靴を脱いで、お邪魔します。

トム・ヨークによく似た係員は、鏡の前で何度も練習した風な好感度の高い笑顔を浮かべ、自信たっぷりに「窓側の席をご用意いたします」と言う。それでは機内で立ち回る際に何かと都合が悪いと思い、「あいるさいど、ぷりーず」と僕がリクエストすると、彼は「ノーノーノー」と人指し指を左右に振った。そんな些細なジェスチャーが精神的にこたえる。僕は魔法でもかけられるのかと身体を反射的に翻したりもしたが、係員はそれを意にも介さずに改めてこう告げた。

「つまり、あなたはラッキーなんです。まあ、機内に乗り込めば分かりますから」

**********

空港内は閑散としているのに、手荷物チェックには長蛇の列。ちょうど僕の前には韓国人の老夫婦が並んでおり、見送りの友人を何度も振り返っては「カムサムニダ!カムサムニダ!」と手を振っていた。列にはターバンを巻いた人や、チャドルを着込んだ人や、意味もなく「サンコンさん」と名づけたくなってしまうような人などが盛りだくさん。いろんな肌の色の人が並んでるもんだ。ここでは自分も例外なくマイノリティであり、空港職員の目からすれば、きっと僕とこの老夫婦は一括りにされてしまうだろう。あわよくば親子として一瞥されてしまうこともあるかもしれない。

それはそれで取るに足らないことだろうが、いずれにしても、こういう人種のるつぼにまみれていると、自分がここにいてはいけないような気がし、途端に走り出したい気持ちに囚われてしまう。また、係員に手荷物カバンを指差されて「ラップトップ?」と尋ねられているのになんのことやらさっぱり分からず途方に暮れた表情をしている先の韓国人男性を目にすると、こちとら束の間の即席家族を(一方的に)築かせてもらったせいか、「父さん・・・」などと遠い目で見つめてしまう。

そうしているうちに持ち物検査の順番が回ってくる。2、3人前になって各人が靴を脱いでトレイに乗せていることに気がつき、慌ててシューズの紐を解く。ソックスに穴が空いていないことを切に願いながら、慎重に靴を脱ぐ。よかった、穴は無かった。

たかが靴を脱いだだけ。それだけで全裸にされたかのような敗北感が身を支配する。床が冷たい。その上、金属探知機をくぐるとき無性に「ごめんください」と言いたくなる。日本の古きよき文化を多少に捻じ曲げた感じで放出しようとするそんな危険な衝動に対し「否!」と唱え、なんとか思いとどまる。

探知機は鳴らなかった。「ごめんください」とも言わなかった。けれど、警備員には止められた。前にいた韓国人のパパ(期間限定)は何もなしにスルーしたのに、なんで俺はこうしてボディチェック受けねばならんのか。「手を上げて」と言われて、言われたとおりに万歳をする。上半身のチェックが終わってからもういいだろうと思っておもむろに手を下げると、「ダメダメ、上げたままで」と言われて精神的にかなりヘコんだ。

ほとんどの男性はこのチェックを受けていたのだけれど、これは単なるボディ・タッチのゲームでもなんでもなく、警備員の態度は紳士的ながらも、その表情は真剣そのものだった。自分はいまマジで「危険か、否か」を判別されているのだ。そんなことを考えると、なんか「こそばゆい」を通り越して、今にも泣きそうな半笑いを浮かべてしまう自分がいた。

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ヒースローにて

イギリス滞在中、イスタンブールで英国人が死傷する爆弾テロがあり、こりゃあ帰国日(8月29日)の空港はたいへんなことになるだろうなあ、と予感していた。

ブリティッシュ・エアウェイズの離発着はヒースローの第一ターミナルで(これはブリティッシュ・エアウェイズの便に関して乗換えがスムーズにいくようにとの取り計らいらしい。他の航空会社を利用した場合、日本からの到着、日本への出発のほとんどが第3ターミナルとなる)、ヒースロー・エキスプレスを使うとパディントン駅からだいたい15分くらいで到着できる。普通、旅行会社で航空券を購入する場合、「だいたい3時間前までには着くように」と釘を刺されるのだが、この日は用心に用心を重ねた結果、15時45分のフライトなのに12時前には空港に到着。

