2020/03/17

「The Fall 落下の王国」

ターセム・シン監督作『落下の王国』について書かせていただきました。公開時にも、この一筋縄ではいかない語り口に魅了され、「物語の湧き上がってくる場所(本作では、人と人とがふれあう狭間に”物語内物語”が生じていく)が面白い」と知人と語り合っていたのですが、その映画作りの裏側はもっと一筋縄ではいかないものでした。お時間ある方はぜひ、作品鑑賞と合わせてお読みいただければ幸いです。

ところで、本作はターセム監督が「この人と結婚して生涯を共にしたい」と心から願っていた恋人と破局を迎えたのを機に、制作が始まったとのこと。様々な映画の裏話を覗いていると、映画監督の中には自分の強みや長所よりもむしろ「何らかの苦しみや自分の弱さ」をバネにしてとんでもない名作を作り上げる人が多く、これは一体なんなんだろうな、と思わされます。

例えば、スピルバーグは自らの映画作りの原点について「僕はただ怖いと感じてるものを自分から取り出したかっただけだよ。(中略)怖くなくなって正視できるようになるから。そしたらやがて、自分がちょっとモンスターなものだから、みんなにも怖がってもらおうと思い出したんだ」「だから、僕にとっては(映画作りは)一種のセラピーだよ。自分の暮らしから追い出して、あなたがたの真ん中にドカンと置いてみた、みたいなこと」(J.リプトン著「アクターズ・スタジオ・インタビュー」2010/早川書房/酒井洋子訳)と語っています。

自らの感受性をうまく転換させて別次元へと放出する。あるいは、苦しみから少しずつ抜け出していく過程、魂が抜け出すかのように自分をどんどん俯瞰して見つめることで、そこに何らかの”表現すべき世界”が立ち上がっていく・・・そういった幾つかの心理的、精神的な作用すら思い浮かびますが、つまるところ私たちの苦しみや悲しみというものは、常に大きな力にもなりうるということなんじゃないかな、とぼんやり考える午後。

 

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2020/03/15

ヒッチコック『知りすぎていた男』(56)

このタイミングに普段あまりできなかったことを実践しようと思い、手当たり次第、ヒッチコック作品を紐解いている。お時間ある方は是非お付き合いのほどを。今回のお題は『知りすぎていた男』。

 

 

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本作は『暗殺者の家』('34)をヒッチコック自身がセルフリメイクしたものだ。もっとも、前作はイギリス映画だが、リメイク版はパラマウント製作のアメリカ映画。ヒッチコック自身は両作の違いについて「オリジナル版はアマチュアの傑作、リメイク版はプロの傑作」と語っている。

物語はモロッコで幕を開ける。にぎわう市場で殺人事件に遭遇したスチュワート演じる医師は、死にゆくその男から「要人を狙った暗殺計画が進行中」とメッセージと告げられ、間髪入れず、別の男からは「メッセージを明かしたら、息子の命はない」との脅迫を受ける。結果的に警察の手を借りず、ドリス・デイ演じる妻とともに奔走するしか術がなくなるのだが・・・。

やがて舞台はロンドンへと移り、ロイヤル・アルバート・ホールで行われるオーケストラ演奏に合わせてボルテージも最高潮に。そのさなか、曲を締めくくるシンバルの「ジャーン!」のタイミングを狙って、暗殺者の銃口が向けられる。実は冒頭部分でこの部分がすでに示唆され、観る側にとって本作の流れそのものが、ここへ向けたカウントダウンとなる構成もまたニクい。

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演奏中にサスペンスが進行するという筋書きは、最近だと『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』にも用いられた。クリストファー・マッカリーら作り手たちが同じスパイ・サスペンス映画の大先輩であるこの傑作を意識しなかったことはまずありえないだろう。

ちなみに交響楽団の指揮者としてちらりと顔を出すのはバーナード・ハーマン。『サイコ』『めまい』などのヒッチコック代表作を音楽面で支えた偉大な作曲家である。

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2020/03/11

ヒッチコック『舞台恐怖症』('50)

ヒッチコック作品の中でさほど知名度は高くない。私の中でもなぜかメロドラマ的なイメージがはびこっていて、これまできちんと観たことがなかった。が・・・喰わず嫌いってものは本当に良くない。これ、ものすごく面白い娯楽作で、キャラクターや展開、そして「演じること」を活用した物語構成が実に巧みな点に胸を鷲掴みにされた。

メインとなるのは、愛する人の殺人容疑を晴らそうと「役になりきる」才能を活かして渦中に潜り込む見習い女優。そこで対するは大物女優。舞台では共演することの叶わぬ二人が、舞台外にて虚構性の刃を突きつけ合う。この二重構造がスリリング。また終幕に向けて劇場構造を活かした動線が周到に構築されていくのも面白い。

特筆すべきは、やはり冒頭の回想シーンだろう。公開当時、この使い方が納得いくものかどうか、ヒッチコック自身も思い悩み、世間の評価も割れたそうだ。しかし70年の時を経て初鑑賞した私の目から見ても、思わず「あっ!」と声を上げてしまうほど鮮やかなトリックだった。主演のジェーン・ワイマンが『アメリ』のオドレイ・トトウのようで可愛らしい。この時すでにオスカー女優だったそうだが、その風格を微塵も感じさせないところがまたいい。

