2012/07/26

【レビュー】Jeff, Who Lives at Home

様々なところから「僕の大切な人と、そのクソガキ」の評判が聴こえてくる。日本では劇場公開されずDVDスルーとなった作品だが、その監督を務めたジェイ&マーク・デュプラス兄弟の2012年の最新作"Jeff, Who Lives at Home"という映画をロンドン往きの機内で観ることができた。これがコメディというジャンルに押しとどめておくのは勿体な魅力の詰まった作品だったのでご紹介しておきたい。

Jeffwholivesathomeposter_2 
この物語は仕事もせずにずっと自宅にいる中年男ジェフ(ジェイソン・シーゲル)が主人公だ。映画は彼のそうした性格を批判するどころか不思議な運命論を展開してみせる。ある日、彼のもとに一本の間違い電話がかかってくる。電話の相手は「ケヴィン」という名の男を求めていた。勘違いも甚だしかった。しかしジェフは何故だかこの電話の主が口にした「ケヴィン」という名のことが忘れられなかった。なにか運命的なものを感じたジェフは外へ出る。バスに乗る。すると前方の座席にジャージ姿の少年が座っていた。そこに刻まれた名はまたもや「ケヴィン」。ジェフはストーカーのように少年の後を追い、後に一緒にバスケットボールのチームを組むまでに打ち解ける。だが、後にジェフはその少年一味からボコボコにされて財布を取られる。しかし朦朧とするその意識で見つけたのは、またもや「ケヴィン」の文字―。

実はこの物語はジェフだけの物語ではない。『ハングオーバー』で一躍有名になったエド・ヘルムス(メガネで顔面タトゥーの男ですね)は人の意見を全く聞かない兄役。彼は自分の財布では払えもしない高額のポルシェを買ってしまって妻に愛想を尽かされる。どうやら兄も相当のゴーイング・マイ・ウェイな性格のようだった―。

Edhelms_jeff_who_lives_at_home_2 
母親も登場する。スーザン・サランドン演じるママは会社で仕事に打ち込んでいる最中に一通のメッセージを受け取る。「あなたのことをお慕いしております」 一体誰がこんなことを?返信するママはその後のやり取りの中でどうやら送り主が同じオフィスの人間らしいことを知る。胸のドキドキが止まらなくなる。冗談なのか、本気なのか。彼女は相手の正体が知りたくて思い切った行動に出るのだが―。

22107promo20120707_105827_jeffwholi
父はいない。遺されたこの家族3人がマイケル・アンドリューズの奏でる静かなる運命の到来を讃える音楽に導かれながら「答え」に向かってひた走っていく。

運命とは偶然なのか、必然なのか。それは誰にも分らない。しかしながら日々の生活に宿る何かしらの兆しを入念に辿っていけば、それが納得できる結果に結びつくかどうかはわからないが少なくとも軌跡(奇跡ではなく)が刻まれる。他人から見ればそれは実に馬鹿げた思い込みと捉えうるかもしれない。けれどその馬鹿げた物に意味を付与していくのは自分自身であり、そこに注ぎ込んだ情熱に他ならない。いちばん最低なのはその兆しがずっと気になりながらも視界からあえて遠ざけ、後で大きく後悔することだ。

この映画のラストシーンで、ジェフが立つのはスタートラインなのか、それともゴールなのか。彼がこの85分あまりの冒険の中で何を達成したのかもよくは分からない。ただしその最終地点がたとえ相変わらずの家の中だったとしても、それは始めと終わりとでは全く意味の異なった、何かの連続性のもとに繋がった<家の中>であることは間違いない。

今の時代、どんな局面でもどんな映画でも人々は口を揃えて「つながる」と言う。家族、パートナー、友人、それ以外の誰か。"Jeff, Who Lives at Home"はその概念をもっと靄で包み込んで幻想性の上に投影したファンタジックな日常コメディなのだった。

この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

|

2010/12/01

溝/The Ditch(東京フィルメックス)

それは1950年代、異端分子として捉えられ強制労働キャンプに送られた人たちの、過酷を極める日常を綴ったドラマ。これまで『鉄西区』』『鳳鳴―中国の記憶』などので賞賛を集めてきた中国人ドキュメンタリー作家ワン・ビン監督による初の劇映画だ。

