2019/11/07

ギャスパー・ノエ最新作『CLIMAX』

ギャスパー・ノエ、それは我々の世代にとってかなり衝撃的な名前だ。フランスの鬼才にしてタブーを犯すことを恐れない魔人。かつてシネマライズで観た『カノン』は、上映中に画面が点滅して「警告。今から衝撃的な場面あり。五秒以内に立ち去るべし」みたいな文言が大写しにされたりもしたものだった。

そんなノエの最新作の『クライマックス』は驚きと楽しさと衝撃が相まった、逸品だった。R-18+なので、あらゆる人にお勧めできるわけではないし、毛嫌いする人も多いかと思う。だが、序盤からエンドロールが流れ始めるという意表をつく展開を抜け、雪に閉ざされた体育館でのダンスが始まると、そこはもうハイテンションの渦。長回しで撮られていく生々しいパフォーマンスの交錯がとにかく素晴らしい。

ワン・アイディアを反射神経で95分の映画へと昇華させたような身軽さがまた秀逸なのだけれど、おそらく参加したキャストたちは本作がどんな仕上がりになるのか想像もできなかったのではないか。案の定、そこには過去のノエ作品のエッセンスを全て詰め込んだような楽しき地獄絵図が待っていた。うーん、こんな映画を作ってしまうなんて、やっぱりノエは唯一無二で底知れぬ才能に満ちた怪人だ。

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2019/10/22

テリー・ギリアム監督作「バロン」

先日の『バンデットQ』に続き、同じくテリー・ギリアム監督作の『バロン』について書きました

Barron

よく「史上最大の失敗作」的な言われ方をする映画ですが、今改めて鑑賞してみると実に素晴らしい作品です。数々のトラブルに見舞われながら、それでも芸術性をいっさい安売りすることなく、思い切りイマジネーションを爆発させているところが感動的。さらに戦争という圧倒的な現実の中でフィクションというものがいかに機能しうるのか、そんな究極の問いが垣間見えるところにもハッとさせられます。

ちなみにこの作品、制作費が節約できるという理由でローマに拠点を置いたのですが(そもそもこれがトラブルの始まりだったという声も)、この地でテリー・ギリアムは何度かフェデリコ・フェリーニとも会って言葉を交わしたそう。その時、感じたこととして「撮影中のフェリーニは驚くほどエネルギッシュで若々しく、そうでない時の彼は急に歳を取ったみたいに弱々しく見えた。仕事と想像力によってこんなにも人は変わるんだな、と思い知らされた」という風に述べている。

今やギリアムもフェリーニの享年をとうに超えてしまったが、困難にぶつかってもすぐにまた起き上がって猪突猛進を続けるその勢いはまだまだ衰えそうにない。どんなサイズでもいいから、いつまでも若々しく、エネルギッシュに映画を撮り続けて欲しいものだ。

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2019/10/10

SFハードアクション映画「アップグレード」

今や人間と自動音声ガイドやAIがバディを組む映画も珍しくは無くなった。それらの描写が一般化するまでには、「アイアンマン」や「ナイトライダー」や「2001年 宇宙の旅」など偉大な先人たちがいたことは言うまでもなく、最近でもインディペンデント映画ながら卓越した未来描写で自動運転AIと人間との関係性を描いた「センターライン」が注目を集めたのは記憶に新しいところ。で、こういったジャンルの最新版として是非押さえておきたいのが、「ソウ」シリーズで知られるリー・ワネルの監督、脚本作『アップグレード』だ。製作を担うのは低予算ホラーの雄、ジェイソン・ブラム。

舐めてかかると心底はまってしまう逸品である。ミニマルな未来描写にも心酔させられるのだが、何者かの襲撃で妻を殺され、自らも重傷を負った主人公がAIチップを埋め込むことで超人へと生まれ変わるあたりから、一気に面白さが火を吹く。ハードタッチのリベンジ・アクションであり、脳内ナビゲートするAIと主人公が会話しながら真相を追う相棒モノでもある。何と言ってもコンパクトながらしっかりとまとまったプロットが秀逸で、この先どうなっていくのか微塵も掴ませない。いやはや思いがけない拾いものだった。