で、実際の空港内はというとそんな殺気だった気配もなく、のんびりと時間は流れている様子。時折、リアル銃を構えた警官が隊列を組んで現われ、「泣く子はいねかー?」となまはげのような要領で怪しい人々を吟味して歩くのだけれど、何しろここはイギリスなので、その例えが適当かどうかは分からない。と、突然、リアル銃を構えた警官が顔を真っ赤にして叫び出し、何事かと振り返ると、利用客が荷物をベンチに置いたままトイレかどこかに行こうとしたらしく、「ダメダメ、荷物からは離れないで」と念を押されていた。一瞬張り詰めた緊張感は映画で言うスローモーションのようでもあり、そのシーンが過ぎるとあたりは元のスピードに踵を返すように戻っていった。

その後、ニコリとのしねえインド系の係員に「チャックイン時間は、だいたい2時間半前です」と無情の宣告。1時間くらいベンチでボーっとして過ごす。どこか売店を覗きたくとも荷物があるから離れられない。先ほどの警官は今では二階の位置に陣取って眼下の人々の往来に目を尖らせている。その目線に気付きもしない利用客がときどき軽々しく荷物を置き去りにし、案の定、頭上からの咆哮を浴びる結果となる。もちろん咆哮は咆哮なのでなんて言ってるのかは一向に理解できないのだけれど、怒られている本人はなんとなくテレパシーで分かるようで、打ちひしがれた表情で「分かりました」と最後は首をうなだれる。

チェックイン。カウンターの係員はトム・ヨークによく似た人だったが、別段ユラユラした話し声を駆使するでもなく、しっかりと明るい口調での対応。そして機内に持ち込める手荷物は一個までとのお決まりの説明を受ける。そのサイズには厳しい制限が設けられており、「あそこにあるボックスに入るかどうか試してみてください」と言われ、え、それ、どういう意味?と頭を悩ませていると、なるほど、そこには制限どおりの寸法で作られたプラスティックのボックスが備え付けられており、その上から手荷物を入れ込んで「はい、手荷物がちゃんと隠れました」と証明することで持ち込みが許可される、という大岡裁きにも似た寸劇がやりたいらしい。っていうか、こんなちっちゃなサイドバッグがNGなわけがねえ。ちなみに、このチェックを受けるまで、僕はそのボックスのことをゴミ箱だとばかり思っていた。

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DRAGON'S DEN

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かつて日テレ系で放送され、深夜枠からゴールデンにまで伸し上がった番組「マネーの虎」をご記憶だろうか?現在、BBCではその英国版がオンエア中で、初めて観たときには目を疑ってしまった。その名もズバリ「DRAGON'S DEN」。虎がドラゴンに翻案されているというだけでもその文化のギャップが面白いが、日本で民放が企画・放送していた番組をあちらの公共放送が踏襲しているという点も面白い。もちろんスタジオは、日本の明るく赤裸々な感じから一転して、英国らしいシックで落ち着いた雰囲気へ。もちろんドラゴンたちは、愛想笑いなどしないし指摘も単刀直入だから、ちょっと怖い。

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ステージを温めておく

結局、ステージでパフォーマンスを繰り広げていたミュージシャンの名前は分からなかった。MCは身体の大きな黒人の男で、「黒も白も金持ちも貧乏もない、みんな平等なんだ!」としきりに繰り返して観客を熱くさせていた。だがその直後、「ひとつジョークを言ってもいいか?」と問いかけ、「ノー!」と必死に声を上げる観客をものともせず、「バイクはどうして座って乗るかわかるか?」と切り出し、「それは、立って乗ると“TWO TYRE (too tired)”だからだ!」とのたまった。「オーッ!」と悲痛な叫びがそこかしこで巻き起こる。さっきまでの熱い雰囲気が台無しだった。