もちろんワン・ビンの視点はこれまでの延長線上を見据えている。映画の質感は劇映画と言えどもドキュメンタリーに近い。音楽を用いず、ただ轟々と砂と嵐の饗宴が、鳴りやまないサントラのように絶えまなく耳を震わす。

日々、強制労働を耐え抜いては住居用の穴倉へと戻り、疲れ果てて寝床に倒れこむ。彼らが過去にどんな罪を犯したのかはそれほど重要ではない。また誰もが決して凶暴な人には見えない。彼らはまるで任意に抽出され、こんな地の果てまで連れてこられた酷く運に恵まれない人のようにも見える。それほどまでに彼らは人間性の長短や判断力も削げ落ち、過去も未来もなく、ただ茫然と生きている。

01_2
大自然の猛威に対して人間はあまりにも無力だ。収容された人々は極寒の中で食料も満足に貰えず、ある者は土や樹の芽をも口にし、そしてまたある者は正常であれば決して踏み越えることのない一線さえも越えてしまう。

同じ部屋の住人が死んだ。次第に哀しみもなくなる。それが日常となる。すべては砂漠に飲みこまれて、感情さえも枯れてしまう。観客もこの無力感の渦にどっぷりと漬け込まれ、もはや抵抗する気力や、ここから何か希望が実をつけそうな期待さえもとうに失っている。我々もあの穴ぐらの住人と化しているのだ。

と、そのとき、都会からひとりの囚人の妻が、遥々訪ねてくる。それほど美しくもないこの女性は、夫の死を知り堰を切ったようにワンワン泣きわめく。風の音しか聞こえなかったこの枯れ果てた風景を、うるさいくらいに掻き乱して、同居人たちを引きずりこむ。

02
囚人たちに取ってみれば迷惑な話だ。生き抜くために心をあえて無味乾燥せているというのに、そこに思わぬ“引き金”が舞い込んできてしまった。囚人たちの心と同調しつつあった観客ははた迷惑な女だと顔をしかめるかもしれない。

だが同時に観客はこうも気付くはずだ。ああ、この女性の姿こそが、当たり前の人間の姿だったんだ、と。愛する者に逢いたいと願い、泣きわめき、おびただしい墓の中から夫の遺体を掘り起こしたいとさえ望む彼女。

この映画『溝』で我々は見事なまでに人間性を見失い、そして彼女のやかましいまでの嗚咽によって再び人間性を回復させていく。これは我々の日常をリセットし、再起動させる意味において、とても不可思議かつ効果的な現象だった。

こんなにも絶望の物語なのに、不思議と後悔はなかった。単なる強制収容の逸話を越えた、獣でも悪魔でもない、真の意味での人間の物語に思えた。

その到達を讃えるかのように、ラストでは扉の向こうから僅かばかりの光が差し込んでいる。今も昔も、どんなに価値観が混濁して人々が人間性を見失おうとも、我々はあの光を手がかりに、暗闇の中を彷徨い歩いていけばよいのだろうか。ねえ、どうなんですか?ワン・ビン先生?

ワン・ビン監督は中国政府による圧力を恐れずによくぞこれほどの作品を作り上げたものだ。と、資料に目を通すと、製作国の欄に「フランス」とあった。今回のフィルメックスでは来日が叶わなかったそうだが、いつかこの映画について彼自身の口から多様な言葉が尽くされる日を待ちたい。

この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

2010/10/28

【レビュー】ビューティフル・ボーイ

衝撃が走った。息子の通う大学で銃乱射事件が発生。死者はすでに20名を越え、史上最悪の大惨事に発展していた。ニュースを耳にした父母は幾度も息子に連絡を取ろうとするが、叶わず。やがて捜査官が玄関のチャイムを鳴らす。「亡くなりました」の言葉に絶望がよぎる。「続きがあります」と彼。この機に及んで何を付け加えるというのか?