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2020/03/09

『コロンバス』

3月14日より公開を迎える劇映画『コロンバス』にとても心奪われました。

 

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2020/03/05

アマデウス

今から35年前のオスカーに輝いた傑作『アマデウス』について書きました

『アマデウス』と聞くと、クラシック音楽好きな方以外はどうしても体が膠着してしまうかもしれません。でも、これを「才能に恵まれた者」と「そうでない者」との人間ドラマとして見つめると、我々にとっても身近な物語のように思えてきます。まあ、間違いなくモーツァルトとサリエリの(フィクションをはらんだ)物語なのですが、これをあえてミロス・フォアマン監督の作家性や彼のたどった人生を通じて見つめてみました。そこで何が見えてきたかについてまとめています。

オスカーに輝いた『カッコーの巣の上で』や『アマデウス』を始め、フォアマンの作品はとにかくそのパワフルな人間描写が魅力。コロンビア大学ではジェームズ・マンゴールドの指導教授だったことでも知られる彼ですが、パワフルな人物描写といった部分はマンゴールドにもしっかりと受け継がれているように思えます。

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2020/03/04

ストラトフォード・アポン・エイヴォン

今週末公開(と言っても新型コロナウィルスの影響で上映館はごく限られてしまいますが)のイギリス映画『シェイクスピアの庭』は、我々がよく知る人気劇作家のお話でありながら、焦点が当てられるのは彼の全盛期というわけではなく、あまり知られていない時期。ロンドンのグローブ座焼失後、大きな失意を抱えて妻や娘の暮らすストファトフォード・アポン・エイヴォンへと戻った頃から晩年にかけてがメインとなります

過去にも数々の舞台や映画でシェイクスピア作品と真摯に、情熱的に向き合い続けてきたケネス・ブラナーが自ら監督と主演を兼任しており、人生を慌ただしくひた走ってきたシェイクスピアが生まれ故郷のこの町でフッと一息つくときに心の片隅をよぎっていく風景がとても美しく、丁寧に綴られています。ある理由から、彼は「庭づくり」に精を出し始めるのですが、この辺りの心象を投影させるかのような描き方にも興味深いものがあります。

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2020/02/17

『おばけ』という映画を見た

国立フィルムアーカイブで開催されたライジング・フィルムメイカーズ・プロジェクトという企画上映にて『おばけ』という映画を見た。ぴあフィルムフェスティバルでPFFアワードグランプリを受賞した作品だ。タイトルにJホラー的な香りを感じる人もいるかもしれないが、その実態は全く違う。いざ映画が始まると、これがジャンル分け不能なのはもちろんのこと、我々の常識を一枚も二枚もつき破る映画であることがすぐにわかる。かといって小難しさは一切ない。この映画の前では何も難しいことは考えずに、スクリーンにほとばしる愛おしさ、おかしみ、優しさ、温かさ、穏やかさ、人生の喜び、苦味といったものにただただ身を委ねていたいと、そう強く思わせる作品なのだ。

 

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2020/02/06

『ムーラン・ルージュ』公開から19年。豪華絢爛たるイマジネーションの世界は今なお色褪せない

ふと気がつくと、この映画の劇場公開から19年もの歳月が過ぎ去っていました。月日の経つ早さに唖然とするのは当然として、もっと驚かされるのは、本作『ムーラン・ルージュ』が今なお、まるで昨日出来上がったほやほやの映画のようにみずみずしく、ノリに乗っていて、最高に活きの良い映画だということ。普通はこれだけCG満載なら少しくらい技術的なほころびのようなものが出てきそうなもの。でもそれが全くと言って良いほど見当たらない。これってかなりの神がかり的なことだと思うのです。

この映画に関してはまず最初に有名アーティストによる名曲にばかりスポットが当たるのですが、今回、もっと硬派なところを切り取って記事を書かせてもらいました。ぜひご覧くださいませ。

 

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フェデリコ・フェリーニ『8 1/2』

この映画史上で最も奇妙かつ斬新なタイトルは、一体何を表すものなのかーーーーそんなことをずっと悩み続けていたのですが、蓋を開けてみると答えは意外と簡単でした。要はフェリーニにとってこれが8 2/1本目にあたる作品ということらしいのです。けれど、彼には共同監督作やオムニバス映画などがあるものだから、ファンや批評家の間では「これはどうカウントするんだ?」とか「計算が合わないぞ」とか、未だにその真相をめぐって色々言われている模様。中には「フェリーニの幼少期、就寝時間は決まって8時半だった」ということを由来としてあげる説もあるらしく、もう僕にはよくわからなくなってきました。というわけで、映画監督としての心の内側を思い切り吐露した傑作『8 1/2』について書かせてもらいました。ぜひご覧くださいませ。

 

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2019/12/01

「博士の異常な愛情」

スタンリー・キューブリック監督が1964年に公開したブラックコメディの傑作『博士の異常な愛情』。1999年に亡くなった巨匠はこの映画に一体どのような思いを詰め込んだのか、そしてケネディ暗殺事件がこの映画に与えた影響とは。詳しくはCINEMOREに書いた記事をご覧いただければと思います。

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