「ステージを温めておく」というフレーズはよく耳にするが、MCのダジャレを受けて登場したのは、ボブ・マーリーの息子、キマーニ・マーリーだった。

Hidepark_3 会場に歓声がこだまする。父にトリビュートを捧げるパフォーマンスの数々。それまで芝生に寝転がっていたオーディエンスが「おおっ!」っとステージ前に集結し、といっても激しい音楽ではないので、みんなで身体を揺らしながら、陽が落ちていく時間帯を泳ぐように体感した。

もうすっかりどこか見知らぬ草原にでもやってきたかのような解放的な気分だが、次の瞬間にハッとさせられる。

ここはロンドンのど真ん中なのだ。

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ハイドパーク礼賛

もうね、ノッティングヒルをある種の地獄と例えるならば(その例えもどうかと思うが)、ハイドパークは天国だった。早めにノッティングヒルを脱出してよかった。何せここでは自由に空気が吸える。一人あたりの敷地面積も充分確保できる。

そこではなんとも平和的な「カリビアン・ショウケース」というステージが繰り広げられていた。

無料ライブなので、無名のミュージシャンばかりなんだろうなと思っていると、ヒップホップにジャズにゴスペルにサンバに多種多様なジャンルがひっきりなし。のんびり寝転びながら眺めていると、目の前で小さい子供達がフリスビーをやり出した。つまり、僕がステージを眺める目線の途中で、常にフリスビーが飛び交っているわけだ。それは1度たりとも思うようには飛ぶことのないフリスビーだった。投げ方が悪いのか、それとも品質の問題なのか。

それでも子供達は楽しそうに円盤の飛んでく彼方を予測してガムシャラに走り、いちばんちっちゃな男の子に関して言えば、いちいちみんなとは反対の方向に走り出し、みんなと50メートルくらい離れた見当違いにもほどがある地点で「あれ!みんなどこ!?」などと我に返る始末だった。

しばらくして、彼らはクタクタに疲れて帰っていった。「疲れたね、でも楽しかったね」。彼らの中でフリスビーとは、投げるスポーツではなく、もはや“走るスポーツ”と化していた。

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ノッティングヒル・カーニバル

バックホリデーのこの日、パディントンから30分くらいあるいたところにあるノッティングヒルでカーニバルが行われた。この日に向けてはニュースなんかでも「スリに注意!」だとか「交通機関を使うよりは、歩いた方が目的地まで早く着ける場合があります」などとコメントされており、バックの映像としては「地下鉄になだれ込む人が多すぎてとにかくとんでもないことになっている映像」が使用されていた。

こんな近場でどでかいイベントやってんのに、これは顔を出さないわけにはいかないでしょう!そんなわけで勢い勇んで乗り込んだノッティングヒル。ここまでたどり着くだけでも物凄い人の波に揉まれながら、時には悲鳴をあげそうになりそうなほど黒人のお兄ちゃんたちに囲まれてしまったりもし、何とか騎馬警官の跋扈する「ヒル」なエリアに足を踏み入れる。よく分からんが、これがノッティング「ヒル」ってことなのかな。もちろん騎馬たちときたらボロボロとクソの散布に余念がない。ったく、クソも踊ってやがるぜ。

ということで、やっとこさ目的地まで到着したわけだ。じゃあ、さっそくカーニバルを拝ませてもらおうか!

で、そこで得られた結果としては・・・

Noting

・何も見えなかった。

・カーニバルの「カ」の字も見えねえ。

・つーか、人多すぎ。

・散布されたクソ、多すぎ(おいおい、騎馬警官!)。

・もういいかげん、お腹がすいてきた。

・マークス&スペンサーでラップサンドを買って食べた。

・ぜんぜんカーニバルっぽくないけど。

・おいしかった。

・もう帰りたい。

そんな感じで、お腹が満たされると変に弱気になってしまいました。こういう思考回路を経て、俺的ノッティングヒル・カーニバルは早くも終了(イベント自体は夜まで続いたいたようです)。