「犯行は息子さんの手によるものでした―」

Beautiful_boy_2 
TIFFコンペティション作品『ビューティフル・ボーイ』を観た。すでにトロントでも国際批評家連盟賞を受賞しているキャリア組。衝撃的事件を扱ってはいるが、犯行シーンなどの血なまぐささは微塵もなく、静謐な雰囲気を持続させながら、マイケル・シーンとマリア・ベロによる夫婦の心象に寄り添っていく。

遺された者たちには生涯克服できない重みが圧し掛かる。息子は何を考えていたのか?あのとき何を言おうとしていたのか?どうしてこんな目に逢わなきゃいけないのか?いったいなんてことしてくれたんだ?そのいずれの想いも、受け取り手はなく、ただ虚しく夫婦のもとに跳ね返ってくるだけ。

こういう映画を観ていると、ときどき、どうしてこんな苦しみを見つめなければいけないんだろう、と考えることがある。言うまでもなく世界にはとてつもない不幸や悲劇が満ち満ちているが、あえて映画でその苦しみを僕らが追体験する意義とはなんなのだろうか。

おそらくこの手の絶望は「もしも私がそうだったら。。。」という疑似体験を目指すものではない。その喪失感の深さによって逆にそれが存在したときの尊さこそを浮き彫りにしていくものなのだろう。

と考えたときに、この夫婦間が醸し出す魂の彷徨に、2時間のドラマを越えていく長い長い旅路を感じたのだった。一朝一夕では成しえない魂の共振。登場人物として、役者として、彼らがいかに各々の精神力をキープしつつこの物語を築き上げてきたか。その創造性の作業に圧倒される。とりわけモーテルでの一発撮りシークエンスには感情の呻きが見事ななまでに刻み込まれていた。そして辿りついたひとつの想いが、あまりに崇高で、美しく、切なかった。

この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

2010/10/27

【レビュー】心の棘 The Thorn in My Heart

手間さえ惜しまなければミシェル・ゴンドリーの創造性に手が届きそうな気がする。。。最近のゴンドリーは観客のそのような気持をあえて刺激しているかのようだ。この「手が届きそうな」と「実際」のあいだには大きな壁があるわけだが。「まずは一歩踏み出すことが重要」 彼はそう教えてくれてるのかもしれない。

東京国際映画祭はつづく。昨日は『エターナル・サンシャイン』や『僕らのミライへ逆回転』で名高いゴンドリーが自分の叔母さんの半生にカメラを向けた私的ドキュメンタリー『心の棘"The Thorn in my Heart"』を観た。

Lepinedanslecoeur
この叔母さん、何か特別な偉業を成し遂げたわけではない。長らく小学校教師として子供たちを見つめてきて、いま再び、カメラと共に懐かしき校舎を巡りゆく。。。といった体。懐かしき再会、子供たちとの交流、親族で囲む夕食。それらの心の旅路と撮りためられてきたゴンドリー家の記録映像の中で、常に凛とした叔母さんの口から、夫への、息子への秘められた想いが少しずつ語られていく。

まるでゴンドリーが親族のために作ったホームビデオのようだった。そこにはテレビや映画や書籍などにも増して自分に最も身近なストーリーがあり、ミステリーがある。それにシーンとシーンを繋ぐ列車ミニチュア、子供たちに手渡される透明マント、ドリー(横移動)撮影代わりに使われる車椅子。ドキュメンタリーといえどもミシェル・ゴンドリー流の手作り感が溢れる。『僕らのミライ~』に登場したジャズピアニストのそれみたいなファンシーさとはまた別種の趣だが。Thorn

私的ドキュメンタリーをスクリーンで垂れ流すなんて傲慢だ、という人もいるかもしれない。が、ゴンドリーがかねてより挑んでいるDIY精神、あるいは彼の書籍のタイトルを借りるならば"You'll Like This Film Because You're In It"の実践としてはこれまでにも増してその根幹の部分で真に迫っている。

つまり、映画づくりに聖域など存在しない。やろうと思えば誰だってやれる。自分のいちばん身近な、愛すべき大切な人を簡単に主役の座に据えられるし、彼女(あるいは彼)を全く知らない第三者にだって、まるでエッセイでも綴るみたいに、手軽に紹介することができる。映画スターなんて必要ないし、巨額の製作費もいらない。

2009年のカンヌで本作が発表されて久しいが、その後の時代の流れはどんどんそちらへと傾いている気がする。ヒーローやヒロインは要らない。いや、逆にいえば、見つめてくれる視線とカメラさえあれば、誰だってヒーローやヒロインになれる。そんな時代なのかもしれない。

