ』では若干シリアスな方向へと振れ、これが37年製作の『第3逃亡者』になるともう一度ワクワクするような冒険要素を取り戻し、さらなる英国時代の集大成『バルカン超特急』へとバトンを渡した感が強い。

主人公は浜辺で他殺体を見つけた若き男。彼は警察から容疑をかけられる中、ふとした隙を見て逃亡する。目的はただ一つ。真犯人を捜すこと。だがどういうわけか警察署長の若き娘(彼女がもう一人の主人公となる)が行動を共にするようになり、二人はケンカしながらも「鍵を握る人物」の発見に全力を尽くすのだが・・・。

原題の"Young and Innocent"は、若くて純真なヒロインと、若き無実の男、その双方を指しているのだろう。これに対して邦題は『第3逃亡者』とやや分かりにくく、さらにアメリカでも公開時は"The Girl was Young"という米題だったそうだ。ともあれ、ヒロインの肝っ玉の強さが事態を切り開き、さらに第3番目のキャラとなる人物が飄々と仲間に加わることで、にぎやかな3人組になるのが楽しい。

極め付けはラストのダンスホールの場面。天井近くにカメラを据え、玄関口から徐々に移動し、そこからクレーンを使って踊っている人の合間を縫って、ステージ上の楽団に割り込み、いちばん奥でドラムを叩く人物の顔をクローズアップする。この一連のカメラワークをワンカットで捉える流れが素晴らしいのだ。つくづく、物語を伝えるのは役者のセリフだけではないことに気づかされる。カメラも込みで「第4逃亡者」と銘打って欲しいところだ。

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第3逃亡者 Young and Innocent
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:デリック・デ・マーニー、ノヴァ・ビルビーム
原作:ジョセフィン・テイ
撮影:バーナード・ノールズ
1937年/イギリス/84min.

 

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2020/03/18

ヒッチコック「間諜最後の日」(36)

真夜中に少しずつ見進めていくヒッチコック作品の数々。本日は1936年の『間諜最後の日』を楽しんだ。原題は"The Secret Agent"。 この前作にあたる傑作『三十九夜』(こちらについては過去に記事にしたこともあり)はジョン・バカンによる原作モノで、対する本作はサマセット・モームが原作。いずれの作者も諜報員だったり情報部に属する軍人だったりと、きな臭さでむせかえる世界情勢を読み解き、エンタテインメントに落とし込む才に長けていた人たちだ。

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ただ『三十九夜』が英国内を確固たる動線をたどって駆け巡る躍動感に満ちているのに比べると、『間諜最後の日』は第一次対戦中の緊迫したヨーロッパが舞台でありながら、何が目的なのか漠然としていて、登場人物たちの目的遂行への意志も弱い。緊迫感や娯楽性の上では前作とはかなり格差が生じているのは否めない。ヒッチコック自身も書籍「映画術」(晶文社)のトリュフォーとの対話の中で、

「アイデアは決して不足してなかったんだが、映画は失敗作だったな。というのも、この種のアクション映画では主人公がはっきりとした目的を持っていて、その目的に向かって邁進しなければならない。それが映画そのもののアクションの展開の生命力になると同時に、観客が主人公に同化して完全に映画に参加するための助けになるわけだ。(中略)ところが本作の主人公には、目的があるとはいえ、それはむしろ、嫌々ながら果たさなければならない義務であって、できればそんな仕事を投げ出してしまいたいと思っている」(P.93)

と語っている。ただ、どうだろう。暗雲立ち込める第二次大戦直前の時代にこのような映画を製作するにあたって、主人公の男女が「人殺しなんてまっぴらごめんだ。この仕事を辞めて、一緒に逃げよう」と言い出したり、また敵のエージェントが残忍極まる悪役ではないところなど、決してステレオタイプに陥らない、陥らせないヒッチコックのこだわりが感じられる。彼は人間の心や信念の揺れを描くのが本当にうまい。ふとした瞬間、我々もまた、これが古典映画であることを忘れ「生身の人物」と接したかのような感情にさらされるのだ。

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2020/03/15

ヒッチコック『知りすぎていた男』(56)

このタイミングに普段あまりできなかったことを実践しようと思い、手当たり次第、ヒッチコック作品を紐解いている。お時間ある方は是非お付き合いのほどを。今回のお題は『知りすぎていた男』。