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2019/10/07

クロール -凶暴領域-

一言で表現すると、ワニ映画である。ハリケーン迫る中、一人暮らしの父親を心配して娘が実家を見に来ると、そこにはなぜか凶暴なワニが!そこから父娘がなんとか逃げ延びようとするパニック・ホラーが展開していくわけだが、これが90分弱の中で非常によくまとまっていて楽しかった。監督は数々のホラーやバイオレンス作でも知られるアレクサンドル・アジャ。

まずもって娘が水泳選手というのが鍵だ。彼女がプールでトレーニングに打ち込む冒頭を目にするだけで、僕らの脳裏には、ヒロインがやがて水中でワニとデッドヒートする未来絵図がなんとなく予想できるはず。それにこの父娘は長期にわたって仲違いしており、性格の似た分だけ衝突も多い二人が最大のピンチを前に共闘するのも大きな見どころだ。

もう一点、ホラー映画では「家」が一つの精神世界を成すことが多いが、本作でもまず深層心理を示す「地下室」から始動し、様々な記憶や感情をぶちまけながら、徐々に上へ、上へと上り詰めていく。こうして状況を克明に描きつつも、自ずと内面をもうかがい知ることができるのだ。教科書通りと言えばそれまでだが、ジャンル映画の枠内を端から端まで思い切り泳ぎ切ったなかなかの力作だった。

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2019/10/01

ジョーカー

DCコミックスで最も高い知名度を誇る怪人ジョーカー。その誕生物語をリアルに描いた本作は、ヴェネツィア国際映画祭で最高賞を受賞するなど、世界同時公開を前に早くも高評価の渦が巻き起こっている。僕もつい先日、試写してきたばかりなのだが、その衝撃のほどは呆然とするほど凄まじかった。

福祉の切り詰め、格差の拡大、公共サービスの停止などによって息苦しさを増すゴッサム・シティ。その社会の底辺でピエロを生業として生きる主人公アーサーは、幾つもの安定剤を服用し、さらにふとした拍子で笑いが止まらなくなるという症状も抱えている。社会的に追い詰められ、絶望の淵に立った彼はやがて一線を越えてしまうのだが・・・。

まずもって、ホアキン・フェニックスの怪演には震撼するばかり。出演決定時にすでに高まっていたハードルを、やすやすと越えたのではないか。そして本作の不気味さに暗黒の輝きを添える要素がもう一つ。それは『キング・オブ・コメディ』や『タクシー・ドライバー』の影響が見え隠れするという点だ。しかも、コメディアン志望のアーサーが視聴するTVトークショーの司会者をデ・ニーロが演じるという凝りよう。時代は繰り返すというが、本作はあの頃のデ・ニーロがスクリーンで体現していた狂気、精神的傷跡が形を変えて蘇ったかのようでもある。

『ハングオーバー』シリーズのトッド・フィリップスが切り開いたまさかの境地。ジョーカーの映画化としては危険レベルの水域に達したと言えるほどの桁違いの完成度だ。ただ、本作は精神的にキリキリとくる。体調的に余裕がある時に見た方が無難だろうし、本能的に「嫌い」と答える人も出てくるはず。どう受け止めるかはひとえにあなた次第だし、他人の意見に振り回される必要は全くない。

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2019/09/18

「アス/Us」

ジョーダン・ピール監督の最新作『アス/Us』について書きました。

戦慄ホラーの中に現代社会への視点を潜ませた、ジョーダン・ピールの監督術/CINEMORE

Handsacrossamerica

Us

夜な夜な、自分にそっくりな姿のモンスターたちがやってくる・・・というホラーなんだけれど、映画が終わって「あれは一体何だったのか?」と考えると、思いもしなかったいろんな気づきや発見がこみ上げてきます。