この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

2010/10/25

【レビュー】サラの鍵 Sarah's Key

ジャーナリスト出身のタチアナ・ド・ロネによるベストセラー小説が映画化。トロント映画祭でお披露目された本作は早くもワインスタイン・カンパニーによって米配給権が買いつけられた。そしてこのたび、東京国際映画祭コンペティション作品として日本の観客のもとにも到着。マスコミ上映ではあちこちから絶えずすすり泣きの声が聞こえていた。

Sarah_s_key 
それはドイツでもポーランドでもオランダでもない、フランスで起きたユダヤ人迫害事件。それも当時のフランス政府による措置だった。居住区の一斉検挙により競技場への移住を余儀なくされたユダヤ人家族。その娘サラの機転で、幼い弟の命は助かったかに思われた。が、その後の出来事が彼女の心に生涯拭い去ることのできない大きな悲しみを残すことに。

そして現代。ひとりの女性記者ジュリアがこの一連の迫害事件を追いかけていた。そして彼女が今まさに住もうとしているこの部屋に関する、思いがけない事実を知ることになる。

本作はサラとジュリア、人種も時代も違うふたりの女性の動線を交互に追いかけていくミステリーだ。当時のフランスでこのような事件が起こったのかと震撼させられると同時に、少女が咄嗟に下した決断、その後、少女が「鍵」をめぐる事実と直面した時の衝撃には誰もが心を震わすことだろう。またこんな暗黒の時代であっても人々の人間性は完全には枯れ切っていなかったことを、随所に、砂漠に湧いた一滴の水のごとく微かな潤いでもって感じさせくれる。

だが、本作における本当の「鍵」はまた別のところにも存在した。それは過去の真実を解き明かしたいとする現代からの視点であり、歴史という名の巨大で分厚い扉を押し開こうとする、記者として、女性として、母としての強靭な意志そのものである。

中盤以降、サラの消息を追うことは困難を極める。それに彼女には謎の部分も多い。それらが本作で完全には明かされないのは、登場人物の誰もが彼女の心理や彼女の人生の一回性を正確に把握することなど困難だからだ。

しかし後からその記憶の糸を地道に手繰り寄せていくジュリアには、それに代わる自分自身の一回性の経験と人生を持ち合わせている。時代が違えども、彼らは同じ人間であり(サラとジュリアは同じ女性でもあるし)、片方は他方のもうひとつの可能性と捉えることもできる。いまこうやって胸を痛めている想いを、かつてサラも同じように抱いていたかもしれない。そうやって他人という垣根や隔たりは突き崩される。そうやって過去と現在、人と人とは繋がっていく。

こうした想いが深まることによって人間が人間を物や家畜以下に扱ったあの時代を繰り返すことも、ましてや現代人が想像力を遮断して当時のあらゆる人たちを無条件に「悪人」と決めつけることも無くなるのだろう。すべての現在は過去からの連続性のもとにある。その原理を深く心に刻んでくれる名作が、またここにひとつ誕生した。それを可能にしたあの女優たちの卓越した圧倒的な演技と存在感に、心から拍手を送りたい。

この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

【レビュー】ジャック、舟に乗る Jack Goes Boating

今年も冬が始まる。春になって、もう少し温かくなったら、好きなあの女性と一緒にボートに乗りたい。でも、そのためにはまず、泳げるようにならなくちゃ。。。かくしてNYに暮らすハイヤー運転手ジャックの水泳特訓がはじまる。

東京国際映画祭にてフィリップ・シーモア・ホフマン主演&初監督作"Jack Goes Boating"を観た。それは慎ましく、愚直で、身につまされ、ちょっとだけ励まされる、30代、40代へのささやかな応援歌だった。

Jackgoesboating_2 
フィリップ・シーモア・ホフマンの初監督としての腕は、取り立てて洗練されているわけでもなければ、技巧に走るわけでもない。そこに広がるのは背伸びも誤魔化しもない、まさに等身大のジャックの日常。まるっきり無添加、無香料のホフマンの世界だった。

水泳指導を買って出た親友は、ジャックと共にプールに潜り「水中ではしっかりと目を見開くんだ」と言う。だらしなく突きだしたお腹を持て余しながら、ぶくぶく泡を立て、ぐほぐほとむせ返る。それでもジャックは必死に目を開こうとする。水中でそうしている間、喧騒は遮断され、世界はとても穏やかだ。それは巧くいかない自分の人生を水泡ごしに見つめる訓練のようでもある。目を閉じずに、ゆっくりと。それができて初めて次は「前に進む練習」へと移っていく。

