2013/08/03

【レビュー】マジック・マイク

 この映画を試写したとき、周囲は女性ばかりだった。いつものスティーヴン・ソダーバーグ作品とはえらく異なり、客席側には映画鑑賞とは思えないほどのフェロモン臭が漂っていたように思う。だがそれも当然と言えば当然か。なにしろ本作は、今ハリウッドでヒット作を連発するチャニング・テイタムが、かつて男性ストリッパーだった頃の逸話をベースにした物語なのだから。しかもその特殊なキャリアは主人公のキャラ付けとして用いられるのみならず、煌びやかなステージ・シーンとなって幾度となく観客の前にサーブされるのだ。この迫力。しなやかさ。そして観客を瞬時に魅了する力ーーー。

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2011/01/27

ソウル・キッチン Soul Kitchen

ファティ・アキン。彼の作品からは人種の混在から立ち昇る尊厳が見え隠れする。そしてドイツに居ながらにして、東洋と西洋の交錯するイスタンブールのボスポラス海峡にいるかのような潮の香りがする。

僕がロンドンのミニシアターで異国人に挟まれながら(もちろん彼らからすれば僕のほうが異国人だが)『愛より強く』という作品を観たとき全身に電流が走るような衝撃を覚えた。ポスターには「新時代のロミオ&ジュリエット!」という売り文句が書いてあったが、そんな茶を濁した言葉では始まらないだろう、と思った。これはまさに“叫び”の映画だった。愛に関する苦悶の叫び。またどんなに叫んでもその声は当事者以外には全く聞こえない。そんな絶望ともどかしさの混在する映画でもあった。

そんな情景を感動的なレベルにまで昇華させたファティ・アキンという才能に心底恐れ入って、エンドクレジットが終わってもしばらく席から立ち上がれなかった。ようやく立ち上がると背中が汗で濡れていて、冬の痺れる寒さの中ガタガタ震えながら帰途に着き、それで案の定、風邪をひいた。寝込みながらもずっとこの映画、そしてファティ・アキンのことを考えていた。「いつかこの監督は凄いことになる」と。

結果的に「なった」のである。凄い監督に。『愛より強く』はベルリン映画祭にて金熊賞を受賞、続いて『クロッシング・ザ・ブリッジ~サウンド・オブ・イスタンブール~』というドキュメンタリーが挟まり、『そして、私たちは愛に帰る』はカンヌにて最優秀脚本賞を受賞。そして最新作『ソウル・キッチン』はヴェネツィアにて審査員特別賞を受賞した。30代の若さですでに3大映画祭にて受賞を重ねてしまったのだ。

なので、僕は前文をもっと具体的に書き変えることにする。「この監督は次回作で頂点を極める」と。というのもこのファティ・アキン、『愛より強く』『そして、私たちは愛に帰る』に続く3部作最終章として“悪”について描いた新作を準備中なのだ(一部の報によるとボクシングを扱ったストーリーになるとか)。で、『そして、私たちは愛に帰る』でヘトヘトになったエネルギーを充電し次回作へ注ぐパワーに変えるために選んだ題材が、この『ソウル・キッチン』なのである。

Soul_kitchen

この映画に触れて面食らった。混沌がなにかを産み落とす瞬間を活写してきたこれまでの作風とはまるで違う。純然たるコメディだった。そして自分が何か大きな勘違いをしていたことに気づく。僕は天才や巨匠と呼ばれる人たちは自ら進んで、喜んで深刻な題材に身をさらすものとばかり感じていた。だがファティ・アキンも同じ人間なのだ。傷つきもするし、映画作りで疲労困憊した身体や気持ちをリフレッシュさせたいときもある。この映画に漂う底抜けの明るさを享受しながら、逆説的にこれまでの彼がいかに身を削って映画を織りなし、苦しみや悲しみをスクリーンに刻みつけてきたのかが理解できた。

と言いながら、この『ソウル・キッチン』ときたら、単純に“息抜き”と呼べるかというと、そう一概にはいえないパワフルなドラマなのだ。まずもって僕がこれまでに感じていた“ボスポラス海峡の香り”はしない。その代わりに舞台がドイツのハンブルグなのにも関わらず、映画はタイトルからも連想し得るソウル・ミュージックで溢れ返り、“ファミリー”の切っても切れない絆について描かれ、そしてジャンクな食材が天才シェフ(ただしアルコール中毒)の神ワザによって瞬く間に美味しい食事となってテーブルに並んでいく。まるで北米のブラック・ムービーがここドイツに出現したかのような国籍不明の混濁ぶり。しかしそこには当然、一人たりとも黒人は登場しないのだ。

『愛より強く』や『そして、私たちは愛に帰る』において主人公はトルコ~ドイツという自らのアイデンティティにまつわる“心理的距離”を自分の足で具体的に往復してみせる。対する『ソウル・キッチン』では福袋のように詰め込まれた様々な要素を駆使して、遠く離れた場所(例えば黒人が虐げられ這い上がった歴史を持つニューオリンズをはじめとする都市なのかもしれない)とこのハンブルグの小汚いレストランとを「移動することなく」精神的に直結させてみせる。この手法の変貌ぶりが心地よいグル―ヴを生み、観客の胸に迫ってくる。

「今後、ドイツではない他の場所を拠点にすることも常に考えている」

とファティ・アキンは言っていた。フィルムメーカーとして世界的な知名度を獲得した彼は今やヨーロッパのみならずニューヨークでだって映画製作できるだろう。というかそちらの方が資金が集まりやすいに決まっている。