その後、敗北感に苛まれて首を垂れながらハイドパークを歩いていると、おやおやもういっこ、比較的のどかなイベントを発見しました。

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バンクホリデーの過ごし方

イギリスには年に8回の法定休日がある。NEW YEAR'S DAY、GOOD FRIDAY(イースター前日の聖金曜日)、EASTER MONDAY(イースター後の月曜日)、MAY DAY(5月の第1月曜日)、SPRING BANK HOLIDAY(5月の最終月曜日)、AUGUST BAK HOLIDAY(8月の最終月曜日)、CHRISTMAS DAY(12月25日)、BOXING DAY(12月26日)。

今年のAUGUST BANK HOLIDAYはレディング明けとなる8月28日。当然、多くの店はCLOSEDとなる…とばかり思っていたものの、郊外の小さな町ならばまだしも、ロンドンの街でこれが適応されると思ったら大間違いだった。試しにボンド・ストリートまで歩いて行ってみると、多くの店がOPEN状態。さっそくHMVに乗り込んで、ブリティッシュ・コメディのDVDを物色。

Little ・LITTLE BRITAIN 2ND SERIES £21.99
・THE LEAGUE OF GENTLEMEN 2ND SERIES £7.99
・THE LEAGUE OF GENTLEMEN 3RD SERIES £7.99
・FATHER TED BOX £39.99
・YES,PRIME MINISTER £8.99
・THE BEST OF PETER COOK & DUDLEY MOORE £7.99

以上のタイトルを抱えて店内をウロウロしていると、HMVの店員が寄ってきて軽くマークされているような気がして、こちらの極度の被害妄想かもしれないが、精神的にはアウェイの雰囲気漂う時間帯が続く。かとおもうと、店内に聞き覚えのあるイントロが流れ始め、BEN E.KINGの「WHEN THE NIGHT~♪」という歌いだしと共に、後ろの店員も「WHEN THE NIGHT~♪」と口ずさみはじめる。「STAND BY ME」である。なかなかいい歌声だったので何か一言声をかけてあげればよかったが、彼のヒゲ面がそれを微妙に妨げる。

というわけで、合計£94.94。日本円で2万2000円くらい浪費してしまった。レジでは女性店員に「あら、THE LEAGUE OF GENTLEMEN!私も好きだったけど、もうお腹いっぱいよ」と祝福を受ける。微妙な気持ちがさらに高ぶる。

Bolly 去り際、CDランキングの30位くらいの、はっきりいってそんなステータスなんてどうでもいいところに、その名も「bollywood」という3枚組みCDを見つける。40年代~80年代までのインド映画音楽の数々が「DISCO」、「ROCK & ROLL」、「KITSCH」の3カテゴリーに分類。そのカテゴライズもどうなんだ。もちろんこれも購入。どういうわけか「£6.99」のものと「£8.99」のものとがあり、その2ポンド分の差異が肉眼ではまったく確認できない。まあ、日本でもそういうディスカウントショップってあるけどさ。ここは間違いなくHMVなんだからさ、ちゃんとしようよ。

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天使のような子供たち

ようやっと会場を出てレディング駅への道のりに乗ると、目の下に涙模様のメイクを施した黒ドレス姿の女性がいて、誰構わず罵っている現場に出くわす。彼氏のような人が懸命にたしなめているが、彼女はその行為が天命だと勘違いしているのか、一向にやめる様子はない。

そんな光景に気をとられていると、10人くらいの子供達に「もう帰んの?」と声をかけられた。

「うん、そうだよ」と答えると、「じゃあ、リスト・バンドをちょうだい!ちょうだい!」とねだられる。予想でしかないが、多分、彼らは地元の子たちで、毎年こうやって無料でライブを見るためにあの手この手で策を練っているのだろう。

いくつかのイギリス映画で見た子供達のように凄く健気に思えてきて、「ああ、いいよ。でも、このバンド、取れる?」と手を差し出すと、みんな「サンキュー!」と大はしゃぎ。どうすんのかと思って見ていたら、これがまたなんとも万全の役割分担で、「おい!お前の出番だ!」とガキ大将っぽい奴が声をかけると、「ほらきた!」とばかりにいちばん歯の強そうなちっちゃい子が飛び出してきて、周りに「がんばれ!がんばれ!」と祝福を受けながらリストバンドの接着部分に懸命に歯を立てる。そうやって始まったリストバンド解除作業。「うーん!うーん!」と少年は必死になって歯を駆使。まるでこの日のために1年間、歯磨きを欠かさなかったかのようだ。