自分の人生には何が必要で、今自分はどこに向かっていけばいいのか、また何を越えるべきなのか。これらの命題にレゲエのサウンド、あと友人たちのささやかな祝福が備わったなら、その後の結果がどうなろうと、その時点ではとりあえず、無敵なのかもしれない。この人生の第一歩ともいうべきクライマックスのドタバタを本作は戯曲の映画化らしく、室内の濃密な会話劇として抽出してみせる。

様々な情景にメタファーが香る。レゲエだってそう。ジャックは「レゲエの歌詞は分かりにくい」と言うが、「聞いてるうちになんとなく分かってくる」とも口にする。冒頭の「お前はラスタファリアンか?」との問いを後でもう一度繰り返したなら、ジャックはいつか「うん」と答えたかもしれない。NYの真ん中で立ち往生する彼が、なぜかレゲエの魂と近似値を取って歩みを進めている。その組み合わせが実に微笑ましい。きっとラスタファリズムとは世界の至る所に自然発生するものなのだろう。その中で歌われるメロディアンズの“バビロンの河”だって、世界中の至る所に。

相手役のエイミー・ライアンは『ゴーン・ベイビー・ゴーン』の悪母役や『グリーン・ゾーン』のジャーナリスト役とはまた違う役回り。目の鋭さから中年女性としての本音と建前のほとばしる彼女が、本作ではちょっと穏やかで、一筋縄ではいかない不思議ちゃんぶりを振りまいてくれる。

間違っても10代、20代が心酔するには夢がなさすぎるし、『クレイジー・ハート』みたいに枯れて初めて真意が体得できる映画とも違う。"Jack Goes Boating"は30代、40代の、ちょっと若さが立ち行かなくなった男女が初めて嗜むクスリのような。いや彼らが揃って挑戦する危険な水タバコのような。

そんな存在かもしれない。

この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

2010/09/05

スコット・ピルグリムvs. 邪悪な元カレ軍団

コミック、ゲーム、音楽。それらの要素が融合して、これまでに観たことのない新ジャンル・ムービーが誕生した。

Scot

『ホット・ファズ』のエドガー・ライト監督が手がける"Scott Pilgrim vs. The World"。雪に覆われたカナダの街を舞台に、職なし、バイトなし、ロック・バンドではベース担当の青年スコット・ピルグリムのエキセントリックなラブストーリーが幕を開ける。すべては、髪を真っ赤に染めた配達員ラモーナがローラー・ブレードで彼の視界に滑り込んできた瞬間にはじまった。スコットの体内で何かが音を立てる。それはつまり、ゲーム・スタート!の合図というわけだ。

少しずつ彼女との距離を縮めゆくスコットだったが、その先々で謎の男たちが敵意むきだしに襲い来る。「ファイト!」 突如として戦闘モードが始動。彼らはラモーナの元カレだった。一癖も二癖もある変人揃いの元カレ軍団はどうやら7人存在するらしい。はたしてスコットは、すべての敵をなぎ倒し、ラモーナの愛を勝ち取るボーナス・ステージへと辿りつけるのか!?

本作は新たな恋に付き物のオーソドックスな精神的葛藤を、ロールプレイング、コミックのコマ割、対戦型アクション、テレビのコメディ・ショウ、ボリウッド・ムービー、それに可視化して繰り出されるロック・ミュージックの洪水等などを核融合させながら、前人未到のアドベンチャー・ロック・オペラとして描きだしていく。

なにしろ映画冒頭のユニバーサルのファンファーレからしてファミコン時代のドット絵&チープな電子音楽なのだ。まるで、ようやく手に入れたソフトをファミコン本体にぶっ刺して、いよいよスタート画面が映し出されようかというときの高揚感。そうそう!これだよね!僕らの共通感覚は。

間断なくアイディアの注ぎこまれた表現文法はかなり鮮烈だ。そして本作もまた、リアリズムが登場人物の主観世界にまで及びゆく昨今の潮流を力強く後押しする作品と言えそうだ。

つまり人間の主観とは、本来、SF以上にファンタジックでアドベンチャラス、そして何よりも“自由”なもの。本作はそのことを本能的に体感させてくれる画期的な一作である。