ここに書いてることが正解か間違いかではなくて、いろんなことを考えさせられる、ってところがこの映画のポイントなんだと思います。

ネタバレありなので、鑑賞済みの方にしかお勧めできませんが、気になった方はお読みいただければ幸いです。

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2019/09/10

バート・レイノルズとワンス・アポン・ア・タイム

‘69年当時のハリウッドの状況や、俳優たちの生き様に思いを馳せることで味わいが増していく『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。たとえば、ディカプリオ演じる主人公には、バート・レイノルズを始めとする様々な実在俳優たちの姿が投影されていると言われる。となると、ブラピの役どころの一部には、レイノルズのスタントマンとして知られるハル・ニーダムあたりが降りているのだろうか。人生の低迷期を経験した二人だが、70年代になるとニーダムが監督を務めた『トランザム7000』で大ヒットを獲得。俳優とスタントマンの関係性でいうと、他にも『大脱走』のバイクシーンで名高いマックイーンとバド・イーキンズなどが有名だ。

タランティーノの『ワンス・アポン〜』に出演する予定だったレイノルズは、2018年に惜しくも急逝。また、一説によると、本作には若き日のレイノルズ役としてジェームズ・マースデンがキャスティングされていたものの、最終的に「スペシャル・サンクス」としてクレジットされるにとどまったという。出番がなくなった理由は定かではないが、こうすることでレイノルズの魂は出演者の一人としての域を超え、「主人公の一部」となって吸収、融合されていったように思えてならない。極めてタランティーノらしい追悼の仕方と言えるのかも。

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2019/09/09

タランティーノとポランスキー

タランティーノの新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』については以前にも記事を書いた。その時、下調べする中で、ロマン・ポランスキーにまつわるちょっとしたエピソードを見つけたので、ご紹介しておきたい。

ご存知の通り、本作にはポランスキーと’69年時の妻シャロン・テートが関わってくるのだが、当初、タランティーノはポランスキーに一切の許諾を求めていなかった。一連の事件はもはや個人的体験を超えた「重要な歴史の一部」であり、それゆえ彼と連絡を取って詳細な言葉を交わす必要など全くないと考えていたからだ。

一方、ポランスキーはこの企画の噂をどこからか聞きつけ、ある日、共通の友人がタラに「どんな内容なの?」と電話をかけてきたのだとか。どうやらポランスキーは怒ってるとか、懸念しているとかでは全くなく、純粋に興味関心を寄せているらしい。この時、初めてタランティーノは事前に内容を伝えておいてもいいかなと感じるわけだが、しかし当のポランスキーは自由に渡航できない身。そこで先述の共通の友人がタラ邸に招かれ、代理として門外不出の脚本を読ませてもらったそう。もちろんそこで火種が生じるなんてことはなく、結果、何ら問題ないまま、企画を前に進めていくことができたという。

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2019/09/04

第11回福岡インディペンデント映画祭 1日目

■今年は行けない。行けるはずがないと思っていたが、徹夜で原稿を書き上げたら急に心の中の誘惑の力が強まり始め、気がつくと格安の朝一航空券をポチッとやってしまっていた。朝一の便となると自宅からでは間に合わない。そこでいい方法がないかと調べてみたところ、お台場の大江戸温泉物語で夜を過ごし、明けて3時半のバスで成田へ向かうルートがあるらしい。こうして金曜日の朝方、まだ世間が寝静まっている頃にごそごそ温泉を抜け出して、成田から福岡へ飛んだ。

■第11回福岡インディペンデント映画祭は、六本松にある福岡市科学館にて30日から9月1日までの3日間行われた。出品作の中からグランプリや各部門を決めるコンペティションは2年に一度とのことで、今年はお休み。そのためプログラムは昨年の受賞作や、各種特集作の上映によって構成されるものとなった。

 

 

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アモーレス・ペロス

メキシコ出身の名匠アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥが2000年に発表した長編デビュー作『アモーレス・ペロス』について書きました。

Amoresperros

イニャリトゥが亡き息子に捧げた喪失と再生の物語/CINEMORE

彼の作品は創る側が激しく魂を削り、観る側もまた魂を削る。そうやって少しずつ両者が共鳴していくひとときーーーー。東京国際映画祭で出待ちしたことのある私にとっては、とても忘れがたい作品。いろいろ調べながら、様々な思いが隠されていたことを知り、理解が深まりました。ご興味ある方は是非ご一読いただければ幸いです。

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