数分後、見事にバンドは少しヨレヨレな形で解除された。その代償として、私の手首は少年のヨダレでダラダラに。何度か狙いが反れて突き刺さった歯の感触も深く浅く残っている。そんな彼らといえば、獲物が手に入るとその態度も実にあっさりしたもので、次の獲物を探すために「わーっ!」っとすぐに消えていなくなった。

彼らは無事、パールジャムのステージを見れただろうか、と帰りの列車の中で幾度となく思い出す。あの歯の強そうな子。あんな頑張り屋さんが、結局、いちばん貧乏くじ引いてライブ見れなかったりするんだよね。まあ、そういう奴がいずれガキ大将になって、また下っ端の子に同じことさせるんだろうけど。

列車の中で何度かまどろむ。あまり意識はしなかったが、ずっと徐行運転が続いていた。到着間際になって「ちょっとしたトラブルがあって徐行運転を続けて参りました。でもだいじょうぶ。すぐに到着です」とアナウンス。

パディントンのホテルに帰宅すると、24時ごろからBBC2で「レディング・フェスティバル・ダイジェスト」がオンエア。見逃したパールジャムやMAXIMO PARKをブラウン管越しに体験。番組進行の部分はどうも会場からの生放送らしく、マイクが数々の雄叫びを拾っている。

さっきまで、あのテレビの中の風景にいたのに、いまはテレビを眺める側の人間になっている。このたったブラウン管一枚の仕切りを移動するのに、結構な体力を消耗したものだ。

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やがて陽も暮れはじめ

その後、SLAYER、BOY KILL BOY、KLAXONS、HOT CHIP、PKACEBOなどなど。特にSLAYERは、ファン層がヤバイ。そんな革ジャンみたいなの着て(しかも銀色に輝く突起物がいっぱい付いている)暑くございませんか?などと問いただしたくなるも、いったん「ああん?」と凄まれれば即アウトな感じなので、ここは何も触れずにおく。 一言たりとも歌詞が聞き取れなかったが、圧倒的な迫力と雄叫び。ヘッドバンギングのしすぎて首が取れそうになっている人を何人か見かけたが医者は必要なかったようだ。

Reading01 会場内では立ち上がって元気に絶叫を続ける人もいれば、相変わらず寝転がって死んだように眠っている人もいる。しかしいったん臓器に沁みる縦ノリのリズムが響き始めると、死人たちもムクリ起き上がりゾンビのように惰性で上下。会場のボルテージも上がる、上がる。

気になっていたHOT CHIPのステージも面白かった。メンバーが横一列に並んでリアルタイム・チャットでもしているかのような異様なパフォーマンス。結果的にそのシンプルで実直な感じがオーディエンスの中の何かに火をつけ、なんだか凄い盛り上がりに。それほど有名じゃないのかと思っていたら、彼らのアルバム「WARNING」は英国&アイルランドにおいて過去12か月内にリリースされたアルバムの中から最優秀作品を決定するマーキュリー・プライズにノミネートされるまでに評価されていた(→9月5日にARCTIC MONKEYSの“Whatever People Say I AM, That's What I'm Not”の受賞が発表されました。HOT CHIP、残念!)。ブリティッシュ・ポップスの中で明らかに異色の存在。

PLACEBOのギターの人は最後に楽器を木っ端微塵に破壊して帰っていった。実際、彼の家ん中もあんな感じなんだろうか。いや、意外と几帳面に整理整頓する性質と見た。

この日は日曜ということもあり、英国の鉄道ダイヤは通常と大きく異なる。しかも連日のテロ騒ぎで時々「点検作業」が相次いでいることも懸案事項の一つだった。そして、このおびただしい数万人の観客がいっぺんに帰途に着く終演時の大混乱を考えると、その心配はだんだんMAXになってきて、パールジャム、MAXIMO PARK、アニマル・コレクティブといった各会場の大トリを務めるアーティストのステージを泣く泣く断念して、レディング駅へ。