この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

2010/06/22

英国産パペット・アニメ

英国産のパペット・アニメ大作"Jackboots on Whitehall"。どうやら『チーム・アメリカ』を彷彿とさせるかなりクセのある一品の模様。

時は第2次大戦真っ只中、ケント州に住む若者がナチス・ドイツ侵攻後のロンドンからウィンストン・チャーチルを救出し、ともに難攻不落のスコットランドへ。。。とくれば、主人公の声を演じるのはもちろん、ユアン・マクレガー。

この記事が参考になったらクリックをお願いします。

*****

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

2010/05/10

ザッツ・マジックアワー

2度のオスカー受賞、現アカデミー協会副会長。。。そんな偉大な父トム・ハンクスの影に隠れ、どう贔屓目に見えても派手とは言えない息子コリン・ハンクス。そんな彼が実生活で“結婚”という名の主演の座に立ったという。お相手は、亡き母と同じ“サマンサ”という名のパブリシスト。これは素直にめでたい。ということで、婚礼を祝して、彼の代表作にして日本未公開作「ザッツ・マジックアワー/ダメ男ハワードのステキな人生」をご紹介。

Thegreatbuckhoward_5

本作でさえもコリンは受け身だった。つまり引き立て役。映画の中での彼は、ジョン・マルコヴィッチ演じる奇術師バック・ハワードの付き人としてアメリカ津々浦々を営業して回る。その大半は田舎町だ。観客も中高年が多い。

このハワードってのがよくわからないやつで、バッタもん臭さをプンプンさせながらも、いざショウが始まると、オールド・スタイルの奇術で観客をそこそこに楽しませ、最終的には拍手喝さいを浴びる。これには舞台袖に控えるコリンも「ほー!」と感心してしまう。「派手さは無いが、それなりに凄い」と。お言葉ですが、それはそのまま、俳優コリンに対する世間一般の評価でもあるんですけど。

Great_buck_2
っていうかマルコヴィッチも、よくぞこんな役を承諾したものだ。彼はときどきこういった変な役、変な演技に好んで身を捧げるところがある。『マルコヴィッチの穴』然り、『バーン・アフター・リーディング』然り。

そんな真偽不明の彼がひとたび催眠術をかけると・・・

Great_buck_howard_2_5
あらら、このとおり???
ますますもって才能の真偽のほどは分からずじまい。
ちなみに本作は、ショーン・マッギンリー監督がその若かりしときに実際に付き人をしていた“とある奇術師”をモデルにしているのだそう。

人には誰でも、ひとつやふたつ、自分の理解を越えた不思議な存在を、不思議なまま残しておきたいという願望がある。幼いころに見つけた謎の洞窟は謎なままで今も変わらず故郷に存在していてほしいし、絶対カツラだと噂されていた高校教師の素の姿など今さら見たいなどとは思わない。魔法は魔法のまま、ずっと効力を保ちつつ、記憶の中で輝き続けてほしい。

本作のマルコヴィッチ&コリンにもそれと同じものを感じる。ほんの束の間、魅了し、魅了された関係性。これは本当に取るに足らない映画だが、油断して見ているとミョーに人生の普遍性に触れる瞬間がある。

Colinandtom_2
本作のプロデューサーを務めたトムも、ちゃっかりコリンの父親役として登場。ずっと伏せ目がちだったコリンの胸中にはどんな想いが去来していたのだろうか。 


↓このブログが参考になったらクリックをお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

2010/04/25

ヒットマンズ・レクイエム"In Bruges"

ベルギーにお立ち寄りの際はぜひ足をお運びください。ブルージュへ。

Inbrugesr_2
世界に名高い劇作家マーティン・マクドナーが映画界に進出するのは時間の問題だった。「ピローマン」「ウィートーマス」などで観客に衝撃と動揺を与えてきた彼。その舞台世界を一度でも体感すると「これが映像ならばどう表現されるだろう?」と想像の翼を広げずにはいられなくなる。

Mcdonagh_2

しかしここまで待ち望まれて、なおかつ世界中で絶賛された映画"In Bruges"が、まさか日本で未公開の憂き目を見るとは思わなかった。本作は『ヒットマンズ・レクイエム』という邦題でレンタルDVDのみ取り扱われているようだ。

