2019/08/23

『アバウト・タイム』削除シーンのこと

リチャード・カーティスによる2013年の作品『アバウト・タイム』には、ファンの間でも大きな話題となった削除シーンがある。それが「アビー・ロードの渋滞」という場面。自宅で産気づいた妻を車に乗せて病院へ向かう最中、ビートルズのジャケット写真で名高いあの観光名所でいつもの大渋滞が発生している。少しでも早く車を進めるには、記念撮影するファン達をできるだけ迅速に捌かねば。さあ、健気なティムはどうやってこの場を切る抜ける? 

キャストの間でも好評だったシーンなのだが、最終的な判断でカットされることになったようだ。カットの理由については自ら推測するしかないが、いくらこのシーンが際立っていたとしても、ラストへ向かう中でここだけ際立ちすぎてしまうと本末転倒だ。カーティス自身が、勢いのあるノリではなく、もっとしっとりとした流れで全体がまとまっていくことを望んだのだろう。

もう一点、音声解説に耳をすませていると、脚本の段階ではこの場面で「スペシャルゲストが登場する予定だった」そうで、それが叶わなかったことにより、当初の構想からやや離れたものになってしまったことも考えられる。

ともあれ、ビートルズがかの有名なジャケット撮影を行ってから8月8日でめでたく50周年を迎えた(この日はファンが大集結して大盛り上がりだったようだ)。そしてカーティスは自身が脚本を務めた『イエスタデイ』にて、これまで以上にビートルズという存在に真正面から向き合っている。惜しくも幻となってしまったが、この削除シーン、いまにつながる大きな布石となっているようにも思えるのだった。

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2012/05/07

昨晩の月

昨晩の月を見つめていると、穴に吸い込まれそうで怖くなった。

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また、同時にコフィ・アナン前国連事務総長の話を思い出していた。

彼がまだ幼い時、確か幼稚園の先生だと思うのだが、生徒を周りに呼び寄せて真っ白な模造紙を見せたのだそうだ。その真ん中には黒マジックで小さな点が描かれている。先生はみんなに尋ねた。「さて、これは何でしょう?」 皆は「小さな点!」だとか「黒いシミ!」とめいめいに答える。

ひととおり答えが出そろってから、先生は驚いた顔をしてみんなの顔を覗き込んでこう言った。

「あなたたち、こんなに広大な世界の中で、たった一点にしか目がいかなかったの?」

生徒らは先生の質問の意味をようやく理解し、アナン氏もこのときはじめて世の中にはマクロとミクロの二種類の視点があることを理解したのだとか。

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2011/09/06

【メモ】コリン・ファース「アクターズ・スタジオ・インタビュー」

Insidetheactorsstudiogallerycolinfi 先日NHK-BSにて放送された「アクターズ・スタジオ・インタビュー」にて『英国王のスピーチ』の主演コリン・ファースが登場した。

イギリスで演技を学びながらも、他校とは違いアメリカ(特にこの番組収録が行われる演技学校アクターズ・スタジオ)で主流のスタニスラフスキー・システムさえも手ほどきしてくれたという彼の出身校。ゆえに役との真向かい方にも非常に分析的、方法論的な思考が垣間見えた。

たとえば役作り上の着眼点として「差し迫った困難にどう対処するかという点にこそ、キャラクターの個性が現われる」と語る彼。

これを踏まえた上で、「あなたが脚本を受け取ってまず行うことは何ですか?」との質問にはこう答える。

「まずは一度、読書するみたいにサッと読む。自分が演じる役のことなど考えずに。二度目はそのキャラクターを分析しながらじっくりと。その時、ふたつのことを意識する。一つ目はまず、そのキャラクターがどんな人間に憧れているのか、ということ。たとえばジョージ6世はヘンリー5世のようになりたかった。二つ目はユーモア。どんなシリアスな題材でもそのキャラクターの中に香るユーモアを見つけるよう努力している」。

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2011/09/03

【メモ】英国王のスピーチ

『英国王のスピーチ』のDVDがリリースされたので、さっそく再見。もともと舞台劇として書かれた作品だけに、フィールドが映画に移ってもやはりバーティとライオネルの立ち位置、距離感が非常に際立った演出効果を生み出している。その一歩分だけ引いた立ち位置、散歩に出かけたふたりがどんどん離れていく距離感に胸が詰まる。また、あれほど俳優としてステージに立ちたかった(それでも叶わなかった)ライオネルが、英国王室という世界最大の“演劇性””儀式性”を前にして裏方の言語療法士として見事に、いわば演出家デビューする様、また彼がそれを鼻にかけるでもなく、妻にさえ打ち明けられず、王とひそやかなる親友関係をはぐくむ様がとても魅力的に紡がれていく。

ラストでロイヤル・ファミリーがバッキンガム宮殿のバルコニーから手を振るシーンがある。再見した際、集まった民衆が拍手で国王を讃える様子を、ライオネルが背後からちょっとだけ背伸びして覗きこもうとする仕草に気づいた。ほんとうは彼も拍手をもらいたい側の人間だったのだ。一瞬だけその“拍手”に誘われるライオネルだが、すぐに首を引っ込めて、その場でスッと前を向く。そのとき思った。もしかすると、あれほど嫌だった王位に就き立派にスピーチをこなした王の姿は、いわばライオネルの写し鏡でもあったのではないか?

むしろ「ここに居ていいのか?」とずっと自答していたのはむしろライオネルの方だったのかもしれない。彼は結局ステージには立てなかった。が、彼の分身たるジョージ6世はいま表舞台で全身に民の祝福を浴びている。

「これでいいのだ」

と彼が思ったかどうか詳述するのは野暮ってものだが、少なくともそれに似た宿命を受け入れるまでの道のりこそ、『英国王のスピーチ』が刻む見事な感情の動線なのだと感じた。

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