帰り道、何度か方向を間違えて何だかとんでもないところに出てしまう。改めて係員に道順を聞くと「いったんメイン・ゲートまで戻りなさい」という酷い通告。サヨナラしたゲートに何度か再会してしまう、なかなか縁の切れないダラダラ交際みたいな時間帯が続く。

その間、会場には「パールジャム!パールジャム!」とはしゃぐ人たちの群れがひっきりなしに押し寄せている。まるでレディングの盛り上がりはいまからが本番とでも言わんばかりの高揚感があたりを包み込む。パールジャムのステージは22時ごろから24時近くまであるらしいが、実際これだけを観にやってきているような小ギレイないでたちの観客も多し。他のアーティストなんて眼中にないってか。「一日券」の使い方も様々である。

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BSSがやってきた

Bss レディング3日目ラインナップの中で楽しみにしていたカナディアン・バンド、BROKEN SOCIAL SCENEがBBC1ステージにやってくる。このグループのメンバー数は常に流動的で、とある最大観測時には17人くらいにも膨れ上がっていたんだとか。

前ステージのヒップホップ・グループGOLDIE LOOKIN CHAINがかつてない盛り上がりを獲得している側から、「あ、すみません…、あ、踏んじゃった、ほんとすみません…」とスゴスゴ前方へ移動。ようやくGOLDIEのステージが終わり、さあ立ち去ろうとする観客とは全く逆流する形で更なる前方へ。くっそう、あたりは背が高い奴ばっか。なんとか場所をキープしようと、狭い足位置で小刻みに座標調整。ステージではメンバーがチューニングを開始。その間じっと待ちわびる群集は、たびたび見舞われる飛来物のせいで頭上注意に余念がない。ちょうど頭2個分くらいのピーチボールならまだしも、ときどき水の入った紙コップまでもが飛んでくる。突如「ビシャーッ!」と激しい音がして隣の男を見るとなんだか激しく濡れている。男は極めて冷静に「耳に入った…」とタオルで耳を丁寧に拭いていた。

これらの水は係員がたびたび群集に投入しているものだ。内部で誰かが脱水&悶絶せぬように、おのおの勝手に補給してくれい、ということなのだろう。でも時々、それが後ろまで行き渡らぬままに、一口飲んでそのまま頭上に放り投げる輩がいる。水リレーを放棄するとは、こんちきしょうめ。

Bss02 そうやって戦々恐々としている間に、ステージ上にはズラリ8人くらいのホーン部隊が並び、これまでのレディングの縦ノリとは一味違った響きが、彼らの壮大なパフォーマンスの開始を告げる。続いてゾロゾロとメンバーが出現。大所帯バンドなだけあって奏でられる音が分厚い波となって耳に届く。同じカナディアン・バンドのMETRICのエミリー・へインズがゲストボーカルとして参加したり、ホーンやストリングスを足したり引いたりと、曲によってガラリと編成を変えて届けられるお馴染みのナンバーたち。頭上では相変わらずビーチボールやら紙コップが飛び交っている。グルグルと会場の熱気を確かめるように形を変えて繰り返されるメロディーを受けて、隣にいた男女グループが円陣を組んで何やら聞き取れぬ掛け声を掛け合いながらグルグルと回転し始める。当然、そこにも紙コップが投げ込まれる。びしょ濡れになる彼ら。しかし回転をやめる気配はまるでない。それは惰性なのか、それとも本能なのか。

ちなみにBROKEN SOCIAL SCENEは、現在アメリカで公開中の映画『HALF NELSON』の音楽も担当。公式サイトでも楽曲が聴けるので、ぜひチェックされたし。