主人公は歳の離れた二人の殺し屋レイとケン。ロンドンでひと仕事終えたばかりの彼らは、使った拳銃をテムズ河へ捨て、いまやボスの命令で中世から続く美しい水の都ブルージュに身を潜めている。 旅行者のごとく観光スポットめぐりを楽しむケンとは対照的に、レイはどうも心が落ち付かない。夜になると薄暗い灯りの中、霧が立ち込め、ブルージュの街並みはひときわ幻想性を増す。さらには街角からは映画撮影中のドワーフ(小人)までもが現れる始末(ほとんど夢の世界のようだ)。アルコール、美しい女性との出逢い、ドラッグ、小人の戯言。そこに突如ボスからの非情な電話がもたらされる。それは先の仕事でしくじったレイを殺せ、という指令だった・・・。

Inbruges2_3

ジャンルとしては「コメディ」に分類されることが多い。一昨年のゴールデングローブではこのカテゴリーにてコリン・ファレルが主演男優賞を受賞。しかし実際にはジャンルを大きくはみ出す異色作だ。マクドナーらしい血なまぐささを盛り込みながらも、絶体絶命に陥った各々のやるせない表情には思わず笑いがこぼれ、それでいて人生の悲哀すら感じさせる作り。コリン・ファレルも太眉をつり下げて、情けない表情を絶やさない。

特にこの十数世紀も荘厳な光と闇を讃えてきたブルージュの街並みはまるで一つの舞台装置のようでもあり、あの世とこの世の境目でさまよう登場人物たちの魂を、溜息に揺れる蝋燭の炎のごとく、意味ありげにひっそりと祝福してくれる。はたして彼らにとってブルージュは、人生の終着地となるのか、それとも新たな出発地となりうるのか。すべての答えは、壁際にたたずむガーゴイルのみぞ知る。

出演者&監督がアイルランド、北アイルランド、それにイングランドと何やら独立運動の血なまぐささを彷彿とさせるような配置になっているのも気になる。直接的には触れていないが、記号レベルで何らかの意図があったと考えても不思議ではない。

ちなみに、本作には『ハリー・ポッター』俳優が4人出演している。ヴォルデモード役のレイフ・ファインズは当然として、マッドアイ・ムーディ役のブレンダン・グリーソン、フラー・デラクール役のクレメンス・ポージー、そしてキアラン・ハインズ。キアランは最終作で初登場となる重要人物を演じるが、それが何者であるかはネタばれになるのでここでは明かさない。

↓この記事が参考になったらクリックをお願いします

「ウィ―・トーマス」の原題は「イニッシュモアの兵士」。どちらも英語版です。

TOP】【レビュー】【TWITTER

| | トラックバック (0)

その他のカテゴリー

50音順タイトル | awards | BOOKS | memo | NEWS | TOP | trailer | WORDS | 【Hero】 | 【my French Film Festival 2011】 | 【おいしい映画】 | 【お年寄りが元気!】 | 【アート×映画】 | 【クラシック音楽はお好き?】 | 【ドキュメンタリー万歳】 | 【メモ】英国王のスピーチ | 【レビュー】 | 【劇場未公開作】 | 【劇薬!】 | 【地域:TOKYO発】 | 【地域:アジア】 | 【地域:中東発】 | 【地域:仏国発】 | 【地域:北欧発】 | 【地域:南米発】 | 【地域:英国発】 | 【学園という名の社会】 | 【宇宙で逢いましょう】 | 【家族でがんばる!】 | 【文芸】 | 【新感覚アクション】 | 【映画×スポーツ】 | 【映画×偉人】 | 【生きるためのファンタジー】 | 【監督:クリント・イーストウッド】 | 【監督:ジョー・ライト】 | 【監督:ミシェル・ゴンドリー】 | 【紛争】 | 【素晴らしき、黙示録の世界】 | 【脚本:ピーター・モーガン】 | 【音楽×映画】 | アウシュヴィッツ訪問 | イベント、取材 | クエンティン・タランティーノ | ジョゼフ・ゴードン=レヴィット | スティーヴン・キング | スティーヴン・スピルバーグ | 一言レビュー | 今年のベスト | 今年のベスト(2013) | 今年のベスト(2006) | 今年のベスト(2007) | 今年のベスト(2008) | 今年のベスト(2009) | 今年のベスト(2010) | 今年のベスト(2011) | 今年のベスト(2012) | 全米BOX OFFICE | 再起復活ベン・アフレック | 旅の記録 | 映画業界