 

 

***

本作は『暗殺者の家』('34)をヒッチコック自身がセルフリメイクしたものだ。もっとも、前作はイギリス映画だが、リメイク版はパラマウント製作のアメリカ映画。ヒッチコック自身は両作の違いについて「オリジナル版はアマチュアの傑作、リメイク版はプロの傑作」と語っている。

物語はモロッコで幕を開ける。にぎわう市場で殺人事件に遭遇したスチュワート演じる医師は、死にゆくその男から「要人を狙った暗殺計画が進行中」とメッセージと告げられ、間髪入れず、別の男からは「メッセージを明かしたら、息子の命はない」との脅迫を受ける。結果的に警察の手を借りず、ドリス・デイ演じる妻とともに奔走するしか術がなくなるのだが・・・。

やがて舞台はロンドンへと移り、ロイヤル・アルバート・ホールで行われるオーケストラ演奏に合わせてボルテージも最高潮に。そのさなか、曲を締めくくるシンバルの「ジャーン!」のタイミングを狙って、暗殺者の銃口が向けられる。実は冒頭部分でこの部分がすでに示唆され、観る側にとって本作の流れそのものが、ここへ向けたカウントダウンとなる構成もまたニクい。

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演奏中にサスペンスが進行するという筋書きは、最近だと『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』にも用いられた。クリストファー・マッカリーら作り手たちが同じスパイ・サスペンス映画の大先輩であるこの傑作を意識しなかったことはまずありえないだろう。

ちなみに交響楽団の指揮者としてちらりと顔を出すのはバーナード・ハーマン。『サイコ』『めまい』などのヒッチコック代表作を音楽面で支えた偉大な作曲家である。

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2020/03/04

ストラトフォード・アポン・エイヴォン

今週末公開(と言っても新型コロナウィルスの影響で上映館はごく限られてしまいますが)のイギリス映画『シェイクスピアの庭』は、我々がよく知る人気劇作家のお話でありながら、焦点が当てられるのは彼の全盛期というわけではなく、あまり知られていない時期。ロンドンのグローブ座焼失後、大きな失意を抱えて妻や娘の暮らすストファトフォード・アポン・エイヴォンへと戻った頃から晩年にかけてがメインとなります

過去にも数々の舞台や映画でシェイクスピア作品と真摯に、情熱的に向き合い続けてきたケネス・ブラナーが自ら監督と主演を兼任しており、人生を慌ただしくひた走ってきたシェイクスピアが生まれ故郷のこの町でフッと一息つくときに心の片隅をよぎっていく風景がとても美しく、丁寧に綴られています。ある理由から、彼は「庭づくり」に精を出し始めるのですが、この辺りの心象を投影させるかのような描き方にも興味深いものがあります。

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2019/10/22

テリー・ギリアム監督作「バロン」

先日の『バンデットQ』に続き、同じくテリー・ギリアム監督作の『バロン』について書きました

Barron

よく「史上最大の失敗作」的な言われ方をする映画ですが、今改めて鑑賞してみると実に素晴らしい作品です。数々のトラブルに見舞われながら、それでも芸術性をいっさい安売りすることなく、思い切りイマジネーションを爆発させているところが感動的。さらに戦争という圧倒的な現実の中でフィクションというものがいかに機能しうるのか、そんな究極の問いが垣間見えるところにもハッとさせられます。

ちなみにこの作品、制作費が節約できるという理由でローマに拠点を置いたのですが(そもそもこれがトラブルの始まりだったという声も)、この地でテリー・ギリアムは何度かフェデリコ・フェリーニとも会って言葉を交わしたそう。その時、感じたこととして「撮影中のフェリーニは驚くほどエネルギッシュで若々しく、そうでない時の彼は急に歳を取ったみたいに弱々しく見えた。仕事と想像力によってこんなにも人は変わるんだな、と思い知らされた」という風に述べている。

今やギリアムもフェリーニの享年をとうに超えてしまったが、困難にぶつかってもすぐにまた起き上がって猪突猛進を続けるその勢いはまだまだ衰えそうにない。どんなサイズでもいいから、いつまでも若々しく、エネルギッシュに映画を撮り続けて欲しいものだ。

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