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ラストステージだなんて知らなかった

Hots_1 まさか帰国してから、彼らの解散宣言を知らされるなどとは思ってもみなかった。そしてその解散宣言はなんと僕の目の前で行われたのだという。今になって思えばそれなりに会場が動揺していたようにも思えなくもない。情けなくも彼らが何を喋っているのかよく分からなかった僕は、ただ「凄い演奏だなあ」と口を開けて見ているばかりで、きっと自分の耳が「separate」や「decided」などというキーワードを拾ったとしても、まさかそれが「解散」に直結する言葉だとは思いもしなかっただろう。でもいま振り返ると、この日のHOPE OF THE STATESのパフォーマンスはその決意のほどが頷けるくらいに圧倒的なクオリティだった。遠目で眺めていたせいか、バンドの音が完全一体となって身体に飛び込んできた。どんなに激しく爆音を奏でようと、音の粒子が鋭く会場に突き刺さろうとも、それらを形容するには「繊細」の一言しか思い浮かばない。演奏が始まった時にはまだ余裕があった会場(テント張りになっているのだが)が、いつの間にか人で埋め尽くされていた。彼らは身体でリズムを刻むでもなく、腕を上下させてタイミングを計るでもなく、まるで峠から遠くの落雷でも眺めるかのように荘厳な表情で、じっとステージを見つめていた。

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ダイブ禁止

Fr_1 リーズ出身の“Forward Russia”は、つい最近になって日本版が発売されたばかりのパンク・ロックバンド。とにかくヴォーカルのハイテンションかつキーの高い歌声&マイクのコードをグイグイと首に巻きつけるパフォーマンスも相俟って、後から確認すると一枚たりともきちんと撮れた写真はなかった。でも、それでこそForward Russiaなのだし、画像に行儀よく写りこんだ彼らの姿など誰が見たいものか。 彼らはいつもライブでバンド名の略称「FR」を記号化した「¡ !」とプリントされたTシャツを着用しており、この日に会場のあちこちで撮った写真を見返すと、そこにやたらと同じTシャツを着た輩(ファン)の写りこんでいるのを確認することができた。

YOU TUBEで目にしていたとおり、彼らのライブにダイブは付き物で、オーディエンス側からステージに向けて次々にダイブ人間がベルトコンベアーのごとく運ばれてくる。なんかこんなシーンをチャップリンの映画で見たな。そのダイブの流れを察知し素早く5人がかりで体勢を構える屈強な係員たち。まるで湖で釣ったブラックバスをその場で放流するかのようにキャッチ&リリースは繰り返される。

Dive_1 ちなみに会場には、気休め程度の注意事項として「ダイブ禁止」のマークが貼られてある。このキュートな感じは、むしろ「ダイブ奨励」と受け取れなくもない。

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もうなんだか凄い人数がいる

いよいよレディングに到着。駅周辺は比較的穏やか。

Reading02 だがタクシー乗り場には長蛇の列。フェス会場へタクシーで乗りつけようなんて、このブルジョワ野郎たちめ!そんな心の中の叫びが、後で悲鳴に変わる。もう会場までの道には途方もない人の数。いや、車両は車両で、それはもう大渋滞なのだが。

歩けど歩けど目的地は見えず、道脇にはいかがわしいダフ屋と、よく分からないTシャツ売りと、あとビールをダースで売っている店が立ち並ぶ。30分くらい歩いて、やっとこさゲートらしきものが見えてくる。だがメイン・ゲートまではさらに歩く。無数のテントが見える。キャッシュコーナーがある。悪名高きトイレが異臭を放つ。ぬるいビールをダースで預けると代わりに冷えたビールをくれるという比較的現実的な魔法を施してくれるというスポットを横目で見ながら、いよいよ入場。

Gate_1 いかつい係員が「液体状のものは持ち込み禁止!と言っているような気もしたのだが、なんのチェックもなくリストバンドを高々と上げながら入場。(左の画像は帰りに撮ったものなんだけどね)

Metric02_1 最初に駆け込んだBBC1ステージではカナダのバンド、METRICのステージが始まっていた。たった30分という持ち時間ながら、カーディガンズにも似たキャッチーなメロディーと女性ボーカルの声の響き、バックのステージ慣れした堅実な演奏が次々とオーディエンスを呼び込み、「Poster of a girl」ではキーボードが奏でるキーとなるメロディーが幾度も幾度も繰り返されるごとに会場のボルテージが周期を重ねて確実に上がっていく。