ドイツのハンブルグに生まれ育ったトルコ系ドイツ人が、活躍の場所を世界に広げようとしている。でもだからこそこれからは「実際にその場所に立つこと」よりも「精神的な連帯」こそが重要となっていくだろう。例えばニューヨークに居ながらにして同時にハンブルクやイスタンブールと心を重ね合わせることのできるソウルフルな連帯が。『ソウル・キッチン』には笑いの中にそのような“世界のどこにいてもふらりと立ち寄れる居心地の良い場所”を感じ、ファティ・アキンによるひとつの意志表示を受け取ったような気さえしたのだった。

そして個人的にひとつ気になっていることがある。恐らく本作でいちばんメインとなっているスチールはこれなのだが、

Soul
これを目にして、ダ・ヴィンチによる傑作絵画のことを想起しない人はいないだろう。

The_last_supper_2 
ファティ・アキンの単なる悪ふざけなのか、それとも聖書にも何らかの精神性=ソウルを通わせようとしていたのか。そういう疑問が込み上げてきた頃合いにはせっかく初来日を遂げたファティ・アキンも既に日本を後にしていた。ほらね、人生はやっぱり少しだけ間に合わない。

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2010/01/03

ジュリー&ジュリア

40年前のパリと、現代のニューヨーク。食材、街並み、服装、家具に調度品だって香りを放つ。。。作品を取り巻くあらゆる美術が鮮烈に感性を楽しませ、そこに料理が供され、次の合言葉ですべてのバランスが調和する。

"Bon Appetit !"

Julie_and_julia_3   
きっかけは夫の転勤だった。ジュリア・チャイルド(メリル・ストリープ)のパリ生活が幕を開ける。平凡な主婦(←男性がこんな表現使っちゃ失礼ですよね。。。)の彼女はいつも明るく、何事にも前向きに取り組む、気持ちのいい女性だった。誰も彼女を嫌う者はいない。甲高い声、ヒョロンと長身な体型。使いこなせぬフランス語も気持ちでカバーしつつ、彼女が見出したひとつの題材は「料理」だった。手の込んだフランス料理の作り方を、“助手なし”でもできる家庭料理として英語で紹介したい。。。熱い想いが仲間を呼び、ジュリアは夢の実現に向けて少しずつ歩き始める。高尚と思われがちなフランス料理を庶民の目線に取り戻した彼女は、後に料理研究家として料理本やテレビ出演、それに独特のキャラにより「サタデーナイトライブ」でもネタにされるほどのセンセーションを巻き起こす。

そして物語は時空を超え、同時進行する。ジュリアと共に日常の冒険に踏み出すのは、40年後のニューヨーク・クイーンズに暮らすアラウンド・サーティーな女性ジュリー・パウエル(エイミー・アダムス)だ。朝、彼女の出勤風景の背後に摩天楼が浮かぶ。でもそこにはあるべき双子の構想ビルが手品のように消失している。時は2002年。彼女の生活圏には9.11後の影響が今も生々しく残り、彼女は公務員としてテロに関係する相談窓口を担当している。どんなに仕事や友人関係やこれからの人生のことで落ち込もうとも、彼女には宝物がある。それはかつてジュリア・チャイルドが著した料理本。アメリカ人にフランス料理を紹介した革命的な本だった。ジュリーは突如として思い立つ。日々、ジュリアが手掛けたあらゆるレシピを料理し、その模様をブログに掲載していこう。期限は1年間!その日のエントリーの末尾はこう締めくくられた。

"How far it will go, no one can say..."
(はてさて、どうなりますことやら)

別々の時代を生きるふたりが出逢うことはない。でも、彼女たちはそれぞれの辿る“物語”においてしっかりと繋がっている。女性であること。そしていま、料理と向かい合っていること。この2点を媒介に、40年もの時差を経て生きるジュリア&ジュリーは少しずつ、時間を同調させていく。これはスティーヴン・ダルドリー監督作『めぐりあう時間たち』で用いられた手法をもっとシンプル化したものと言えるのだろう。

この映画で主演女優のオスカー候補になったメリル・ストリープはいつものイメージを覆す針の振り切れぶり。底抜けの明るさの彼女の姿を目にするだけで観客も幸福感でいっぱいになる。ただ1つだけ彼女が思いつめた表情を見せるのは、夫との間に子宝に恵まれないことを示唆する場面だっだ。女性映画の第一人者ノーラ・エフロンはどうしてこのようなシーンを入れたのか。ひとつは彼女の人生を描くうえで欠かせない要素と考えたのだろう。加えて、ジュリアは子宝に恵まれなかったが、一方で本作は、40年後の現代にもなお、彼女の人生に感化された素晴らしい子供たちが次々と誕生していることを賛美する映画でもあるのだ。

物語のラスト、ジュリーがスミソニアン博物館にある展示品“ジュリア・チャイルドのキッチン”を巡礼する。

ジュリアの肖像に敬意をこめて、ジュリーはこっそりとバターを奉納する。“ジュリアの子供”から“母”へ、最初で最後のプレゼント。そしてこれを受け取るように、40年前のジュリアのもとへ幸福の郵便物が届けられる。

影響力とは過去から現代へ、ただ一方向に作用するものではない。これぞ映画の見事なタイムトラベル機能。日常レベルのささやかな演出が、ふたりの女性の関係性に(生涯のうちに言葉は交わさなかったにしろ)とても爽やかな後味をもたらしてくれる。

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