さあ、次へ移動、移動、と踵を返すとそこで寝ている誰かを踏みそうになって驚く。踏まれそうになった方は別段驚いている様子もない。踏まれたって全く平気な涼しげな素振りを見せる。じゃあ、思い切って踏んでやればよかったかな、と一瞬思う。

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いざ、レディングへ

Readingst レディング・フェスティバル。といっても、キャンプも連日でもなく、ほんの3日目だけの参加だった。

距離的には、ロンドン・パディントン駅からGREAT WESTERNに乗って40~50分ほどで到着。だいたい10分間隔で電車が出ているのだけど、フェス自体が連日11:30~12:30くらいには始まるので、だいたい目安の30分くらいは早めにパディントンに到着して窓口に並ぶのが得策だろう。その時間、列はだいたいはREADING行きっぽい人たちばかりで(何となく雰囲気で分かる)、そういう人たちは「CHEAP DAY RETURN TICKET PLEASE!」と一言で用事が終わるのだけれど、フェスと全く関係のない家族旅行者なんかが入り込んでいると、交渉&子供がわめくなどで時間がどんどん過ぎていく。窓口には長い列。しかし窓口で奮闘中の一家(主にお父さん)にはそんなことお構いなし。

どうやらこの国では、列に並び、それなりの時間をかけて用心深くチケットを買い求めることは当然の権利ですらあるかのようだ。その後ろで「時間がない、ない」と焦っている自分がバカみたいに思える。

往復切符を握り締め、7番ホームに走る。もう出発時刻を過ぎている。改札でターバンを巻いたインド系の切符切りに切符を見せると「走れ!」というので、とにかく走る。車掌は待っていてくれた。「サンキュー!」と大声で手を振ると「It's alright!」と返してくれる。その後、車内で筋肉痛で死に掛ける。まだフェス、始まってもいないのに。

自由席がなく、昇降口の付近にある簡易席に座る。

まもなく改札が始まる。一等席から自由席へどっと人の波が押し寄せてくる。ちゃっかり一等席に座っていた乗客たち(主にREADING行き)が大量に追い出されてきたのだ。

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UK日和

行って来ました。UK。
中一の夏に初めて訪れてから、もう何度目になるでしょうか。
というか、僕ってよく考えると英国以外の海外を知らないんですね。それなのに大冒険してきた充実感でいっぱいな自分が情けなくもありますが・・・ともかくも、UK日和です。

今回の最大の目的は、ロンドンはパディントン駅から40分くらい離れた街、レディング(Reading)にて開催される野外フェス“レディング・フェスティバル”に乗り込むこと。

Londoners_1 もちろんながら、テロ未遂の余韻もいまだ強く残る空港では銃を構えた武装警官に多数すれ違い、平和という名のありがたいぬるま湯に浸りきった自分としてはナマの銃を目にするなんてのは初めてのことなので、それはそれで多少緊張。しかしながら実際ロンドンの街へ飛び出してみると、多種多様な人種が相変わらずごちゃ混ぜになって暮らしており、パッカパカとのんびり移動中の騎馬警官の愛馬からは、所構わずボロボロとどでかいクソが「ジャックスポット!」と叫ばんばかりに勢いよくこぼれ落ち、知らず知らずのうちに踏みしめていたアスファルトの変色部分が実はそのクソが乾燥して褐色化したものだと知ったそのとき、「これこそテロだ!」と世の中すべてを敵に回してうっちゃってしまいたい気分に包まれたりもしたものでした。

そして、ふと頭上を見上げれば、「WE ARE LONDONERS」というキャッチコピーの垂れ幕がいたるところにぶら下がっている。アウトサイダーとしては「LONDONERS」の「ONE」という部分が赤文字になっているのに「おっ」と反応してしまうところで、つまるところ同時に「WE ARE ONE」とも読めるわけなんですね。まあ、世間的には何が起こっても普段と変わらないペースでそれぞれの生活を邁進しているイメージの強いロンドンとしてはそのメッセージも少々大味な感じもし、実際のところはオリンピックに向けての国内外へのアピールにすぎないのかもなあ、と考えているところです。

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